【アメリカ大統領選を分かりやすく解説】頭角を現すトランプ前大統領、なぜここまで支持されている?(All About) - Yahoo!ニュース

【アメリカ大統領選を分かりやすく解説】頭角を現すトランプ前大統領、なぜここまで支持されている?

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共和党の大統領選挙指名候補の初戦、ドナルド・トランプ前大統領が圧勝したことで大きな話題を呼んだ。2024年、国際情勢を大きく左右することになるアメリカの大統領選挙について、基本的なところから解説する。(サムネイル画像出典:Evan El-Amin / Shutterstock.com)

 

 

2024年は世界各地で選挙が行われるが、その中でも特に注目なのが、世界最大の経済大国であるアメリカの大統領選挙だ。 4年に1度行われる大統領選挙は、1月15日にすでに始まっている。中西部アイオワ州で、共和党の大統領選挙指名候補争いの初戦が行われ、ドナルド・トランプ前大統領が圧勝している。 アメリカの大統領選挙は、アメリカにとってアジアで最も重要な同盟国である日本にも、多大なる影響を与える。在日米軍が存在し、経済の結びつきも強いからだ。ただそんなアメリカのトップを選ぶ大統領選挙は、少し仕組みが分かりにくい。そこで、本記事では分かりやすく大統領選挙について解説したい。 さらに、すでに共和党指名候補争いでその勢いを見せつけ、今回の選挙の台風の目になっているトランプ前大統領の動向も、今年ニュースをたびたびにぎわすであろう大統領選への理解度を高めるのに不可欠なので最後に考察する。

 

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◆アメリカの政治における「二大政党制」とは

アメリカの政治は、二大政党制が形成されている。保守政党である共和党と、リベラルの民主党である。2つのうち、どちらかの政党が政権を担う形は伝統的なものであり、1852年以降、大統領もどちらかの党から選出されている。また日本の国会に当たる連邦議会は上院と下院に分けられているが、どちらも、やはり共和党または民主党が支配してきた。 大統領を選ぶ選挙は、2段階に分かれている。まずは、それぞれの党が、全50州で州ごとに大統領候補を選び、最終的に党の全国委員会(本部)が1人を指名する。そして両政党で指名候補が決まると、そこから候補者同士の一騎打ちになる。 これは、日程を追いながら見ると分かりやすい。冒頭で述べた通り、2024年の大統領選挙は、まず共和党が15日に中西部アイオワ州で党員集会を行ったことで始まった。党員集会とは、「Caucus(コーカス)」と呼ばれ、州内で地区ごとに議論をして候補を決める方法だ。最終的に州全体を集計して、州の候補を選ぶ。

 

 

 

 

◆ヘイリー元国連大使は撤退を否定。だが現時点で優勢はトランプ氏

今回の共和党指名候補者争いでは、トランプ前大統領のほか、フロリダ州のロン・デサンティス知事、ニッキー・ヘイリー元国連大使が出馬していた。ただアイオワ州でトランプ前大統領が圧勝したことで、もう勝ち目がないと悟ったデサンティス知事が、選挙から撤退を発表。現在、共和党ではトランプ前大統領とヘイリー元国連大使が指名を目指して戦っている。 そして23日には、北東部ニューハンプシャー州で共和党の予備選挙が行われた。ここで混乱した人もいるかもしれないが、ニューハンプシャー州では、党員集会ではなく、予備選挙が行われている。基本的に、どちらの方法を採用しても、州で候補者を選ぶことに変わりないが、投票スタイルが違う。予備選では、有権者それぞれが投票を行うことで指名候補を選ぶ。 今回のニューハンプシャー州での予備選では、トランプ前大統領がヘイリー元国連大使に圧勝した。実は共和党の過去の指名候補争いを振り返ると、最初の2州で勝利した候補が、最終的に党の指名を獲得できなかった例はない。つまり、トランプ前大統領が指名候補になる可能性はかなり高いことになる。 だがヘイリー元国連大使は撤退を否定。2月24日に行われる共和党指名候補のサウスカロライナ州の予備選では、ヘイリー元国連大使が同州出身で知事を務めたこともあり、地元で勝利して起死回生を狙っていると見られる。 ただ、世論調査を見ていると、サウスカロライナ州ではトランプ前大統領が圧倒的に優勢で、ヘイリー候補がサウスカロライナ州で敗れたら選挙戦から撤退する可能性が高い。

◆民主党=バイデン大統領、共和党=トランプ前大統領が事実上決定か

では、民主党はどうなっているのか。民主党も各州で党大会や予備選が行われるが、ジョー・バイデン大統領が出馬宣言しているので、基本的には現職大統領がそのまま民主党の指名候補になる。

民主党の場合は、初戦が1月23日のニューハンプシャー州の予備選だったが、バイデン大統領が難なく勝利している(ちなみに民主党側は次のサウスカロライナ州を実質的な初戦ということにすると主張している)。 今後の日程的に、2月は各州で、民主党も共和党も党員集会や予備選が行われる。だが次に注目してほしいのが、大統領選の党指名候補争いの山場となる3月5日の「スーパー・チューズデー」だ。同日に、どちらの党も多くの州で選挙が行われる。

 

 もっとも、今年の大統領選では、スーパー・チューズデーを待つまでもなく、

民主党はバイデン大統領で、共和党はトランプ前大統領が、

指名候補に事実上決定しているはずだ。

 

