【舛添直言】民主主義はこのままポピュリズムに堕してしまうのか(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

【舛添直言】民主主義はこのままポピュリズムに堕してしまうのか

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1月25日、トランプタワーの外で支持者に応えるトランプ前米大統領=ニューヨーク(写真:ロイター=共同)

 (舛添 要一:国際政治学者)  1月23日に行われたニューハンプシャー州の共和党予備選で、トランプがヘイリーに勝った。16日のアイオワ州の党員集会に続くトランプの連勝である。 

 

【写真】1月23日日、米ニューハンプシャー州予備選の集会で演説するヘイリー元国連大使=同州コンコード

 

■ ヘイリーは撤退しない  選挙結果は、トランプが54.6%、ヘイリーが43.1%(集計率92%)で、11ポイント以上もの差でトランプが制した。ヘイリーは善戦したものの、共和党の穏健派が強いこの州でも勝てなかったことは痛い。  ニューハンプシャー州では、共和党員として登録していなくても投票できる。そこで、ヘイリー陣営は無党派層に働きかける戦術をとり、無党派層の6割の支持を得た。しかし、共和党の保守的なトランプ岩盤支持層は強固であった。出口調査によると、共和党員の4分の3がトランプに投票している。  ヘイリーは、選挙戦を続けることを表明した。そして、その根拠として、民主党のバイデンと対決するとき、共和党では、トランプでは負けるがヘイリーでは勝つという世論調査の結果を示した。  次は2月8日のネバダ州の党員集会であるが、ヘイリーは不参加を決めており、トランプの勝利が確実である。  その後は2月24日のサウスカロライナ州での予備選挙であるが、この州でヘイリーは知事を務めたことがあり、勝算ありと見ての強気の姿勢である。

 しかし、事前の世論調査の結果を見ると、ヘイリーに勝ち目はなさそうである。そうなると、2月24日前に撤退という決定をするかもしれない。勝算がなければ、選挙資金も集まらないからである。3月5日は、予備選と党員集会が集中するスーパーチューズデーであるが、そこまでヘイリーが選挙戦を継続できるかどうかわからない。  アイオワ州党員集会では、トランプが51.0%、フロリダ州知事のデサンティスが21.1%、ヘイリーが19.1%、実業家のラマスワミが7.7%という結果で、デサンティスとラマスワミは指名レースから撤退した。  トランプは、連邦議会占拠事件など4つの事件で起訴されているが、かえってそれが支持層を固めるのに役立っている。連邦最高裁も、立候補を認めないという判決は下さないのではないかと予想されている。  今のところ、トランプが共和党候補となる確率は高い。民主党はバイデンが候補になるであろう。まさに老老対決である。

 

 ■ トランプのスローガンはまたも「MAGA」

 

  今回もまた、トランプは、2016年の大統領選と同じ

「再びアメリカを偉大に(Make America Great Again)」をスローガンにして選挙戦を展開している。

それは、不法移民の流入や安価な外国製品の輸入によって

自分たちの生活が脅かされているという

白人中間層に今なお訴えるものがあるからである。

 

 

ニューハンプシャー州の予備選では、白人、男性、農村部、世帯収入が5万ドル以下の有権者の多くがトランプに投票している。  2016年には、安価な中国製品などの流入で職を失ったラストベルト(錆び付いた工業地帯)の白人労働者が、大挙してトランプ支持に回ったのである。トランプは、彼らへの公約を守るために、石炭産業を復活させた。国際経済では保護貿易主義を貫き、オバマ政権が締結したTPPから離脱した。また、パリ協定(地球温暖化対策)も反故にし、地球温暖化など学者のでっち上げだとしたのである。

 

 

