じつは一致している、アメリカと中国の利害(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース

じつは一致している、アメリカと中国の利害

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現代ビジネス

 

 人生の楽しみは喜怒哀楽の総量で決まる。  「還暦からの」と銘打ってますが、還暦未満のあなたにもきっと役立つ。 人生100年時代をパワフルに行動するための出口流初の人生指南!

 

  【写真】「日本が低学歴社会化している」という「衝撃の事実」

 

こんな時代だからこそ、元気にいきましょう!  『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』には出口さんのように元気に生きるヒントが満載です。

 

  ※本記事は2020年に刊行された出口治明『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』から抜粋・編集したものです。

世の中はお金が回っていればだいたいうまくいく

 現代の国際情勢や現代社会についても少し触れておきましょう。  まず、視点の置き方について。  世の中や社会を見るときに、もっとも重要なポイントになるのは経済です。人間はお金がうまく回っていれば、だいたいハッピーになれます。多少不協和音があったとしても、世界の経済がちゃんと回っていれば、全体としてはうまくいきます。  この30年間の世界の平均成長率はおおむね3.5%くらいで推移してきました。そこで、大ざっぱにいえば3.5%くらいを目安にして、それ以上であれば世界の経済はまあまあうまくいっている、それ以下ならちょっとまずいというように、経済の大きな流れを見ることがとても大切です。  仕事があって、お金がうまく回っていれば、ブーブー不満はいいながらもみんなはなんとか生きていけます。  次に重要なポイントは、きちんとデータに基づいて世界を見ることです。『ファクトフルネス』という本がベストセラーになったのが象徴的ですが、その重要性はだんだん浸透してきたように思います。  残念なことに世の中では「実はこんなに大変な事態が起こっている」と悲観論や極論、陰謀論で人々を脅すほうが大きな反響を得られるので、そういう本や過度に悲観的なことを主張する人が後を絶ちません。  しかし歴史を振り返れば悲観論は全敗しています。これは劇的な科学や技術の進歩を、人間のあまり賢くない脳みそでは想像できなかったからです。  ものすごくわかりやすい例をあげましょう。僕は子供の頃、三重県の山奥で育ちました。休みの日は父親に連れられて山に入って木を切って、それを乾かしてなたで割り、薪をつくってお風呂を沸かしたり、一部は炭にしたりして暖を取っていました。  そんな生活をおくっていたのですが、中学生の頃、石油ストーブが入ってきました。これで山に入って木を切り、薪をつくる必要がなくなり、めちゃ楽になりました。  文明ってすごいなと実感していたその時期に、中学校の社会の時間に先生が「石油はあと30年しかもちません」と教えてくれました。当時、14~15歳だった僕がそのとき思ったことは、「40歳を超えたらまた木を切らなければいけないのか……」ということでした。  ところが古希を超えたいま、石油が枯渇する気配は全くなく、木を切りに山に入ることも薪をつくることもせずに済んでいます。このように人間の頭で未来を予見することはなかなか難しいのです。  最後のポイントは、指導者です。『還暦からの底力 歴史・人・旅に学ぶ生き方』で日本のかつての指導者の教養のなさによる判断の誤りが国の没落を招いたと指摘しましたが、指導者の良し悪しは社会に大きな影響を与えます。  指導者がいかに重要かを知るうえでは、バルカン半島の紛争が史上初の総力戦、第一次世界大戦へと展開する過程をまとめたクリストファー・クラークの『夢遊病者たち』という本がとても参考になります。この本は誰も戦争などやりたくないのに、みんなが優柔不断で愚かな小さい決定を繰り返していくうちに大戦争になっていく様子を描いた傑作です。  歴史にはこうした例がたくさんあります。しかも人間の脳はこの1万年ほど進化していませんから、過去の指導者の在り方や言動をきちんと見ておくことがとても重要です。

 

 

