<人口世界4位>成長続けるインドネシアの次期大統領は?選挙結果の裏側と政策の見通し、日本との関係は継続か刷新か(Wedge(ウェッジ)) - Yahoo!ニュース

<人口世界4位>成長続けるインドネシアの次期大統領は?選挙結果の裏側と政策の見通し、日本との関係は継続か刷新か

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赤ちゃんにキスをするインドネシア次期大統領のプラボウォ・スビアント(AP/アフロ)

 2月14日付ウォールストリート・ジャーナル紙は‘Ex-General With Checkered Past Set to Become Indonesia’s Next President’(波乱万丈の経歴を持つ元将軍がインドネシアの次期大統領になる)との解説記事を掲載し、同日投票され既にプラボウォ・スビアント候補(前国防大臣)に当確が出たインドネシア大統領選挙結果と同候補の過去の人権侵害等の問題、今後の政策につき解説している。要旨は以下の通り。  第三位の民主主義国大国インドネシアを、72歳の元将軍プラボウォ・スビアントが率いることになった。同氏は、民間出口調査によれば三つ巴の大統領選で60%近くの得票を得て大勝利した。  ライバルは、現職ジョコ・ウィドド大統領との連携に翻弄された。スビアントの副大統領はジョコの息子だ。スビアントはニッケル輸出制限等の経済政策の一層強化を含め、ジョコの政策をやり遂げると宣言し、首都移転も支持する。中立的外交政策を維持するとも述べている。  米国防長官との記者会見では中米双方との良い関係を使い緊張を管理すると発言した。南シナ海で中国と問題を抱えるが、経済関係は進展している。  過去数年、国中で中国の投資でニッケル精錬工場が作られた。スビアントは、熟練の政治家二人と争った。前中央ジャワ州知事ガンジャールは、教育と保健への投資を掲げ、前ジャカルタ州知事アニスは、労働集約産業重視の経済政策への移行を強調した。  スビアントは、スカルノと敵対した有力政治家族出身だ。1980年代にスハルトの娘と結婚し後継者とみられるようになったが、その後離婚。1998年のアジア経済危機暴動でスハルト政権は終了し、スビアントは民主主義活動家拉致疑惑で軍籍をはく奪された。  それ以前は、彼の特殊部隊を米国は重視していた。彼は米国人から好かれていたが、好意は東ティモール虐殺との関係で彼の人権疑惑が浮上した後に消滅した。  スハルト政権崩壊後、彼は民主政治に入りグリンドラ党を創設し、2014年大統領選ではウィドドとの一騎打ちで僅差で敗北した。19年に再びウィドドと大統領選を闘ったが、5カ月後想定外の動きでライバル二人は手を組みウィドドは多数派形成のため彼を国防大臣に迎えた。

 

 

 

 

 

 

 国防大臣として彼は老朽武器近代化を進め、仏ラファールや米F15等の大規模調達を実施した。昨年6月のシャングリラ対話ではウクライナ平和プランを提案したが、ウクライナは拒絶し、ウィドドは距離を保った。  選挙に向け、ウィドドとスビアントは協力を強化。ウィドドの36歳の息子ギブラン・ラカはスビアントの副大統領候補になったが、法律は40歳以下の副大統領就任を禁じていた。  10月に憲法裁判所は一定の政治職を務めた候補への適用を柔軟化し大統領選参加の道を開いた。裁判所長官はウィドドの義兄で、人権活動団体はこの判示を批判している。 *   *   *

こじれた現職の「後継」

 今回のインドネシアの大統領選挙が注目される理由はいくつかある。まず、過去2期10年間大統領務めた現職ジョコウィ大統領は、再選制限により今回の選挙には出馬できず、新顔に替わること。そして、これが、世界第4位の人口の民主主義国で、近年5%を超える成長を続ける主要20カ国・地域(G20)の重要な一員(現在17位のGDPは2040年代には日本を抜いて4位になるとの見通し)の大国インドネシアの今後の政策にどのような影響を与えるのかが注目されていることである。  次に、選挙結果をどう見るか。今回の選挙は、第一に、いまだに7割強の支持率を誇る現職ジョコウィ大統領への支持を取り合う競争、誰がジョコウィ大統領の政策をより確実に引き継ぐかを巡る選挙だったと言えるだろう。  本来は、ジョコウィは、自らの出身母体・支持基盤である議会最大与党の闘争民主党が公式に支持するガンジャール前中部ジャワ州知事を支持すべき立場にあるが、そうせず、代わりに、自身の次男であるギブラン(36歳)を、正副大統領選候補は40歳以上とする法律の解釈を憲法裁判所に持ち込んでまでプラボウォの副大統領候補に押し込み、プラボウォがジョコウィの政策を完全に引き継ぐことを確保し、プラボウォ支持を明確にした。  ガンジャールもジョコウィの政策承継を掲げたが、結局ジョコウィの支持層獲得競争に敗れ、22年中は世論調査で一貫して維持していたトップの座を、23年後半にはプラボウォに譲り、その後一層失速。最終的には、出口調査でプラボウォ58%、ジョコウィの政策に明確に反旗を翻した第三の候補アニス25%にも及ばず、最下位の17%に留まった。

 

 

 

 

 今回の総選挙の隠れたアジェンダは、建国の祖スカルノの娘で自らも大統領を経験し最大与党闘争民主党党首のメガワティとジョコウィの最終バトルではなかったか。陰に陽に政権運営に口出しするメガワティと付かず離れず上手くやってきたジョコウィだが、今回は、メガワティが自身の娘、プアン国会議長の出馬を諦めてまで自党の支持候補としたガンジャールではなく、歴史的にメガワティと根深い対立関係にあるプラボウォに入れ込んだ。  今回の大統領選挙でメガワティの面子は丸つぶれになった。仮に、ジョコウィがメガワティに代わり闘争民主党党首になるようなことがあれば、新たな政治勢力の登場が完成し、ジョコウィの政権への強い影響力は今後も続くだろう。

インドネシアの飛躍は続くのか

 最後に、プラボウォ政権の政策がどうなるかだが、現政権と大きく変わることはないだろう。経済では、現政権のいわゆる「下流化政策」(国内資源に国内で付加価値を付ける政策。20年1月以降精錬前のニッケル輸出を禁止しているのが典型例)をさらに強化し、鉱物資源、植物、海洋資源の21分野まで広げるとしていることは要注意だ。  外交では、「中立・非同盟政策」を維持すると言われており、米中仲立ちを主唱するプラボウォは巷間、中国に近いとみられているが、必ずしもそうとも言えない。彼は、国防大臣時代に日本製の武器を調達したいと提案、その際、中国の「脅威」に対する警戒を隠さなかった。彼は、一時は米国と相当近く、いまだに米国のことが「大好き」だ。  プラボウォ大統領の元でも、インドネシアの飛躍は続き、日インドネシア関係も更に緊密化することになるであろうし、そうあるべきだ。

岡崎研究所

 

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