スーパーチューズデーで圧勝のトランプ、「最下層よりひとつ上の層」が熱烈支持というカラクリ(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

 

スーパーチューズデーで圧勝のトランプ、「最下層よりひとつ上の層」が熱烈支持というカラクリ

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3月5日、フロリダ州パームビーチにある別荘「マール・ア・ラーゴ」で演説するトランプ前大統領(写真:AP/アフロ)

 (国際ジャーナリスト・木村正人)  予想通りの結果ではあった。11月の米大統領選に向けて野党・共和党の候補者選びの山場となる3月5日のスーパーチューズデーでドナルド・トランプ前大統領が圧勝した。

 

  【写真】2020年のバイデン氏が勝利した大統領選挙後には、選挙不正が行われたとしてトランプ支持者が大規模な抗議活動を展開した

 

 トランプ氏は世論調査でジョー・バイデン大統領をリードする。民主主義の規範を無視し、91件もの刑事訴追を受けるトランプ氏はなぜこれほどまでに強いのか。 ■ 15州中12州でヘイリーを圧倒  トランプ氏は15州のうち大票田のカリフォルニア、テキサスと、アラバマ、アーカンソー、コロラド、マサチューセッツ、メーン、ミネソタ、ノースカロライナ、オクラホマ、テネシー、バージニアの計12州を制した。ニッキー・ヘイリー元国連大使は高等教育を受けた層に支持を広げ、バーモント州で一矢を報いた。  英誌エコノミストの予測ではトランプ氏は46%対44%でバイデン氏をリードする。「トランプ再選」の可能性は日に日に高まっているように見える。

 ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン氏は米紙ニューヨーク・タイムズ(3月4日付)に寄稿し「政党は本当にディストピア的な妄想力で国政選挙に勝てるのか。残念ながら現在の世論調査では可能である」と嘆いている。  「今日の右派政治が米国、特に米国の都市について現実に即していない悲観的でディストピア的なイメージに突き動かされていることに驚かされる。その多くは大昔に凝り固まった認識を反映している。米国の都市が良い方向に変わったことを反映するようには更新されていない」(クルーグマン氏) ■ 貧困率は2022年に7.8%から12.4%に急上昇  インフレと利上げにもかかわらず米国経済は強さを保ち、ソフトランディングどころか、ノーランディングという声も上がる。主要な米国株価指数は「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるハイテク超大型7銘柄に牽引され、史上最高値を更新する。  しかし無資産の低所得・貧困層はその恩恵には永遠に与れない。  米国勢調査局の「2022年米国の貧困」(昨年9月発表)によると、貧困率は21年の7.8%から12.4%に急上昇した。10年以来、貧困率が上昇するのは初。子どもの貧困率も21年の5.2%から12.4%に倍増した。コロナ危機で発動されたバイデン氏のレスキュープランで貧困層の割合は一時、史上最低レベルに低下した。  政治ニュースメディアのポリティコ(昨年12月9日付)は「コロナ緊急対策の成果は帳消しにされた。セーフティネットを恒久的に拡大しようというバイデン氏の願望はインフレと共和党の反撃に対する懸念で弱められた。それ以来、バイデノミクスは縮小された」と指摘している。  この転換は米国内の貧困層に甚大な影響を与えた。経済が改善しても、低所得・貧困層の米国人はコロナ危機時よりも経済的に不利になっている。子どもたちを貧困から救い出すための画期的な取り組みは縮小し、数百万人が自力で「生活費の危機」を脱出しなければならなくなった。

 

 

 