米中摩擦が米ソ冷戦の二の舞にならない理由

 以上の視点を持って、現在の世界情勢について眺めてみましょう。  いま、国際関係で注目が集まっているのは、コロナウィルスの問題ももちろん大切ですが、何といってもハイテク・軍事覇権を賭けた米中貿易摩擦です。  名目GDPを見るとアメリカは中国よりも上ですが、購買力平価ベースのGDPでみると、中国はすでにアメリカを上回っており、もう既に米中の経済力はほぼ拮抗しているといえます。

 

  経済的にはすでにG2の世界に突入しており、歴史を振り返ってみるとナンバー1にナンバー2が肉薄すると、ナンバー1はナンバー2の頭を叩こうとするのが通例です。米中関係は基本的にこのような構図に則っています。

 

 

  ただ、かつての米ソの冷戦の二の舞になるかといえば、僕はそうはならないと思います。その理由は2つあって、一つはアメリカと中国にはたくさんの人の交流があることです。アメリカとソ連の間にはほとんど人の交流がなく、その象徴がベルリンの壁でした。人の行き来がないということは当然、商売の関係もなく、冷戦時代は自由主義圏と共産主義圏がそれぞれ経済的に独立していました。

 

  ところが、現在は中国からアメリカに行って学ぶ

留学生数だけでもおよそ37万人

国境を超えた人的ネットワークが形成されています。東京大学の柳川範之教授は、

キャッシュレス化が進みスタートアップ企業が集まる中国の深圳や杭州には、

アメリカで教育を受け、博士号を取得して中国に帰国した人材が少なくない

と指摘し、次のように述べています。

 

 

 ---------- 実は深圳とシリコンバレーとの人的・資金的面での結びつきは意外と強く、それはワシントンと北京との間の貿易戦争を見ていたのではなかなか把握できない。やや大げさな言い方をすれば、深圳と北京、シリコンバレーとワシントンとの距離よりも、深圳とシリコンバレーとの距離のほうが、ずっと近いのだ。 (柳川範之「国の枠超えつながる人々 政策・経営戦略も再考必要」2018年7月17日 日本経済新聞) ----------  このような動きをみれば、アメリカと中国の結びつきは非常に強いことがわかります。それを全部断ち切って、どこかにベルリンの壁のようなものをつくることは難しいでしょう。

 

 

 

 

 

実は一致している米中の利害

 もう一つの理由は、よく考えてみると現在の世界秩序は中国にとってとても都合がいいことです。  第二次世界大戦後の世界秩序は、戦争に勝利した連合国のうち主要5ヵ国が国連の安全保障理事会の常任理事国として拒否権を持つ体制で運営されてきました。この5大国の順位は実質的には経済力で決まりますから、現在の世界体制は自ずとアメリカと中国のG2ということになります。  2016年、IMFが人民元を特別引出権(SDR)通貨バスケットに採用したのはその象徴です。特別引出権とは加盟国の準備資産を補完する手段としてIMFが創設した国際準備資産で、中国人民元は米ドル、ユーロ、日本円、スターリングポンドの4通貨に続く5番目の採用通貨となりました。これは国際貿易で中国の役割が拡大し、国際的な人民元の利用や取引が非常に増加したことを反映しています。  一方、いまの中国に世界の警察官の役割は果たせません。空母を保有するようになってはいますがまだ十分機能する水準にはなく、アメリカのように世界のどこにでも展開できる体制にはなっていません。  だからアメリカに世界の警察官の役割を果たしてもらいながら、自分たちはひたすら経済に力を入れるほうが中国にとっては都合がいいのです。そう考えると中国は新しい世界秩序は求めておらず、アメリカと中国の利害はベーシックなところでは一致していると思います。  もちろん世界のナンバー1とナンバー2が報復的に関税をとことんかけあうと大変な事態になってしまいますが、米ソ冷戦時代のキューバ危機のような一触即発の危機的な状況には陥らないのではないかと思います。  もし中国が自制的な姿勢を失い、両国の指導者がカッカし始めたらかなりまずい事態が生じるかもしれませんが、密接な経済関係を十分考慮したうえで今のところ、中国は売られた喧嘩に冷静に対処しています。

