バイデンとトランプが語る180度異なった「アメリカ」の姿…実現するのは、どちらのアメリカなのか(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース

 

バイデンとトランプが語る180度異なった「アメリカ」の姿…実現するのは、どちらのアメリカなのか

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ニューズウィーク日本版

<トランプの言葉は極端で不正確だが、米国の一面を切り取っているのは確か。その底堅い人気が示すアメリカの暗い現実とは>【木村正人(国際ジャーナリスト)】

Evan El-Amin/Shutterstock

[ロンドン発]「トランプとバイデンは2つの演説で米国について全く異なる見解を示した」(3月8日付米紙ニューヨーク・タイムズ)「バイデンとトランプ、2つの演説で語られた2つの米国像」(3月8日付米紙ウォール・ストリート・ジャーナル) 

 

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11月の米大統領選で再び対決する現職ジョー・バイデン大統領の一般教書演説とドナルド・トランプ前大統領によるスーパーチューズデーの勝利演説は米国について180度異なるビジョンを描いてみせた。世論調査で優位に立つトランプ氏はディストピアの米国を語る。 「この3年間、この国が大きな打撃を受けるのを見てきた。私が大統領に再選していればロシアがウクライナを攻撃することはなかった。イスラエルが攻撃されることもなかった。イランは一文無しだった。(イスラム過激派の)ハマスやヒズボラのための資金もなかった」 「インフレも起きていなかったはずだ。インフレは中産階級を破壊する。国を滅ぼす。多くの人が、多くの専門家が株式市場だけがうまくいっていると言っている。バイデンはわが国史上最悪の大統領だ。32万5000人の移民が米国内の空港に秘密裏に運ばれてきた」

 

 ■トランプ「米国は死にかけている」 「米国は分裂している。国境で、選挙で第三世界の国に成り下がった。それを阻止しなければならない。国境を閉鎖し、悪党を国外追放する。都市は窒息死しつつあり、州や合衆国は死にかけている。だからこそ、われわれはこの国をかつてないほど偉大な国にする決意だ」 自らの大統領時代の減税と規制緩和の成果を自慢するトランプ氏のレトリックは極端で、正確ではない。しかし、米国の一面を切り取っているのは確かだ。スーパーチューズデーでは共和党内の対立候補ニッキー・ヘイリー元国連大使に対し14勝1敗という圧倒的強さを見せた。 不動産市場の崩壊に喘ぐ中国に比べ、米国経済はバイデン氏のバラマキが悪化させた債務膨張や格差問題を除けば死角がない。世界最大の国内総生産(GDP)とエネルギー産出量、基軸通貨ドル、断トツの軍事力、人工知能(AI)や創薬に象徴される技術革新力、西側市場の大きさ。 インフレと利上げにかかわらず米国経済は強さを保ち、ノーランディング(成長継続)の声さえ上がる。米国株価指数は「マグニフィセント・セブン」(ハイテク超大型7銘柄)に牽引され、史上最高値を更新する。しかし無資産の低所得・貧困層はその恩恵には永遠にあずかれない。

 

 

 

ガザ人道支援の「優先」を強調したバイデン

米国勢調査局によると、貧困率は2021年の7.8%から22年に12.4%に急上昇した。10年以来、貧困率が上昇するのは初めて。子どもの貧困率も5.2%から12.4%に倍増した。インフレはバイデン氏が大盤振る舞いしたコロナ緊急対策の成果を帳消しにした。ここがトランプ氏の付け目だ。 バイデン氏の最優先事項は左派をまとめ切れず、トランプ氏に敗れた16年のヒラリー・クリントン氏の轍を踏まないこと。パレスチナ自治区ガザへの人道支援の「優先」を強調したのも自身の親イスラエル色を薄め、左派の分裂を防ぐ狙いがある。 バイデン氏は「イスラエルの指導者に告ぐ。 人道支援を二の次にしたり、駆け引きの材料にしたりしてはならない。罪のない人々の命を守り、救うことを優先しなければならない。将来を見据えた時、この状況に対する唯一、真の解決策は時間をかけた2国家解決だ」と演説した。 トランプ氏はウラジーミル・プーチン露大統領寄りの姿勢を隠そうともせず、自分が大統領に返り咲けば「24時間以内にウクライナ戦争を片付ける」と豪語する。戦争のエスカレーションとウクライナ敗北の悪夢は絶対に避けたいバイデン氏は一般教書演説で2人の違いを強調した。

 

 

 ■「米国の歴史において前例のない瞬間に直面」

 

 バイデン氏は1941年のフランクリン・ルーズベルト大統領の演説を引き「私たちは米国の歴史において前例のない瞬間に直面している。この瞬間が稀有なのは自由と民主主義が国内外で同時に攻撃を受けていることだ。米国が手を引けばウクライナや欧州を危険にさらす」と力説した。 20年大統領選の結果を受け入れようとせず、米議会襲撃を扇動したトランプ氏のディストピア論に対し、バイデン氏は「未来」という言葉を23回も使い「民主主義への脅威は打ち破られなければならない。米国のカムバックとは米国の可能性の未来を築くことだ」と宣戦布告した。 「米国を過去に引き戻そうとする者と米国を未来に進ませようとする者。私の生涯は自由と民主主義を受け入れ、米国を定義してきた核となる価値観、誠実さ、良識、品位、平等に基づいた未来を築くこと、すべての人を尊重することを教えてくれた」 トランプ氏が描く米国像について「今、私と同世代の人は違う見方をしている。恨み、復讐、報復という米国の物語だ」と指摘した。 「皆さん、私は危機に瀕した経済を引き継いだ。今、わが国の経済は文字通り世界の羨望の的となった。わずか3年間で1500万人の新規雇用を創出した。記録的だ」とバイデン氏は胸を張った。しかしトランプ氏の底堅い人気は米国の暗部〈ディストピア〉を如実に物語っている。

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