■ “トランプ・ランド”はネガティブな感情が強い  英ケンブリッジ大学や米スタンフォード大学経営大学院など米欧やオーストラリアの研究者が16年と20年の米大統領選でトランプ氏に投票した地域(トランプ・ランド)の特徴を調査している。300万人以上の心理的特徴を出生時の体重、肥満、健康状態、所得、教育、伝統産業の存在など18の尺度から分析した。  それによると、トランプ氏に投票した地域はネガティブな感情が強く、経済的困窮レベルも高い。反黒人の暗黙的バイアスが強く、地域の民族的多様性も低い。しかし20年トランプ氏は民族的に多様な地域でも票を伸ばした。トランプ支持層は伝統的な共和党候補や民主党バーニー・サンダース上院議員の支持層とも異なっていた。  トランプ支持の根源は権威主義に関する基礎的かつ現代的な理論を裏付けているという。ネガティブな感情を抱きやすく、経済的困窮、民族的多様性の欠如、健康面での不利といった構造要因を経験している地域はトランプ氏に投票する傾向が最も強いことが300万人調査で確認された。  内的な気質と外的な構造要因の両方がトランプ氏への投票と強固に結びついていた。恐怖や怒り、不安のようなネガティブな感情は表面的には政治的内容を含まなくても投票行動に強く関係していた。トランプ票は右派票とも左派ポピュリスト票とも同義ではなく、右派の権威主義票と性格付けられるという。

 

■ ヒトラー支持層との類似点 

 

 「トランプ支持層は権威主義に関する研究の発端となったアドルフ・ヒトラーの支持層と、ある点で驚くほど似ている。トランプ氏に投票した地域はヒトラーに投票した人々が世界大恐慌で最も大きな打撃を受けた人々ではなかったように、最悪の経済的困難に苦しんでいる人々ではなかった」と300万人調査は指摘する。  トランプ氏もヒトラーも、経済的に苦しんでいるが、まださらに落ち込む可能性がある人々の間で支持を広げた。“トランプ・ランド”は農業や製造業の比率が高く、かつては米国経済を牽引してきたが、人工知能(AI)に象徴されるテクノロジー経済で苦境に立たされていた。貧困や失業が最も多い地域ではなかった。  経済的打撃を受けているが、失業のリスクはほとんどない人々がナチスを支持した。失業しているか、失業リスクが高い人々は共産党や社会民主党を支持した。トランプ氏やヒトラーの支持層にはワーキングプアが多い。「社会的階段の下から2番目にいる人々」は一番の下になることを極度に恐れる。最下位嫌悪だ。  最下位嫌悪とは何か。例えば米国人に最低賃金(時給7.25ドル)の引き上げを支持するかと尋ねたらどんな答えが返ってくるのだろう。7.25ドル以下の労働者は引き上げを支持する。最も強く反対するのは最低賃金のすぐ上7.26~8.25ドルの時給で働く労働者だ。7.25ドル以上の人々は最下位タイになるリスクを恐れる。

 

 

 

 

■ 白人は人種関係をゼロサムゲームと解釈

 

  トランプ・ランドの経済的困窮はマイノリティーの地位が高まっているという白人の危機感やそうした認識から生じうる反感という文脈で理解されなければならない。トランプ氏への投票について経済問題だけで説明するのは無理があり、特定のマイノリティーに対する反感が投票と関係していることがあぶり出された。  白人層は人種関係をゼロサムゲームと解釈し、自分たちの経済的苦難はマイノリティーの利益とみなす。マイノリティーとの接触がマイノリティーに対する白人たちの態度を向上させ、トランプ支持率を低下させる可能性がある。民族的に多様な地域ほど、トランプ氏以外の候補者が好まれた。  しかし20年の大統領選では共和党がバイデン氏に社会主義者のレッテルを貼ろうとしたことで、キューバやベネズエラなど社会主義体制を経験したヒスパニック系有権者の恐怖心を煽った。トランプ氏は民主党支持者が多い民族的に多様な地域でも、健康状態が非常に悪い地域でも票を伸ばしている。  生活費の危機を引き起こしたインフレは現職候補にとって強烈な逆風だ。バイデン氏のレスキュープランは失うことを恐れる下から2番目の層をトランプ支持に追いやった。さらにインフレによるコロナ対策の成果帳消しでどん底の低所得・貧困層の絶望を深めた恐れがある。

 

  この2つの心理がトランプ復活の鍵になると筆者はみる。

それでなくても世界中の民主主義国家の有権者は

「権力に対する憲法上の制限を日常的に無視する」指導者を選んでいる。

民主主義規範の数々を無視するトランプ氏の復活は

この傾向の最も顕著な例だと300万人調査は結論付けている。

 

  【木村正人(きむら まさと)】 在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

木村 正人

 

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