世界屈指の知識人エマニュエル・トッドが分析 崩壊が進むアメリカを理解するために必須な2つの概念とは?(AERA dot.) - Yahoo!ニュース
世界屈指の知識人エマニュエル・トッドが分析 崩壊が進むアメリカを理解するために必須な2つの概念とは?
配信
家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。大統領選を控える2024年のアメリカが崩壊しつつあると指摘する彼は、今のアメリカを「2つの概念」を用いて言い表します。その概念とはいったい何か? 2月13日発売の最新刊『人類の終着点――戦争、AI、ヒューマニティの未来』(朝日新書)から一部を抜粋・再編して公開します。
* * *
エマニュエル・トッド:アメリカで起こっていることを理解するために、私が導入しなければならなかった概念が一つあります。 それは「ニヒリズム(虚無主義)」という概念です。この言葉は、スペルで正確に理解しておきましょう。ニヒリズムとは「NIHILISM」と書きます。 この言葉は、1930年代にドイツが陥った狂気を理解するために使われた概念です。もちろん、今のアメリカで起きていることは同じではありません。このニヒリズムが意味するように、戦争や破壊に魅了され、現実の破壊や否定を始めることは、本当に危険なことです。 たとえば今、西側諸国がウクライナでの戦争に勝てないことは明らかです。すでに決着がついていると私は考えます。ロシアは時間をかけて、できる限りのことをするでしょう。 私の予測では、この戦争の終息には5年かかると考えています。5年というのはわれわれにとっては長い時間です。
私たちはあらゆる事態を覚悟しなければいけません。ワシントンの人々は、もはや1950年から1980年にかけて政権を担っていたような伝統的なエリートではありません。当時のアメリカには、かなり首尾一貫した白人プロテスタント、つまりアングロサクソンのエリートがいました。人々がジョークや批判を込めて、WASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタントの略称)と呼んでいた人たちです。 WASPのエリートは、いろいろな意味で馬鹿げていましたが、大統領としてルーズベルトとアイゼンハワーを輩出するなどしました。 今のアメリカに典型的なのは、プロテスタントという中核の完全な崩壊です。現在、アメリカで起こっていることを理解するためには、プロテスタント文化がアメリカやイギリスにおいて「いかに重要であったか」を理解する必要があります。 イギリスでも、プロテスタントの崩壊は並行して進んでいます。これは、最終的に、プロテスタント的価値観の完全な消滅という災厄にまで行きつくでしょう。つまり、それは「労働倫理」の消滅です。経済学における道徳の基本概念の消滅を意味します。そしてこのことが、すべての経済的機能不全の理解を可能にします。
これにより、アメリカを支える宗教的な核が消滅したため、
過去に戻ることはないと予測することが可能になります。
これが、一般的な歴史であり、経済史です。
しかし今、支配者層、ワシントンの人々、この世界をリードする人々、ジョー・バイデン、彼の安全保障顧問のジェイク・サリバン、トニー・ブリンケン、ヴィクトリア・ヌーランド、そして彼女の夫であるロバート・ケーガンといった人々は無責任であり、恐ろしい存在です。
私にとっては、西側がウクライナ戦争に勝つか、ロシアが戦争に勝つかというのはどうでも良いのです。
もっと一般的に言うと、
西側のネガティブな動きを考慮すれば、ウクライナ戦争とは関係なく、
アメリカのさらなる悪化に備えなければならないということです。
無責任なインテリやケンブリッジの学者のようなことを言って申し訳ないですが、私はフランス市民として、そして世界市民として、私たちの前にある歴史の動向に、心から怯えているのです。
――そのお答えは次の質問につながるのですが、2024年以降の世界についてお尋ねします。リベラルな寡頭制の次に来る世界システムについてどのように考えていますか。
ここ数年で、アメリカを分析する際にある言葉が頻繁に登場するようになりました。 これは、私が考えた言葉でも、個人的に導入した新しい概念でもないのですが、かなり多くの本で目にする概念です。それを「封建主義」と言います。
封建主義とは何かと言うと、二つの側面がある社会状態のことです。
これは私にとって新しい研究分野です。ですから、このことについて話すのは難しいのですが、その二つの側面とは以下のようなものです。
一つは、国家の中枢が弱体化し、国家の各部門が互いに独立して行動するようになることです。そして、もちろん体制内の富裕層、つまり以前の時代の寡頭支配者たちは、自分たちの望むように国家の断片を利用したり、行動したり、影響を与えたりする傾向がますます強くなっています。ローマ帝国が崩壊した後にも、このようなことが起こりました。これは、社会の上層から見た封建制だと言えるでしょう。
封建主義とは一種の「権力の崩壊」をもたらし、超富裕層が真の寡頭支配者になるような権力システムです。寡頭支配の本当の意味は、少数者の権力です。富裕層が権力を持つ金権政治とは異なります。つまり、寡頭制から封建制への移行は、非常に小さな動きとなるのです。
もう一つの側面は、「人を買う」ことができるところにあります。
まず
資本主義とは、基本的にお金でモノを買うことができるシステムです。
資本主義では、少しのお金なら小さなものを、たくさんのお金があれば大きなものを買うことができます。
しかし封建制は、モノを買うのではなく、
人まで買えるようになる段階です。
アメリカの寡頭支配者は、シンクタンクに資金を提供することで、必要とするイデオロギーやプログラムを作ったり、発言したりします。これはすでに完成しています。
私が言う「人を買う」とはもっと悪い状態です。
「人を買う」段階とは、
裁判や司法制度における不平等が経済主体となりうるシステムが完成した段階です。
エマニュエル・トッド
【関連記事】