石原莞爾と昭和の夢 地ひらく

2004/9/2 福田和也(著)

関東軍参謀の職を解かれた石原莞爾は、満州を離れ4年ぶりの内地勤務に就く。
2・26事件勃発後、陸軍の主流に押し上げられるも、彼は独裁者への道を択ばなかった。
南京事件、ノモンハン、敗戦…日本が直面する事態に、石原はどのようにコミットしたのか。
昭和が生んだカリスマの生涯と激動の時代を描き切った超大作・完結篇。
 
福田/和也
1960年、東京生まれ。慶応義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院文学研究科仏文学専攻修士課程修了。
現在、慶応義塾大学教授。文芸評論家として文壇、論壇で活躍中。
93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、
96年『甘美な人生』で平林たい子文学賞、
2002年『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞を受賞した

 

 

石原莞爾と昭和の夢 地ひらく 上 (文春文庫) 石原莞爾と昭和の夢 地ひらく 下 (文春文庫)

 

==或る書評から

ある意味、失敗学の教科書なのやもしれぬな


満州事変が成功したのにその後はグダグダになったのはどうしてか
満州国が日本の植民地として方向性が変わってしまったのはどうしてか
忠実なる幕僚であったはずの東条英機がせこい軍政家になったのはなぜ
石原莞爾が出世にあくせくする普通の将校たちを侮蔑していった結果
気がつけば多くの将校に嫌われて自分の意思を政策に反映できなくなったのとか
もっとも避けたかったはずの日米開戦にいたった経緯とか
もうちょっとせこく立ち回っていればより自分の理想を実現できたのにねえ、

と思ってしまう

 

 

==或る書評から

上下巻通して読んでみると、非常に良く出来た本だと思いました。
自虐史観でも、英雄史観でもない、著者なりの戦争観が描かれていると感じました。
本書は、石原莞爾の評伝というより、石原を通しての大東亜戦争が描かれており、
感じ方は読んだ人それぞれでしょうが、それでも戦争を知らない私達世代に、
なぜあの戦争があったのか?という疑問に対して、本質的なかたちでの示唆を与えてくれる本だと思います。

本書によると、大東亜共栄圏という概念は、元々石原莞爾によって生みだされたものであり、
後付けで大東亜戦争の大義として持ち上げられた、ということが描かれています。
もし石原莞爾という存在が無かったら、

おそらく戦争はもっと悲惨を極めたものになっていたのではないか?
と思わせる内容になっています。
(だからといって、石原が偉大な人物であったという評価は避けるべきだと思いますが。)

今現在、安全保障の問題が様々なメディアを通して、取りざたされていますが、
そういう世論に乗る前に、戦争に対する洞察力に富んだ本書を読んで、自分なりの戦争観を持てたのは、
とても良かったと思います。

 

==或る書評から

石原莞爾が満州事変を強引に引き起こし、その後中国での戦線拡大には反対していた理由(心の変化)を知りたかった。その心の機微や中国国内の状況変化が、全編を通じて読めばわかる。

石原自身が官僚機構的な組織をかなり嫌っていたことは、意外でした

(組織内での功名心で満州事変を起こしたと思っていたので)。

その中国国内での状況変化に関する説明が上下ともに半分ぐらいを割いています。

この環境の変化(現代史)は、高校の日本史であいまいに飛ばされる部分でわけがわからなかったのですが、

この本では丁寧に説明されていてよくわかります。

歴史の事実に対して福田先生のかなり強引な理解解釈もあり、一部に???と思う箇所もありますが、

全体としては戦後のバイアスのかかった見方でなく、

「当時の価値観」でどうだったのか、という視点で説明されています。

「学校で習った説明が、どうも腑に落ちない」と思っていたことに、

「なるほど、当時の考え方なら、そうだよね。」と目からうろこの説明や解釈が多数あります。