「社民・福島党首訪中」に見る中国の隠された狙い 「中国は愚か」と侮った時点で術中にはまっている(東洋経済オンライン) - Yahoo!ニュース

「社民・福島党首訪中」に見る中国の隠された狙い 「中国は愚か」と侮った時点で術中にはまっている

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東洋経済オンライン

社民党の福島瑞穂党首は中国の王滬寧政治局常務委員と会談(写真:新華社/アフロ)

 

 社民党の福島瑞穂党首が1月18日から20日にかけて中国を訪問、中国人民抗日戦争記念館を見学し、

「社民党は憲法改正に反対であり、

憲法の精神を貫徹するために全力で努力する」と述べた。

(注:中国は、日本国憲法の精神を、踏みにじっているのに!)

 

中国共産党序列4位の王滬寧(おう・こねい)政治局常務委員とも会談し、

福島第一原発の処理水放出に反対することで一致した。

 

  王滬寧氏は、“法宝=魔法の武器”と呼ばれ、

「主要敵を内部分裂させたり、友好勢力を増やそうとする

策略『統一戦線工作』(防衛省:NIDSコメンタリー 第288号より)」を主導している

と目される人物であり、

その危険性を指摘する声が上がっている。

 

 

 そもそも、統一戦線工作とは、主として好意的な親中派を拡大させるプロパガンダ工作であるとされ、中国へのネガティブな論調を抑え込むこともその目的に入る。

 

  その工作対象は、主に華僑、海外の友好人士で、目的を達成するために日本に基盤を持つ多くの組織・友好団体を利用し、政財界のエリート層を親中派にさせる試みも行っている。

 

  本稿では、これら状況も踏まえ、福島党首訪中における中国の狙いについて考察していく

(福島党首の政治信条・理念を否定するものではないことをことわっておく)。

 

 

■中国の隠された狙いとは?

 

   素直に受け取るならば、王滬寧氏は世界中の友党との関係構築も担っており、その一環で会談したに過ぎないと見ることもできる。しかし、ここでは中国側の真の意図を考察したい。

 

  今回の訪中を受けて

「影響力が衰え、弱体化が進む社民党の党首をなぜ中国はプロバガンダまがいに利用するのか」

「中国は愚かだ」といった声が多く聞かれる。

 

  しかし、中国が“狙い”をもって動いていることに疑いの余地はなく、

決して「中国は愚かだ」などと侮ってはいけない。

侮った時点で中国の思惑の1つを達成させることになるだろう。

 

 

 また、小さい政党とはいえ、

日本の党首の行動や発言について、

日中以外の第3国からどう見えるだろうか。

 “日本の政党のトップ”という肩書は小さくない。

 

  まず、国内の報道では、どうも今回の訪中における重要キーワードが「処理水」になってしまっている。

 

中国の立場からすれば、「処理水放出反対」といったトピックは重要ではない。

むしろ、中国の目論見はほぼ失敗に終わっており、

振り上げた拳を下ろす先を探している状態だ。

 

 

 

 

 

 現に、今回の訪中について中国メディアの人民網や新華網では、福島原発処理水に関する発言を取り上げた報道は見られず、日中平和友好や“4つの政治文書”の確認といった内容が中心であった。日本のメディアとしても、会談における処理水発言を大きく取り上げてしまえば、ある意味中国の宣伝工作に加担していることになるが、中国としてはむしろ“触れてほしくない”状況だろう。

 

  では、中国の狙いとして、海外向けの宣伝といった視点で考えるとどうだろうか。日中以外の主要メディアにおける今回の訪中の扱いは小さく、報じているメディアも多くない。対外向けの宣伝として大きな効果はないように見える。

 しかし、日本の政党のトップが中国と思惑を一致させているという絵面はそれなりに利用できるため、今後使うかはともかく、中国が宣伝材料の1つを手に入れたとは言えよう。

 

 ■処理水は重要トピックではない

 

  そして、中国の隠れた狙いは、「日本国内向けの発信」にあったのではないかと推察する。  福島党首の政治思想は中国と共鳴する部分が見られ、「社民党が保有するコミュニティ=中国の思惑に一定程度共鳴するコミュニティ」に対する発信にその狙いが隠されていたと見る。

 

 一つ目の発信は、

「我々(中国)はあなた方を大切に考えている」というメッセージを発信し、当該コミュニティとのパイプの維持を狙う。

  もう一つは、コミュニティに対する「日本国憲法改正反対」への強い意思の確認・発信であり、

これが真の狙いであったと考える。

 

