ドイツはなぜイスラエル支持を続けるのか しょく罪以外の理由は(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 

ドイツはなぜイスラエル支持を続けるのか しょく罪以外の理由は

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毎日新聞

イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を批判するデモに集まった人々=ベルリンで2023年11月4日、念佛明奈撮影

 イスラエル軍に攻撃されるパレスチナ自治区ガザ地区では深刻な人道危機が続くが、ドイツ政府はイスラエル支持の姿勢を崩さない。ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の歴史的責任が理由だといわれるが、デンマーク・オールボー大のレアンドロス・フィッシャー准教授(国際学)は「要因はほかにもある」と指摘する。【聞き手・ベルリン念佛明奈】

 

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◇ドイツのフィッシャー准教授に聞く  ――歴史的責任以外の要因とは?

 

  ◆主に「ナショナリズム」と「人種差別」という二つだ。

 

  一つ目のナショナリズムは、ドイツの過去のナショナリズムを批判することで「歴史から学んだからこそドイツは優れている」と主張する新たな形のナショナリズムだ。

 

  ドイツは2度の世界大戦を引き起こした。しかし「歴史から多くを学び、反映してきた」と主張することによって、再び世界に名をはせようとしている。

イスラエルを支持すれば、

ナチスとは無関係の「クリーン」な民族主義的イデオロギーが手に入るとエリート層は考えている。

 

その結果として、イスラエルの安全保障はドイツの「国是」の一部となった。イスラエルの安保はイデオロギーであり、ドイツに経済的、軍事的なメリットをもたらすわけではない。  ホロコーストの教訓をイスラエルへの無条件支持に置き換えることは、それ以外のドイツによる過去の責任を取らず、無視することも可能にしている。例えば、ドイツ帝国が20世紀初頭に現在のナミビアでヘレロ族やナマ族を大量虐殺したり、ナチス・ドイツがソ連やユーゴスラビア(共に当時)、ギリシャなどで犯罪行為に走ったりしたことだ。  ◇統一ドイツが姿勢を変えたのか  ――新たなナショナリズムは第二次大戦の直後に生まれたのか。

 

  ◆最初は違った。ドイツ連邦共和国(旧西ドイツ)はイスラエルを強く支持し、補償などの名目でイスラエルへ援助してきた。これはイスラエルに共感的な立場を取ることで信頼を回復し、西側社会の仲間入りを果たすためだ。当時は冷戦下でまだドイツが東西に分断されていた。国民の間にも「ナショナリズムは過去のものになった」という共通認識があった。  しかし1990年に東西ドイツが統一し、欧州で実質的な権力の中心になると状況は変わる。それまで西ドイツは経済大国だったが、政治的権力はほとんど持たなかった。統一以降、ドイツはこの経済力を国際的な政治力に変換しようと試みている。

 

  欧州連合(EU)内では、欧州統合プロジェクトをドイツの国益に結びつく方向に誘導しようとしている。一方、北大西洋条約機構(NATO)内では、イスラエルとの関係を通じて、米国に最も近い同盟国となり、これまで英国が果たしてきた役割を担おうとしている。イスラエルに無条件に連帯することで米国との距離も縮まる。  ◇米国のロビー組織の影響とは  ――米国がイスラエルを支持する背景には豊富な資金力を持つユダヤ系米国人の「イスラエル・ロビー」の存在があるといわれる。ドイツにもあるのか。

 

  ◆イスラエル・ロビーやギリシャ・ロビー、アルメニア・ロビー(という特定の民族のロビー)が存在するのが米国の政治システムだ。しかし米国がイスラエルを支持する理由は、ロビーではない。米国の軍需産業に利益をもたらすなど、中東における米国の安全保障上の利益にイスラエルが非常によく貢献しているからだ。  またドイツがイスラエルを支持するのにロビーは必要ない。ドイツの政治家は圧力がなくても自発的に「親イスラエルだ」と言うからだ。

 

  ◇イスラム教徒に対する差別  ――二つ目の人種差別とは何か。

 

  ◆反イスラム主義的人種差別だ

今日のドイツでは、イスラム教徒への人種差別が社会的に容認されていることに注意しておく必要がある。  ドイツの人々はかつて、ユダヤ人に対する過去の行為への羞恥心からイスラエルを支持していた。それが東西ドイツ統一後に「歴史から学び、責任を負うドイツ人であることを誇りに思うからイスラエルを支持する」と変化した。  だがホロコーストに罪悪感を持ち、責任を負う人しかドイツ人になれないとすると、異なる出自を持つ人や両親がドイツ育ちでない移民は排除される。「ドイツ人になりたければ、イスラエルの生存権を認め、イスラエルを明確に支持しなければならない」という論理は、イスラエルに批判的なトルコ系やアラブ系住民や移民を「ドイツの一員ではない」と排除することになる。これは非常に「洗練された」人種差別と言える。

 

  ◇今後は変われるのか  ――ドイツのイスラエルに対する態度は今後変わるか。

 

  ◆分からない。一つ言えるのは、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に関する世論調査結果が、ドイツとほかの欧州諸国とで大きな違いがないということだ。イスラエルに肩入れするドイツ人は多いが、イスラエルへの支持は米国ほど高くない。大半のドイツ国民は民間人の犠牲を望まないので、早く戦争が終わることを願っていて、世論と政府の公式見解は食い違っている。  それがドイツ政府の姿勢にすぐに影響することはないだろう。しかしドイツや米国などイスラエルを支援する国では将来的に内政の危機が起こるかもしれない。政治が人々の考えからかけ離れているからだ。

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