米国の軍事力を頼るままでいいのか?欧州に必要な5つの要素、日本も備えておくべきこと(Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

 

 

米国の軍事力を頼るままでいいのか?欧州に必要な5つの要素、日本も備えておくべきこと

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(Olena_Z/gettyimages)

 ニューヨークタイムズ紙に2月14日付けで掲載された論説‘Europe Wants to Stand on Its Own Military. Is It Too Little, Too Late?’が、ウクライナの戦況、米国の政治状況を踏まえて、欧州は米国が当てにならない中でどのように自らを防衛するかの問題に直面していることを指摘している。概要は次の通り。  北大西洋条約機構(NATO)の防衛大臣会合、ミュンヘン安全保障会議が開催されるが、ウクライナの反転攻勢の成功が期待された昨年とは雰囲気は大きく異なっており、ウクライナは守勢に回っている。米国の600億ドルの援助パッケージは上院を通過したものの、下院の通過は疑問視されており、欧州各国の兵器のストックも底をつきかけている。  さらに、米国の大統領選挙が重くのしかかっている。トランプによる(大統領在任中に)軍事費負担が不十分な同盟国については、ロシアに対して「やりたいことは何でもする」よう言うとの発言は、同盟の連帯性に対する前例のない攻撃であり、欧州の指導者に衝撃を与えた。  欧州の指導者はトランプの予測不可能性とともに、彼がプーチンと妥協したがるのではないかと懸念している。同時に、トランプが大統領選挙で敗れたとしても、ウクライナに対する巨額の支援と武器パッケージが議会を円滑に通る状況ではないことに気づいている。これは、米国による安全の保証が鉄壁であった時代が終わったことを意味する。  欧州は、今後、さらに防衛費を増大し、NATOにおける米国の役割の低減に備えなければならない状況だが、欧州が米国の果たしてきた安全の保証役に取って代わることは近いうちにできそうにない。経済規模の2%の防衛予算を確保できるのは、NATO加盟国の31カ国の18カ国である。  しかし、こうした数字以上に大事なものがある。欧州防衛の究極の手段は米国の核戦力であった。それには、ドイツからトルコまで配備された核兵器が含まれるが、NATO加盟国の中で、脆弱性の高い小国を助けるために米国が行動をとるかどうかについて疑いがあるのであれば、欧州に配備された米国の核兵器は意味を失ってしまうであろう。

 

 

 

 

 

 ドイツの防衛問題専門家によれば、欧州は、米国の助けなしに通常戦力によって戦われる紛争でロシアから欧州を守ることはできないであろう。軍需産業の関係者は、ポスト冷戦期に衰退し、ウクライナ救援のために武器庫が目減りしてしまった軍を再建するためには10年を要し、まずまずの状況に持って行くためだけでも3、4年間、軍事予算と軍事生産を拡大する必要があると指摘した。  確実性と安定性を作り出すためには、軍事予算の拡大が必要であるが、NATOは新たな高い目標を掲げるかどうかをまだ議論している状況である。「欧州の共通防衛はまだ願望に止まっている。気持ちだけでは十分ではない。実際の行動が求められている」と欧州の識者は指摘する。 *   *   *

米国抜きのロシア対抗

 ウクライナの戦況、米国の政治状況を踏まえて、欧州は米国が当てにならない中でどのように自らを防衛するかの問題に直面していることを指摘する論説である。米国大統領選挙におけるトランプ当選の可能性が一つの要素であるが、それだけではなく、米国の連邦議会での分断によって対外支援について国論がまとまらない状況が拍車をかけている。  当面の問題は、米国の対ウクライナ支援が滞る中、欧州がそれをどの程度、肩代わりできるのかであるが、より根本的で厳しい設問は、ロシアの侵略がウクライナで止まるとは思えない中、米国の助けなしに欧州はロシアから自らを守ることができるか、である。

 

 

  理論的な可能性として、欧州が米国抜きにロシアに軍事的に対抗することを考えると、

少なくとも次の五つの要素が不可欠と思われる。

 

(1)継戦能力を備えた通常戦力、

(2)多様なレベルのエスカレーションに対応できる核戦力、

(3)軍事的・政治的リーダーシップ、

(4)モラルが高い大規模な戦闘人員、

(5)不正規戦から電子戦までの幅広い戦線で戦うことができる練度の高い軍事組織。

 

  この論説では、これまでの米欧間の議論の経緯もあり、

(1)の通常戦力を拡充するための軍事予算確保に焦点を当てているが、それを本格的に進めるには時間がかかる。さらに、これはロシアに軍事的に対抗するための必要条件ではあろうが、十分条件であるわけではない。前記の項目はいずれについてもかなりハードルが高いと言わざるを得ないが、特に難度が高いのが、

(2)の核戦力と(3)のリーダーシップであろう。

 

  核戦力について言えば、欧州では英仏の核戦力があるが、

まず、自国の存亡の危機のためではなく、欧州の共同防衛のために動員できるかの点がある。

さらに、地域的な危機に際する多様なエスカレーション・シナリオに対応できるような核戦力構成になっていない。

 

 

 

 

 

 もう一つ難しいのはリーダーシップである。

欧州の中でどの国がロシアとの対決を引っ張っていくのか。ドイツにしても、フランスにしても、国内状況や歴史的経緯を考えれば、欧州をまとめてロシアと軍事的に対抗していくことは容易ではない。  だとすれば、欧州にとって、一方で米国をつなぎ止めるため、また、米国が当てにならない時の備えとして自らの防衛力を拡充しつつ、他方で米国の積極的な関与を得るべく働きかけていく以外に当面の策はなかろう。

日本にとっても他人事ではない

 当然のことながら、欧州としてどれだけロシアの脅威に備えなければならないかは事態の展開次第である。

 

(1)旧ソ連の非NATO加盟国(ジョージア、モルドバなど)、

(2)旧ソ連の現NATO加盟国(バルト三国)、

(3)旧ワルシャワ条約機構国の現NATO加盟国(ポーランド、チェコ、ハンガリーなど)と、いくつかのカテゴリーに分けて考えるべきだろう。

 

 

  2008年のジョージア、14年のウクライナ(クリミアとドンバス)、22年のウクライナと、戦火はまず(1)の旧ソ連の非NATO加盟国で起こった。

ウクライナの次があるとすると、真っ先に脅威にさらされるのも、このカテゴリーの諸国であろう。

 

  米国が当てにならないとの見方が広がる中、どのように自らを防衛するかの問題は日本にとっても他人事ではない。自らの判断で最善と考える道を選んでいくべきである。

岡崎研究所

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