端正なルックスながら疑惑の宝庫、〈チョグク新党〉躍進で韓国がモラルハザードの重大危機(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

端正なルックスながら疑惑の宝庫、〈チョグク新党〉躍進で韓国がモラルハザードの重大危機

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3月16日、ソウル中心部の幹線道路で行われた反尹錫悦政権デモに参加した曺国元法相(右)(写真:共同通信社)

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の運命がかかった総選挙を4月10日に控え、尹大統領の長年の宿敵・曺国(チョ・グク)元法務長官が韓国政界にときならぬ旋風を巻き起こしている。

 

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 「文在寅(ムン・ジェイン)政権の皇太子」として注目を集めた曺元長官は今年2月の2審判決で子どもの大学入試不正疑惑などにより懲役2年の実刑判決を下された。その後、上告し、現在は最高裁判決を控えている状態なのだが、曺元長官は2審の有罪判決に臆することなく、「非司法的な方法で名誉を回復する」としてまさかの新党結成に動き、目下、総選挙の台風の目となっているのだ。

 

 ■ 「進歩系のアイドル」から一転…

 

  韓国最高の大学であるソウル大学法学部出身で母校の教授でもあった曺国氏は、秀麗な容貌に切れ味鋭い話術で進歩陣営を代表する知識人となり、進歩支持者たちの“アイドル”として君臨してきた。  そんな彼に目を付けた文在寅政権は、彼を民政首席として政界にデビューさせたばかりか、法務部長官に据えた。そこには、彼を文在寅政権の後継者として育てていこうという狙いがあった。  だが、2019年、文在寅政権が曺氏を法務長官候補に内定した途端、彼の人生は一気に暗転しはじめる。

 曺氏の長官候補としての検証過程でメディアを通じて思いもよらぬ多くの疑惑が露呈した。曺氏自らが推薦した当時の検事総長・尹錫悦(現大統領)は曺氏に対する検察捜査を電撃決定し、文在寅政権と正面衝突する道を選んだ。  曺氏をめぐる様々な疑惑のうち、特に韓国人の逆鱗に触れたのは、娘のチョ・ミン氏を医学専門大学院進学させるため曺氏夫婦が多くの表彰状や経歴を偽造したという疑惑だ。超学歴社会の韓国では大学入試などで不正を働いたことが発覚すれば猛烈な反発が起きる。案の定この時も国民的な抵抗運動が起こった。  その結果、曺国氏は長官就任わずか35日後に辞任せざるを得なくなったのだ。

 

 ■ 実刑は逃れられない公算

 

  その後、曺氏と夫人のチョン・ギョンシム夫人は2019年にそれぞれ起訴された。チョン・ギョンシム夫人は子どもの入試疑惑と関連した私文書偽造や業務妨害などの疑惑、私募ファンド投資と関連した資本市場法違反などの疑惑が一部適用されて、2022年1月、最高裁で懲役4年の実刑が確定した。  一方の曺氏は、起訴されてから3年以上が過ぎた2023年2月にやっと1審が下り、懲役2年が言い渡された。今年の2月の2審でも同じく懲役2年の実刑が言い渡されている。曺氏は最高裁に上告したが、今年中に確定すると思われる最高裁判決でも「実刑は免れられない」というのが法曺界の大方の見方だ。

 

 

 

 

 日本と同様だが、韓国の最高裁判決の99%は2審の刑量がそのまま確定している。有罪確定時に政治的波紋が大きい判決の場合は「2審判決破棄・差し戻し」とすることもあり得るが、すでに同じ疑惑で夫人の有罪が確定し、娘のチョ・ミン氏も1審で罰金1000万ウォンを宣告されたことを勘案すれば、曺氏の刑量が減る可能性はほとんどない。  司法的には拘束を避ける可能性がほぼないと悟ったからだろう。曺国氏は、2審宣告直後にまさかの新党結成宣言に踏み切った。

 

 ■ 法を超えようとする法学者

 

  すでに「ブックコンサート」という体裁でファンミーティングを開催し、事実上、政治活動を再開していた彼は、「選挙で有権者に信を問うことで自分の無罪を証明する」という法学者とは思えぬ「珍説」を主張した。政党を作って国会に進出し、尹錫悦大統領と検察政権を直ちに引きずりおろすというのだ。  「(尹政権の残りの任期)3年は長すぎる」というのが彼のスローガンで、尹錫悦政権の弾劾を選挙公約に掲げている。  もっと信じがたいのは、曺氏を支持する韓国国民の世論はかなり高まっており、このままでは比例代表で10議席以上は獲得できそうな見通しになっていることだ。

 

■ 与党も野党も分裂

 