筆者は、今回の訪中における重要なキーワードは「処理水」ではなく、

「憲法改正反対」であったと推察する。

 

  まず、人民網“日本語版”でも処理水に関する発言を取り上げた報道は確認できていない。一方で、訪中に関して新華網の報道を引用する形で「福島瑞穂社民党党首が中国人民抗日戦争記念館を見学」と題し、日中平和友好に触れながら、福島党首の「日本国憲法は、日本は再び戦争を発動してはならないと定めた。これは世界とアジアに対する約束であり宣言だ。社民党は憲法改正に反対であり、憲法の精神を貫徹するために全力で努力する」といったコメントを紹介していた。

 

 

 

 岸田首相は、2024年9月までの自民党総裁任期中に憲法改正を目指す姿勢を鮮明にしており、憲法改正への意欲は高い。

このような中で、憲法改正に警戒感を示す中国が、憲法改正に反対姿勢を示す社民党の党首と思惑が一致していると敢えて示したことは、

日本国内に存在する“自身(中国)への共鳴コミュニティ”に

対するメッセージとしては、

それなりの意味と決意の度合いを示しているのではないだろうか。

 

 ■改憲反対への意欲? 

 

 そもそも、憲法改正について、自民党・公明党はともかく、立憲民主党は完全に反対というスタンスではない。すると、中国として憲法改正を阻止するために頼れるのは、社民党と共産党くらいだ。

 

  その社民党も公式HP内(1/26の社会新報より)にて「日中関係の改善へ平和外交」と題し、能登半島地震犠牲者への追悼、ビザ緩和への手ごたえ、抗日戦争記念館で献花と3つのトピックを紹介し、最後には「2度と戦争しないと決めた日本国憲法は、世界に対する、アジアに対する約束であり宣言です。社民党は、憲法改悪をさせず、憲法を活かしていく政治を、全力でやっていきます」と締めくくっている。

 

 これまで社民党HP内の社会新報で3回にわたって今回の訪中について報告がされているが、3回とも処理水に関しては触れられていない。また、3回中2回、訪中に際し平和友好と憲法改正反対について触れられている。

 

  中国の狙いは彼らだけが知るところではあるが、日本国内向けコミュニティへのメッセージに特に隠された重要な意味合いがあったのではないかと筆者は考える。

 

  そして、憲法改正の動きが具体化した際に、日中以外の第三国向けの宣伝材料として利用価値が残る可能性も捨てきれず、狙いの1つであった可能性もある。

 

 親中派議員が訪中すると「中国の工作に引っかかった」という声をよく聞く。  しかし、可能性としては“ある”一方で、中国が日本の政治家に対し獲得工作を仕掛け、成功し、中国の意のままに動いているという確たる裏付けのある事例は極めて少ない。その工作自体の裏付けが公になっていないのが実情であり、断言できずに臆測の域を出ない“難しさ”がある。

 

 

 ■訪中する議員は中国に取り込まれているのか

 

  ここには防諜上の問題があり、日本の防諜を司る機関が一定程度の具体性をもってその工作活動を指摘するような“発信力”が求められている。例えば警察白書では、政治工作について具体性のある記載はない。

 

 

 

 

 当然、防諜活動自体の暴露の危険性や政治活動、外交問題とのバランスが重要であるのは言うまでもないが、

一定の顕著な例は、個々の名を出さずとも、

工作活動例として示すべきではないだろうか。

 

あえて公的機関が指摘しなければ、

工作を指摘する声も臆測の域から脱出できず、

いつまで経っても国民の危機意識は高まらない。

 

 

  一方で、より注意すべきは“友好人士の「利用」”だ。

中国は共鳴する人間を利用することを常としている。

では中国側はどう働きかけるのか。

 

 中国共産党の各種工作について克明に示した良著『見えない手』(クライブ・ハミルトン、マレイケ・オールバーグ)に興味深い内容が示されている。

 

  カナダの駐中国大使を務めたデヴィッド・マルローニーによれば、

「あなた一人だけが、状況を理解し、

母国の政府に説明するために必要な才能と経験を持っている。

両国の運命はあなたの手に託されている」と言い、

中国共産党は虚栄心を巧みに操るという。

 

  特に、政治家やその関係者は、安易に共鳴する姿勢を見せることで、

悪意・故意なく中国に利用されかねない危険性が存在している

ことを理解していただきたい。

稲村 悠 :日本カウンターインテリジェンス協会 代表理事

 

 

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