 

  何より、中国の官僚は

ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学といった

アメリカのトップ大学で勉強したエリート揃いで、

アメリカの実力をよく知っています。

東条英機のように国力の差を無視し、

精神力に頼って戦争を始めるような人は

おそらくいないでしょう。

 

 

これから世界を牽引する地域はどこか

写真:現代ビジネス

 EUに目を向けると、連合王国のEU離脱問題、いわゆるブレグジットがあります。  2020年1月に連合王国はEUから離脱しました。しかし、ほとんどすべてのエコノミストが残留したケースに比べGDPは確実に小さくなるとの予測を立てています。  経済合理性から考えれば、EUに残ったほうが得なのは明らかです。しかし誇り高い連合王国の人々が、「なぜブリュッセルのEU官僚の言いなりにならなければいけないのだ」とジョンブル魂を発揮してしまったわけです。

 

  僕は50年単位でみたら連合王国はEUに戻ると思っています。なぜなら、連合王国は大陸との交易で豊かになってきた歴史を持っているからです。離脱したら損をするからです。どんな国であっても長期的に見たら、わざわざ貧しくなる道は選びません。

 

  EUはいろいろな要因で揺れはするものの、バラバラになることはないでしょう。EUの根幹は独仏同盟です。フランスのド・ゴール大統領と西ドイツのアデナウアー首相が胸襟を開いて話し合い、調印したエリゼ条約が元になっています。

 

  「俺たちは普仏戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦とこの100年間に3回殴り合った。死力を尽くして戦った結果、俺たち欧州勢の力は低下し、遠くのソ連とアメリカが大きな顔をするようになった。戦って誰が得をしたかといえばソ連とアメリカだ。こんな馬鹿馬鹿しいことはないので、これからは仲良くして、もうこれ以上よその奴らに大きな顔をさせるのはやめよう」  2人が話し合って締結したエリゼ条約の趣旨はこのようなものです。

 

 

  さらに2019年、フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相はアーヘン条約に調印し、エリゼ条約をさらに強化しました。独仏関係が安泰である限り、EUはびくともしないでしょう。なぜならEUがバラバラになると、得をするのはEU以外の国であることを独仏首脳はよくわかっているからです。

 

  新興諸国に目を向けると、これから注目すべき地域はアフリカです。あと30年くらいでアフリカの人口はアジアの人口とほぼ一緒になると予測されています。

  アフリカで一番の人口大国であるナイジェリアがイスラム過激派との間で内戦状態になっているなど心配な要素や課題は多々ありますが、今後はアフリカの国々の成長と安定が国際的に見て極めて重要なイシューであり、長い目で見るとアフリカがいかにサステイナブルに発展していくかが世界の命運を握ると思います。

 

 

  中国はかなり以前からアフリカを重視し、進出のためにさまざまな手を打っています。

それは深刻な摩擦も引き起こしていますが、

中国が国家百年の計に立ち長期的な視点を持っていることの現れでしょう。

 

  アフリカ以外の地域では、アジアではインド、パキスタン、バングラデシュ、インドネシア、ベトナムなどで人口の増加が目立ちます。それらの多くはイスラム圏です。

 

南米も人口が増加します。これから世界を牽引するのは、アフリカとこうした地域になるでしょう。人口はAIやIoTの時代になっても、なお力のバロメーターなのです。

 

  一方、日本では人口が減少していきます。人口が減って栄えた国や地域はありません。

 「次世代のために生きる」という本書の視点からも、

この問題については官民をあげて真剣に取り組んでいく必要があります。

 

 

  *  さらに【つづき】

〈「日本が低学歴社会化している」という「衝撃の事実」

…大学に入っても勉強しない、大学院生が就職できない〉では、

「飯・風呂・寝る」の日本の低学歴社会について、くわしくみていきます。

出口 治明(ライフネット生命創業者・立命館アジア太平洋大学(APU)学長)

 

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