「アイオワの選択」でトランプを圧勝させた3つの変化、米大統領選を読み解く(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

「アイオワの選択」でトランプを圧勝させた3つの変化、米大統領選を読み解く

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1月15日、米大統領選の候補者を選ぶアイオワ州の共和党党員集会でトランプ氏が圧勝した(写真:AP/アフロ)

 2025年から4年間の米国のかじ取り役を決める米大統領選が事実上スタートしました。米中西部アイオワ州で1月15日(現地時間)に行われた共和党の党員集会では、トランプ前大統領が他候補を圧倒して大勝しました。その強さははたして本物なのでしょうか。問題発言が目立つトランプ氏が大統領に返り咲くと、日本を含め世界にはどんな影響が?  超大国・米国の内情をやさしく解説します。

 

  【図】米共和党の予備選・党員集会とスーパーチューズデー

 

 (西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)

 

 ■ 1年近いロングラン

 

 時間をかけて広く民意を反映  4年に1度の米大統領選。国会議員の投票で首相を選ぶ日本とは違い、米国は有権者が投票所へ足を運んで意中の人に一票を入れる「一般投票」で大統領を決めます。今年の投票日は11月5日。まだ候補は決まっていません。民主と共和の二大政党がそれぞれ、夏の全国大会で正式に最終候補を決めるのです。  両党はどうやって候補を決めるのでしょうか。  全米に50ある州がそれぞれ、だいたい1月から6月にかけて候補を誰にするかを決め、全国大会に持ち寄ります。その方法は、有権者が投票所で投票する「予備選」を実施する州と、地域ごとに討論会を催してその場で投票する「党員集会」を開く州があります。現職のバイデン氏が再選を目指す民主党の党員集会などは形式的なものになりますが、政権奪回を目指す共和党は大いに盛り上がります。  アイオワ州は民主、共和両党とも候補選びの最初の州になるのが恒例です。理由については諸説あるものの、その1つを紹介しましょう。  1968年の民主党全国大会でベトナム反戦運動のデモ隊と警官隊が衝突して流血の惨事となったことから、次の1972年は州ごとに候補者選びの制度改革が進められました。制度が複雑で決定に時間を要するアイオワは全米一早い開催となったのが始まりです。  次の1976 年、アイオワの民主党は無名だったカーター氏を選んだところ、トントン拍子に勝ち進んで大統領に当選。それ以来、後続の州の投票に影響を与える「アイオワの選択」の重要性が定着し、共和党も追随するようになりました。  予備選・党員集会が全米を一巡して夏になると、民主党・共和党はそれぞれの全国大会で大統領と副大統領のペアを正式な候補として決定します。そして、民主と共和両陣営の対決が本格的に始まるのです。秋には候補同士の討論会が重ねて開かれ、政策だけでなく政治理念や人間性をめぐる激しいやり取りがテレビで全米に生中継されます。「大統領はテレビが決める」という言葉があるように、このテレビ中継は過去、勝敗に大きな影響を与えてきました。

 

  大統領選では、主に人口に比例して州ごとに「選挙人」の数が決められています。一般投票で勝利すると、選挙人を「総取り」します(ネブラスカ州とメーン州を除く)。そうやって全米50州と首都ワシントンなどその他の地区の選挙人をどちらが多く獲得するかで勝敗が決します。勝者は来年1月の就任式で大統領の椅子に座ることになります。

 

 

 

 

■ 圧勝を生んだ「3つの変化」

 

  今年11月の本番に向けた共和党の「アイオワの選択」は、トランプ氏の圧勝でした。背景には何があるのでしょうか。  トランプ氏の優勢は事前の世論調査でも伝えられていましたが、アイオワ州共和党の集計でトランプ氏の得票率は51%と史上最高を記録しました。2位デサンティス氏の21%、3位ヘイリー氏の19%を合わせてもトランプ氏には及びません。これほどの大差を呼び込んだ背景には「3つの変化」があったようです。

 

  1つは地域社会の変化です。

中西部に位置するアイオワ州は都市部から離れており、大学の卒業生も州外に流出するなどで高齢化が進み、保守化傾向が強まりました。保守派の間では人工妊娠中絶への反発が強く、移民の流入を防ぐ国境管理の強化が求められています。トランプ氏は大統領の在任時、こうした保守層の意向に沿った政策を次々と実行していました。他の候補に比べると、“実績”という点で優位だったのです。

 

  2つ目はトランプ氏自身の変化です。

初めて大統領選に挑んだ2016年、トランプ氏は共和党のアイオワ州党員集会で1位を獲得できませんでした。地元陣営の選挙活動が機能していなかった結果とされています。その反省から、今回はボランティアを募って党員集会への参加を呼びかけるなど、地に足のついた組織選挙に力を入れました。8年前は共和党の中でも異端児のような存在でしたが、大統領在任時を経て共和党を引っ張る存在となりました。共和党が「トランプ党」化したとも言えます。

