インド・モディ政権「打倒中国」鮮明、核搭載の「危ない武器」も実験 4~6月の下院総選挙控え軍事衝突リスク上昇(JBpress) - Yahoo!ニュース

インド・モディ政権「打倒中国」鮮明、核搭載の「危ない武器」も実験 4~6月の下院総選挙控え軍事衝突リスク上昇

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選挙キャンペーンで声援に応えるインド・モディ首相(写真:AP/アフロ)

 インドの下院総選挙が4~6月にかけて実施される。  モディ政権は票固めのため中国への対抗姿勢を鮮明に打ち出し、核軍備の増強などをアピール。軍事衝突の可能性が徐々に高まっている。  モディ首相は今や「ヒンドゥー皇帝」のようだ。「世界最大の民主主義国家」とされるが、その行方は地政学リスクの火種となりかねない。  (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 

  【写真】モディ首相はパキスタンとの係争地カシミールの中心都市スリナガルを訪問した

 

 インドの選挙管理委員会は3月16日、「下院の総選挙を4月19日から6月1日にかけて7回に分けて実施し、6月4日に一斉開票する」と発表した。  インドは「世界最大の民主主義国家」と呼ばれている。今回登録を済ませた有権者は2019年に比べて6%増加し、9億6880万人に達している。  各種世論調査によれば、3期目を目指すモディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)が過半数の議席を獲得する勢いだ。  選挙戦の勝利を確実なものにするため、モディ氏は連日のように各地を遊説しているが、これにより、周辺諸国と摩擦が生じる事態が起きている。  モディ氏は7日、パキスタンとの係争地カシミール地方の中心都市スリナガルを訪問した。モディ氏のスリナガル訪問は、国内で唯一イスラム教徒が多数を占める北部ジャム・カシミール州の自治権を2019年に剥奪して以来、初めてだ。モディ氏は現地で開かれた集会で総額約640億ルピー(約1140億円)に上る振興策を発表した。  今回の訪問の狙いは、BJPの後ろ盾であるヒンドゥー至上主義団体へのアピールだが、隣国パキスタンは猛反発している。

 

 

 

■ 戦車走行可能な標高4000m超のトンネル

 

  モディ氏は9日、中国が領有権を主張するインド北東部のアルナチャルプラデシュ州の「セラ・トンネル」の開通式にも出席した*1 。 *1:モディ氏、係争地を訪問 トンネル開通式に、中国は反発(3月14日、付日本経済新聞)  セラ・トンネルは、1962年の中印国境紛争の激戦地となった同州タワンとアッサム州テズプールを結ぶ目的で建設された。インドは83億ルピー(約150億円)を投じて、標高4000メートル以上の場所にある世界最長の2車線トンネルを完成させた。これにより、大型砲や「T-90」のような戦車などが通行可能になるという。  2020年春の国境紛争を機に対中強硬姿勢に転じたモディ氏は、総選挙を前に「打倒中国」の姿勢を鮮明に示したわけだが、アルナチャルプラデシュ州を自国の領土として明記している中国はモディ氏の動きに激怒している。  国境紛争地域は、実効支配線が中国支配地域とインド支配地域を分けており、今も20万人の中印両軍がにらみあいを続けている。  中国がその後もインド支配地域を侵犯しており、インド政府はそのたびに抗議しているが、中国政府の対応はけんもほろろだ。  このため、インド軍は中国のチベット地域に接する北部ウッタラカンド、ヒマチャルプラデシュ両州の国境警備を強化する目的で、兵士1万人を西部地域から移動させる動きに出ている*2 。 *2:インド軍、中国国境の警備で兵士1万人増強へ-高官(3月8日付、ブルームバーグ)

 

 

■ 「中国軍、恐れるに足らず」

 

  インドはこれまで守勢に回っていたが、米国の軍事支援をバックに近年、中国に対して強硬な姿勢をとるようになっている。  インド軍内には「中国軍、恐れるに足らず」との声も出てきている。  中国軍の動向を長年研究してきたラビ・シャンカル元インド陸軍中将は「中国軍で不正が横行し、兵器の管理もずさんだ。中国軍は見かけよりもはるかに弱い」との見方を示した。その上で「米国と連携してインドが国境地帯で軍事活動を始めれば、中国はお手上げだ」と鼻息が荒い*3 。 *3:「中国軍は見掛け倒し」 不正横行、ずさんな兵器管理 インド軍元中将インタビュー(3月12日、付時事通信)  これが軍内のコンセンサスだとすれば、インドが「約60年前の汚名返上」とばかりに中国に大規模な軍事行動を仕掛ける可能性は排除できなくなるだろう。  インドと中国のつばぜり合いは海洋にまで及んでいる。  インド洋の島嶼国モルディブに昨年11月、中国寄りの新政権が誕生し、インドは同国に駐留する軍を5月10日までに撤退させる事態に追い込まれている。  これに対し、中国はモルディブに対して無償で軍事援助を行う構えだ。  インドもこの事態を黙ってみていない。インド海軍は3月6日、モルディブから約130キロメートルしか離れていないラクシャドウィープ諸島のミニコイ島で新たな基地の運用を開始した*4 。 *4:インドがモルディブ近隣に新「海軍拠点」、中国の動きをけん制しつつ海軍大国化へ(3月12日付、ニューズウイーク日本版)。

 

 

■ 「核の先制攻撃を誘発する危険な武器」

 

  インドは海軍力の強化にも躍起だ。3隻目の空母を国内で建造する方針を固め、中国と同等の能力を築こうと必死になっている。  インドは核軍備の増強にも積極的だ。  インド政府は11日「1つの大陸間弾道ミサイル(ICBM)に複数の核弾頭を搭載する技術『複数個別誘導再突入体(MIRV)』の実験に成功した」ことを明らかにした。

 

 

  使用されたICBMはインドが独自に開発した「アグニ5」。今回の実験成功により、インドは米国、ロシア、中国、フランス、英国と同様の戦力をしたことになる。アグニ5の飛行距離は5000キロメートル以上、中国やパキスタンは射程圏内だ。  MIRVは搭載された核弾頭はロケットで運ばれたミサイルから宇宙空間に放出された後、別の目標をそれぞれ攻撃するようプログラムされている。複数の核弾頭を迎撃ミサイルで防御することが困難なため、MIRVは「核の先制攻撃を誘発する危険な武器だ」と恐れられている*5 。

 *5:多弾頭化した長距離弾道ミサイル、発射実験に成功 インド(3月13日付、CNN)

 

 

  国力が急速に増大するインドが中国に積年の恨みを晴らそうとしているとしても不思議ではない。だが、中国への過度の反発は、順風満帆に見えるインド自身の地政学リスクを高めるという深刻な副作用を引き起こしてしまう。

  執政10年目で国民の8割の支持を集め、今や「ヒンドゥー皇帝」とも言える存在となったモディ氏が、国の舵取りを誤らないことを祈るばかりだ。

 

 

 

  藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー 1960年、愛知県生まれ。

早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。

2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。

2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

 

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