ただ正式に両党が指名候補を指名するのは、まだ少し先になる。指名が決定されるのは「党大会(全国大会)」である。 共和党は、7月15~18日にウィスコンシン州ミルウォーキーで党大会を開催する。民主党は、8月19~22日、イリノイ州シカゴで党大会を行う予定だ。

 

これ以降は、バイデン大統領とトランプ前大統領が一騎打ちで大統領選の本選を戦うと見られている。

 この本選も、少し分かりにくいので簡単に説明したい。

 候補者が決まると、大統領討論会委員会が決めた討論会が3度にわたって行われる。

テレビやオンラインで中継され、両大統領候補が自身の政策を訴えることなる。

第1回は9月16日にテキサス州サンマルコス、第2回は10月1日にバージニア州ピーターズバーグ、第3回は10月9日にユタ州ソルトレークシティーで討論会が実施される予定だ。その間、両候補は全国を飛び回り、遊説を行う。 本選の投票の仕組みは、「選挙人制度」と呼ばれる。できるだけ簡単に説明すると、それぞれの州に「選挙人」という代表者が存在する。この選挙人は州ごとに数が異なる。その理由は、人口に合わせているからだ。例えば、人口の多いカリフォルニア州では選挙人の数は54人で、最も人口の少ないワイオミング州は3人である。 実際の投票では、有権者は大統領候補者の名前を選んで投票する。そして勝利した候補が、その州にいる選挙人を総取りすることになる。 最終的に、全ての州の選挙人を合わせて、多くの選挙人を獲得した候補が勝利する。アメリカ全土で、選挙人の数は合計で538人なので、過半数の270人を確保したほうが勝利となる。選挙人の多い州(大票田と呼ぶ)を獲得した候補が選挙での勝利につながるのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

◆大統領選を左右するのは、「スイングステート」と呼ばれる激戦州

もう1つ、大統領選を理解する上で知っておいたほうがいいことは、基本的に伝統的に共和党が勝利する州、民主党が勝利する州というのが、ほぼ決まっているということだ。例えば、リベラルな州であるカリフォルニア州やマサチューセッツ州などは常に民主党に投票することが分かっている。かたや保守的な州であるテキサス州やアラバマ州などでは共和党がほぼ勝利すると見られている。 そう考えると、大統領選を本当の意味で左右するのは、支持基盤が盤石ではなく民主党と共和党の間で揺れる「Swing states(スイングステート)」と呼ばれる激戦州ということになる。今回は、アリゾナ州、ジョージア州、ミシガン州、ネバダ州、ノースカロライナ州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州がスイングステートとして注目されている。専門家やメディアは特に、これらの州の動向を追うことになる。

◆批判の声も多いトランプ、なぜここまで支持率が高いのか

ここまで大統領戦の仕組みを説明してきたが、今回の選挙で注目されているのは、2017~2021年まで大統領を務めたトランプ前大統領が、返り咲くかどうかだ。

 

トランプ前大統領は、アメリカ第一主義を掲げ、国内では移民などへの排他的な言動を行い、国際的には同盟国の弱体化や国際協調の輪を乱してきたとして批判されてきた。また2020年11月の大統領選挙に敗れた際には、選挙が不正だったと根拠なき主張をし、2021年1月の退任直前に支持者らがワシントンの議会場で暴動を起こすのを扇動したと批判されている。

 

 だが逆に、国内では保守層を中心に、トランプの強硬なアメリカ第一主義に熱狂的な支持を送る人たちも多い。

 今回の大統領選で、トランプ前大統領は、2022年11月15日に出馬宣言を行った。「アメリカを再び偉大にするため」に立ち上がったと主張し、再び移民批判を繰り広げるなど、言動は変わっていない。

 ところが、トランプ前大統領の支持率は高い。

 

共和党内での支持が高いのは選挙結果からも明らかだが、対バイデン大統領でも世論調査ではトランプ前大統領の優勢が伝えられている。

 

 つまり、アメリカ国民の中に「待望論」があるということだ。

トランプ前大統領は選挙資金で不倫相手に口止め料を支払ったなど4つの刑事裁判を抱えている。

だが仮に有罪になっても大統領選への立候補を妨げることはないし、

トランプ前大統領が勝利すれば、

こうした裁判も全て自ら恩赦してなかったことにしてしまうだろう。

 

 一方で、バイデン大統領批判も少なくない。

2024年1月の世論調査でも、支持率は38.8%で、不支持率は55.7%に上る。

 まず高齢であることが国民に不安を与えていると見られるが、それだけではない。

国内で投資などを増やしてはいるが、インフレ傾向で国民に不満が高まり、

国境に不法移民があふれるなど不法移民対策も批判されている。 

 

国際情勢においてもバイデン大統領の方針は批判にさらされている。

 

筆者が最近話を聞いたCIA(アメリカの中央情報局)の元幹部は、

「米軍のアフガニスタン撤退の失敗から始まり、

国際的にもバイデン政権の弱さがロシアによるウクライナ侵攻や

ガザのイスラム組織ハマスによる大規模テロを許したのは間違いない」と指摘している。

 

 もちろん、過去には支持率に反した結果が出たことは何度もあるし、選挙だけはふたを開けてみないと分からない。

 

ただトランプ前大統領に勢いがあるのは感じ取れるし、

嫌悪の声も耳にする。 次の大統領が就任するのは2025年1月20日からだ。

アメリカ国内のみならず、世界中が、トランプ前大統領が復活するかどうかを注目している。

 

 この記事の筆者:山田 敏弘 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。 X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」

山田 敏弘

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