 

  3つ目は米国政治の変化です。

2001年以降ブッシュ(共和)、オバマ(民主)、トランプ(共和)、バイデン(民主)と、

両党が交代で大統領を務めてきましたが、

「保守=共和党」と「リベラル=民主党」との間で政策の振れ幅が大きくなっています。

 

オバマ政権の医療保険制度改革や、

国内のインフレが進む中で続くバイデン政権のウクライナ支援。

 

こうした政策を苦々しく思う保守層は少なくありませんし、反発の度合いはより強まってきました。

 

 

 

 

■ 法秩序では収拾しきれないほどの不満

 

  選挙戦術に変化が見られるとはいえ、トランプ氏の主張はほとんど変わっていません。「アメリカを再び偉大にする(Make America Great Again=MAGA)」というキャッチフレーズは初当選した2016年もバイデン氏に敗れた2020年も同じ。前回の大統領選は「勝利が盗まれた」ものだとし、現在も本当の大統領は自分だという現実離れした主張を繰り返しています。  トランプ氏は刑事訴追されている身でもあります。前回の大統領選で敗北した後、トランプ支持者が連邦議会に乱入した事件を覚えている人も多いでしょう。あの事件でトランプ氏は選挙結果を覆そうとしたとして、「米国を欺いた罪」など4つの罪で起訴されています。  トランプ氏は「政敵を陥れるための策略だ」と無罪を主張していますが、刑事被告人が大統領レースの表舞台に出てくるのは異例です。合衆国憲法修正14条は、憲法支持を誓ったうえで反乱に加わった者は公的役職に就けないと規定しており、コロラド、メインの両州はトランプ氏を予備選候補として認めないと決めました(トランプ氏は取り消しを求めて争っています)。  それでもトランプ氏の勢いに衰えがありません。それどころか、「訴追は陰謀だ」という主張への賛同が広がり、逆に支持が広がっている側面もあります。いわば“反逆罪”に問われた人物が「アイオワの選択」で圧勝した背景には、法秩序では収拾しきれない不満が米国社会に充満していると言えるのかもしれません。

■ 「バイデン対トランプ」再対決の行方は  アイオワでのトランプ氏圧勝により、米国内の関心はすでに1月23日のニューハンプシャー州予備選に移っています。同州はアイオワよりリベラル色の強い地域で、共和党の候補の中ではヘイリー氏が追い上げているとの分析もあります。ヘイリー氏としては自らが知事を務めたサウスカロライナ州の予備選(2月24日)で勢いをつけ、15州で同時に予備選・党員集会が行われる3月5日の「スーパーチューズデー」に持ち込みたい考えです。  しかし、ニューハンプシャー州などでもトランプ氏の圧勝が続けば、ヘイリー氏ら他候補は次第に選挙運動の継続が難しくなり、撤退を余儀なくされるでしょう。スーパーチューズデーを待つことなく、共和党の大勢は決まってしまうかもしれません。ことしの大統領選は早々に「バイデン対トランプ」という構図が見えてくるでしょう。  バイデン氏は大統領就任以来4年間の経済や外交政策などの成果をアピールする一方で、過激な発言が目立つトランプ氏の危険性を指摘し、再選を目指す構えです。  トランプ氏は、高齢のバイデン氏の政権担当能力を疑問視し、追い落としを図ります。「トランプ大統領」の再登場は米国内ではかなり現実的なシナリオとして語られるようになってきました。再登場となると、ウクライナ支援の打ち切りや、米中関係の冷却化、「アメリカ・ファースト」を掲げた保護主義政策の強化などが続くと予想されます。  何が起こるか分からないと言われる米大統領選。まずは3月5日のスーパーチューズデーまでの動向に注目です。  西村 卓也(にしむら・たくや) フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。 フロントラインプレス 「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo! ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。  ■その他の「やさしく解説」 ◎パーティー券裏金問題、今の政治資金規正法で「政治とカネ」の健全化はムリ?  ◎米英が攻撃したフーシ派の正体、「反米イラン」を巻き込み戦火拡大の懸念も ◎「ダボス会議」とは? 世界の首脳・経営トップが集結、地域紛争や生成AIを議論 ◎「スターリンク」とは? 能登半島地震でも存在感、マスク氏が率いる衛星通信 ◎「台湾総統選」になぜ注目? 米中対立、中東情勢…結果次第で世界情勢の激変も ◎「FOMC」とは? 米国の政策金利を決める会合、物価安定と雇用改善が目標 ◎「米国雇用統計」とは? 世界景気を先読みする重要指標、FRB政策金利の判断に >>その他の「やさしく解説」

西村 卓也/フロントラインプレス

 

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