  実は尹錫悦政権と李在明(イ・ジェミョン)代表率いる最大野党「共に民主党」の理念的対立が激化したおかげで、韓国国民の間では政治に対する嫌悪感が増大している。そのため今回の総選挙を目前にして、第三極を標榜する数多くの新党が結成された。  代表的なのが、元「国民の力」の代表の李俊錫(イ・ジュンソク)氏が新しい保守を旗印に結党した「改革新党」や、元共に民主党代表の李洛淵(イ・ナギョン)氏が金大中政権時代の正統民主党を継承するとして作った「新しい未来」などだ。ただ両党とも3%台の支持率で、支離滅裂になり、二人とも総選挙後の自身の政治生命を心配しなければならない状況に置かれている。  これとは対照的に、曺国氏の「祖国革新党」は20%台の高い支持率をマーク。曺氏本人は比例順番2番を割り当てられ、国会入りがほぼ確実視されている。  世論調査機関が実施した「祖国革新党」の支持層分析によれば、20代と30代の支持率は0%だが、40代と50代で圧倒的な支持を受けているという。40代と50代は韓国で最も進歩的な世代で、代表的な民主党支持勢力だ。

 

 

 

 

 民主党支持層が祖国革新党に流れているのには大きな理由がある。  民主党の李在明代表が、文在寅派や李洛淵派の議員らを排除し、自派閥の候補にだけ公認を出しまくったことで、総選挙を前に民主党支持者も、李在明支持者とアンチ李在明派に分裂してしまった。このうち、李代表を支持しない民主党支持者の多くが祖国革新党支持に流れたと見られている。

 

 ■ 被告人や起訴目前の被疑者たちが続々と比例代表候補に

 

  そして曺氏はこの状況を巧みに利用している。  祖国革新党は、地方区では候補者を立てず、比例代表にのみ候補を出している。曺氏は「地方区は民主党、比例代表は祖国革新党」と訴え、民主党を支持するが李代表に批判的な民主党支持者、特に文在寅前大統領を支持している有権者の心を掴んでいるのだ。進歩支持者らが抱いている「この総選挙で尹錫悦政権を審判しなければならないが、民主党の分裂で審判ができないのではないか」という懸念の受け皿になろうという戦略だ。  22年の大統領選挙で李在明候補を選択した有権者のうち、今回の総選挙では「比例代表投票で祖国革新党を選ぶ」という有権者が40%、「民主党の比例連合に投票する」という有権者が38%という世論調査の結果がこれを立証している。  祖国革新党の存在が、民主党の不公正な公認に対する失望で投票を放棄しようとした民主党支持者たちを投票場に引き出す効果があるという分析もあり、あれこれ、祖国革新党の存在は尹錫悦大統領や国民の力には恐るべき脅威となっている。

 ただ、このまま祖国革新党が大成功を収めることになれば、韓国政界はさらに後退するだろう。祖国革新党の理念はひたすら「反尹錫悦、反検察」で、比例代表候補群はすでに検察によって起訴されているか、起訴を控えている人ばかりだ。  もし、彼らが国会に議席を持つことになれば、国会議員という身分を利用して検察捜査や裁判出席を回避し、検察+司法部vs国会という対立が日常茶飯事となり、政界は大きな混乱に陥るだろう。これまで、民主党の李在明代表が司法リスクの「防弾」に国会を利用してきたのと同じことが数え切れないほど繰り返されるということだ。  権力者たちが違法行為を犯しても司法的判断を受けないという事態が常態化すれば、これは国家の司法体系に対する挑戦であり、国民に誤った考え方を植え付ける恐れが出てくる。

 

 ■ 「権力を握れば法で裁かれずにすむ」をゆるす社会になるのか

 

  これまではたとえ大統領でも、違法行為が暴露されれば、国民の前で頭を下げてきた。

金大中大統領が政権を握った時代には大統領の3人の息子が賄賂罪で起訴されて法の審判を受けた。

金永三(キム・ヨンサム)政権でも大統領の次男が租税逃れなどの疑いで拘束収監された。

盧武鉉元大統領に至っては、

家族が事業家から賄賂を請託された事実が明らかになる

と、自殺で罪を償った。

 

  しかし、曺国氏は違った。検察が捜査に突入すると、「政治検察による無理な捜査」と主張し、表彰状偽造などの犯法行為が発覚すると「慣行」と主張した。子どもの入学のために、韓国の父兄は表彰状の偽造ぐらいはだれでもやっているという主張だった。

 

  検査が起訴した数多くの疑惑のうち、裁判部によって7つの有罪と認定されると、「(残りの)7、8個の疑惑については無罪が立証された」という理屈をこね、最後まで自身の罪を認めてようとしなかった。こうした彼の珍妙な防御論理に引きずられ、支持者だけではなく、進歩陣営のメディアまでが、「たかが表彰状の偽造で夫婦に懲役刑を言い渡すなんて」と裁判所や検察を非難するに至っている。これが韓国の現状だ。

 

  「権力さえあれば

法律からも社会からも裁かれない」

というインチキを、

曺国氏が国民に見せつけ、

同じインチキを

共に民主党の李在明代表が真似し、

そして今度は祖国革新党から

国会議員になろうとする候補者たちによって

幾度も繰り返されるかもしれない。

曺国新党フィーバーは、

まさに韓国社会の危機と言えよう。

李 正宣

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