大量絶滅事件を生き抜いた哺乳類「衝撃のスピード」で起こった多様化…ついに始まる「現生動物」への道(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

 

大量絶滅事件を生き抜いた哺乳類「衝撃のスピード」で起こった多様化…ついに始まる「現生動物」への道

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 約46億年と言われる地球の歴史において、生命が誕生は、遅くとも約39億5000万年前と言われています。そして、最初の人類が登場するのは、約700万年前。長い地球の歴史から見れば、“ごく最近”です。

 

  【画像】ヒトの祖先をたどって行きつく最古の哺乳類が選んだ生活の場

 

 そのホモ・サピエンスまで続く進化の歴史をたどる壮大な物語をお届けします。前回に引き続き、白亜紀末期の大量絶滅とその後の衝突の冬に覆われた地球を生き抜いた哺乳類について解説します。  *本記事は、『サピエンス前史 脊椎動物から人類に至る5億年の物語』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

驚くべきスピードで多様化する哺乳類

新生代の古第三期を中心に見た地質時代の時代区分

 約6600万年前に新たに始まった時代を「新生代」と呼ぶ。新生代は、古いほうから「古第三紀」「新第三紀」「第四紀」の三つに大きく分けられている。それぞれの時代はさらに「世せい」と呼ばれる時代単位で区分される。  たとえば「古第三紀」は、古いほうから「暁新世(ぎょうしんせい)」「始新世(ししんせい)」「漸新世(ぜんしんせい)」の三つに分けられている。それぞれの境は、暁新世と始新世の境が約5600万年前、始新世と漸新世の境が約3390万年前だ。そして、古第三紀は約2300万年前に終わる。  新生代の開幕期である暁新世の初頭に、獣類ーー真獣類と後獣類はいっきに多様化した。それは、「驚くべき」という言葉にふさわしいスピードだった。これまで「真獣類」とひとくくりにしてきたグループに、ヒトの両手の指の数ほどのグループが誕生していたのだ。  白亜紀の各生態系では、恐竜類が多くの“地位”を占めていた。白亜紀末の大量絶滅事件で、その“地位”がぽっかりと空いた。これによって、獣類は躍進のチャンスを手に入れた……と考えられている。  そう。あくまでも、「考えられている」というレベルであり、暁新世初頭の真獣類に何があったのかはさだかではない。  発見されている化石が少なすぎて、精緻な物語が明らかになっていないのである。「気がついたときには、増えていた(多様化した)」というイメージである。実際のところ、多くの研究者がコンピューターを用いた解析を行ったり、現生哺乳類のゲノムを用いた分析を行ったりしているが、暁新世初頭に起きた真獣類の多様化の全容は、明らかになっていない。「さらなる化石の発見が期待されている」という状況が長らく続いている。

 

 

 

暁新世の進化解明に大きな役割を果たすゲノム

 さて、“ヒトに至る系譜”は、これまでも多くの仲間たちと分かれてきた。暁新世が始まったとき、この“分かれ”は、急速に、そして、激しく展開した。  有胎盤類における暁新世の進化解明に大きな役割を果たした存在が、「ゲノム」である。  現生種がいるグループでは、その進化の解析にゲノムーー遺伝子情報を用いることができる。  ある種のゲノムを調べ、他種のゲノムと比較して共通点と差異を見出す。化石種の場合、化石に残った形状だけが手がかりとなるけれども、ゲノムにはさまざまな情報が記録されている。化石に残らない特徴だけではなく、研究者がこれまで気づかなかったような微細な特徴を拾い出し、あるいは、研究者が意識的・無意識的に「重要」と勘ちがいしていた情報も客観的に取りあつかう。  これによって、種の近縁関係がより明らかになり、そして、進化の分岐とその時期を推測することができる……とされている。  ただし、現在の科学技術では、その遺伝子情報のちがいが、どのような“特徴”として、姿に投影されているのかまでは、わからない。「遺伝子のちがいはあるけれども、その姿はわからない」が、現状である。絶滅した生物の姿を知るためには、化石に基づく復元以外に術すべがない。  そんなゲノム解析によると、暁新世が開幕し、有胎盤類の歴史が本格的に始まったとき、すでに“ヒトに至る系譜”と袂を分かっていた大きなグループが二つある。

アフリカ大陸と、南アメリカ大陸の系譜

左上:海牛類「ペゾシーレン(Pezosiren)」。アフリカ獣類を構成する海牛類の例。ジャマイカに分布する始新世の地層などから化石が発見されている。全長2mほどの「最初期の海牛類」で、四肢をもつ 左下:長鼻類「モエリテリウム(Moeritherium)」

 一つは「アフリカ獣類」と呼ばれ、もう一つは「異節類」と呼ばれる。  アフリカ獣類は、その名の通り、アフリカ大陸を故郷とする大きなグループである。代表的なものとして、ゾウの仲間である「長鼻類(ちょうびるい)」、ハイラックスの仲間である「岩狸類(いわだぬきるい)」、ジュゴンの仲間の「海牛類(かいぎゅうるい)」、ツチブタの仲間である「管歯類(かんししるい)」、ハネジネズミの仲間である「ハネジネズミ類」などがある。  いっぽうの異節類は、アルマジロの仲間である「被甲類(ひこうるい)」と、アリクイの仲間の「有毛類(ゆうもうるい)」という二つのグループで構成されている。  アフリカ獣類は“アフリカ大陸を故郷とするグループ”であり、異節類は“南アメリカ大陸を故郷とするグループ”である。現在の地球では、他の大陸にも生息が確認されているけれども、かつてはそれぞれの大陸に固有の動物群だった。  アフリカ大陸固有、南アメリカ大陸固有ということは、両大陸が他の大陸と分かれる前の“超大陸時代”に、原始的で共通の祖先となる未知の真獣類が、それぞれの大陸地域に進出していたということでもある。そして、白亜紀に進んだ超大陸の分裂にともなって、固有の進化を遂げた。  ただし、ゲノムが示唆しているとはいえ、化石の記録は乏しい。例えば、アフリカ大陸における有胎盤類の化石記録は約6100万年前のものだ。暁新世開幕時の情報がない。  確かなことは、アフリカ獣類、異節類は、私たちと同じ有胎盤類であっても、かなり“遠縁の親戚”だということだ。

 

 

 

 

ヒトに至る系譜はどこから始まった?

「アフリカ獣類・異節類との分岐」に至るまでの案内図

 アフリカ大陸の「アフリカ獣類」と、南アメリカ大陸の「異節類」と分かれていた……ということは、“ヒトに至る系譜”は「この二つの大陸以外を故郷とする」ということでもある。

 

  現在の地球においてオーストラリア大陸が有袋類(後獣類)の“城”であることを考えれば、“ヒトに至る系譜”の故郷は、北アメリカ大陸、もしくは、ユーラシア大陸が有力だろう。

 

  この両大陸を故郷とし、“ヒトに至る系譜”を含むグループは、「北方真獣類」と呼ばれている。

 

  読んで字の如く、北半球の大陸で暮らしていた有胎盤類である。

 

  暁新世が始まった時、すでに北方真獣類の内部でも多様化が進んでいた。

 

  この時点で、“ヒトに至る系譜”と分かれていた北方真獣類のグループ(イヌやネコになるグループも含まれる)については、『サピエンス前史』をお読みいただくこととして、ここではいっきに霊長類の誕生を見てみたい。

 

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 サピエンス前史 脊椎動物から人類に至る5億年の物語

 

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ブルーバックス編集部(科学シリーズ)

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