 さらに、米英仏独中露とイランとの間で10年にもわたる難交渉の末に2015年に締結されたイランとの核合意からも離脱した。イランの核武装を阻止する重要な取り決めであったが、このようなトランプ政権の姿勢は、イランの反米色を強めてしまった。  また、移民の不法流入を防止するために、トランプはメキシコとの国境に壁を作った。当時の民主党は猛反対したし、2020年の大統領選では、バイデンは、「自分が当選したら、もう壁は1フィートたりとも作らない」と約束していた。ところが、昨年10月にバイデンは、壁の建設を再開することを明らかにした。これに対して、トランプは、「バイデンは私が正しかったと証明した」とSNSに投稿している。 ■ 典型的ポピュリスト  トランプ政権の政策は、「アメリカ第一主義(America First)」そのものであった。シリア内戦では米軍撤退を急ぎすぎたために、ロシアの進出を許してしまった。北朝鮮の金正恩と首脳会談を行ったが、失敗に終わり、北朝鮮はその後、核ミサイル開発を加速させた。また、経済関係で中国を攻撃するあまり米中関係を悪化させたのもトランプである。  トランプは、ウクライナ戦争もガザでの戦闘も、起こったのはバイデン政権下だとして、自分が大統領だったら戦争は起こらなかったと豪語している。  トランプは在任中にイスラエルへの支持を明確にし、パレスチナ人の反発を呼んだ。  以上のようなトランプの手法はポピュリズムそのものであり、MAGAのスローガンで大衆を動かすことによって、トランプはアメリカを分断させた。

■ 福音派を票田に  妊娠中絶や同性婚について、アメリカは二分されている。単純化して言えば、これらに賛成する者の多くが民主党支持で、反対する者には共和党支持者が多い。とくにキリスト教福音派の8割は共和党支持である。  福音派は、聖書(新訳、旧訳とも)に書いてある一言一句をそのまま信じる人たちであり、妊娠中絶・同性婚には反対、ユダヤ人が建国したイスラエルを支援する。  今回の大統領選でも、トランプはこの福音派の支持を調達しようとしており、自分の政策が福音派の考え方と同じであることを強調する。  トランプは、大統領在任中に連邦最高裁に3人の保守派判事を送り込んだ。その結果、保守派判事が過半数を占め、2022年6月、妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決(ロウ対ウェード判決)を49年ぶりに覆した。トランプは、これは保守派の判事を任命した自分の業績だと、福音派にアピールしている。  アメリカでは、最高裁判事は終身制であり、前政権が任命した判事が現政権と対立する判決を下すことがよくある。三権分立が徹底しているからだが、それがかえって判決の政治性を増すという皮肉な状況になっている。

 

 

 妊娠中絶反対、イスラエル支持という2点について、トランプが大きな成果を上げたとして、

その功績を福音派は高く評価している。

 

 

 ■ 「トランプ大統領」で世界は混乱する 

 

 これから先、11月5日の投票日まで何が起こるか分からないが、トランプがまた大統領になる可能性は十分にある。その場合、世界中に激動が生じるであろう。  ウクライナ戦争については、トランプは、自分が大統領だったら直ぐに戦争を終わらせると言い続けてきた。また、共和党内には、無制限にウクライナ支援を継続することに反対する意見もある。アメリカからの武器支援が滞ればウクライナは戦えない。トランプ勝利は、ウクライナにとっては大きなリスクとなる。  自前でも十分な継戦能力のあるロシアにとっては、願ってもない状況である。そこで、アメリカ大統領選挙に対して、ロシアがサイバー攻撃まがいの様々な工作を展開することが予想される。ロシアは、アメリカ大統領選挙が終わるまでは、絶対に戦争を止めないであろう。3月のロシアの大統領選挙でプーチンが勝つことはほぼ確実である。

 

 

■ 民主主義陣営を破壊しかねないトランプ

 

  トランプ勝利の場合、ガザでの戦闘はどうなるか。先述したようにトランプのイスラエル寄り姿勢は明らかである。バイデン政権や国際社会が求めているような二国家共存路線をトランプが支持するかどうかは不明である。トランプは、二国家共存を認めないネタニヤフ首相のような強硬派に近い。したがって、イスラエルへの支持を強化するであろう。

 

  この点でも、アメリカ社会を分断させるであろう。イスラエルへの支援が増える分、ウクライナへ振り向ける支援は減らされることになる。

 

  トランプが停戦後のガザをどうするのかというシナリオを描いているとは思えない。

  やはり、トランプ政権は世界の安定をもたらすとは言えないのではないか。

 

  世界では民主主義が退潮し、権威主義の力が増している。

そのような中で、民主主義陣営のトップであるアメリカが分断し、

ポピュリズムなど、民主主義の負の側面が露わになれば、自由な社会は窒息する。

 

後世の歴史家は2024年をどのような年として叙述するのであろうか。

 

  【舛添要一】 国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』(小学館新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。

舛添 要一

 

 

 

 

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