韓国野党分裂で第三極、「カワイイ」好き若者がカギ握り日韓関係は好転する?(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

韓国野党分裂で第三極、「カワイイ」好き若者がカギ握り日韓関係は好転する?

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1月16日に開催された、韓国野党「共に民主党」を離党した李洛淵氏(中央)が旗揚げを目指す新党「新しい未来」の決起集会(写真:Yonhap News Agency/共同通信イメージズ)

 韓国の最大野党「共に民主党」のナンバー2である

李洛淵(イ・ナギョン)氏が離党し、第三極を目指して新党を旗揚げする。

 

  折しも共に民主党の李在明代表が襲撃される事件が起きたばかり。

「黒い影」がつきまとう政治に愛想を尽かしている若者の動向が3カ月後の国会議員選挙でカギを握りそうだ。

 

  「カワイイ」日本文化が好きな若い女性から支持を受けた第三極が

力をつければ日韓関係の更なる改善を期待したくなるが、その考えは早計だ。(JBpress)

 

  (平井 敏晴:韓国・漢陽女子大学助教授)

 

  【写真】首を刺されて倒れ込んだ韓国・最大野党の代表

 

 韓国の政界に衝撃が走っている。国会議員選挙まで3カ月となったいま、韓国最大野党「共に民主党」が分裂し始めたからだ。  1月11日、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領時代に首相を務め、共に民主党内でナンバー2の力を持つと言われていた李洛淵(イ・ナギョン)元代表がソウル市汝矣島の国会議事堂で記者会見を行い、離党を宣言した。東京駐在経験もある知日派とされ、金大中、盧武鉉、文在寅といった共に民主党出身の歴代大統領の系列を受け継ぐ。同氏の離党宣言は、文在寅前大統領と距離をとってきた李在明(イ・ジェミョン)代表との決別宣言である。  李在明代表はこれまで事あるごとに日本を批判してきた。福島第1原子力発電所の処理水放出への激しい批判は記憶に新しい。李洛淵氏の離党で李在明代表の求心力低下は免れず、その結果、日韓関係にも変化が起きるのだろうか。この点については最後に触れるとして、まずは政局を分析する。  事実上の二大政党制になっている韓国の政界で、離党した李洛淵氏は今後、第三極の形成を目指す。16日には、新党「新しい未来」(仮称)の発起人大会を開いた。2月には正式に新党を結成する予定だ。

 

 

  李洛淵氏は第三極を形成するためには、

「手を組める相手であれば誰とでも手を組む」と述べており、

この発言を受けて韓国国内では、

与党・国民の力を去年暮れに離党した李俊錫(イ・ジュンソク)元代表とタッグを組む

のではとの臆測が流れている。

 

 

■ 共に民主党から続々と離党

 

  共に民主党の分裂による傷口は決して浅くはない。

洛淵氏は前回の党代表選挙で、李在明代表と争って敗北した経緯がある。

 

そのため、李洛淵氏の支持者の中には李在明代表に不信感を持つ者も少なくない。

実際、李在明代表に近い「親明系」と、それに対立する「非明系」との間での

駆け引きが、これまで毎日のように報じられてきた。

 

  こうした共に民主党内の根強い確執があるなか、

李洛淵氏に先立って、非明系議員の3人が今月10日に離党し、「未来大連合」(仮称)の結成を宣言している。

 

未来大連合は、国民の力の前身であるハンナラ党時代に国会議員であった

鄭泰根(チョン・テグン)氏などの参画も視野に入れられていた。

それがここへきて、「新しい未来」に合流するのではとのもみられている。

 

  その可能性はまんざらではない。

なぜなら、もしも李洛淵氏が李俊錫氏と手を組むことになれば、保守系と革新系が合流することになり、

未来大連合が新しい未来に合流しやすくなるからだ。

 

  さらに、当選5回でメディアでも数多くコメントしてきた非明系の代表的な人物として知られる

李相珉(イ・サンミン)議員は、昨年12月に早くも離党し、その際に、共に民主党について

「李在明の私党化が完了した」と痛烈に批判している。

同氏は今月8日に与党・国民の力に入党した。

 

  こうした動きを見ていると、第三極結成の動きは、

保守である国民の力と革新の共に民主党の間にあることが見えてくる。

韓国では二大政党以外にも小さな政党がいくつかあるが、大きな勢力にはなっていない。

今回の野党の分裂は、二大政党に対抗できる大きな政治勢力の結成を目指している。

 

 

■ カギを握るMZ世代

 

  では、この二大政党への動きは選挙にどのようなインパクトを及ぼすだろうか。李洛淵氏の離党により国会議員選挙の行方が一段と不透明になっているが、日々韓国の学生と接している立場らから予測してみたい。

 

 

  まず、世代別では

60代以上には与党・国民の力の支持者が多く、

40~50代は野党である共に民主党の岩盤支持層とされてきた。今回の李洛淵氏の離党騒ぎで、

この野党の岩盤が真っ二つに割れるかもしれない。  一方、

30代以下のいわゆるミレニアル・Z(MZ)世代の動きはどうだろうか。

私は、この層が選挙のカギを握るのではとみている。

 

  韓国ではMZ世代の政治への意識は日本よりも高い。2020年に行われた国会議員選挙では、MZ世代の投票率は全世代平均の66.5%を下回ったものの、もっぱら58%前後であり、18、19歳では67%ほどだった。したがって、MZ世代の票の流れは選挙の行方を大きく左右する。ちなみに日本における過去4回の衆議院議員総選挙での投票率は、20代で3割を下回っている。

 

 

  韓国のMZ世代では、男性は国民の力、女性は共に民主党を主に支持していると報じられてきたが、今回の選挙ではその構図が大きく変わる可能性がある。

まず、MZ世代の女性たちは、今月2日に首を刺されて釜山からソウルに移送された、共に民主党の李在明代表を快く思わないだろう。

  このとき、李在明代表の家族が釜山大学病院よりもソウル大学病院での治療を望み、釜山大学病院で応急措置を受けたあとヘリコプターでソウルまで搬送された。釜山大学病院でも最高水準の医療を提供している。

専門医からは「地方の病院をパスしたようで遺憾だ」との声が漏れており、

一般人だったらヘリ移送などありえないとの見解も出されている。

 

  MZ世代の女性たちは、既存の権威や権力を背景とした「特別待遇」に嫌悪感を抱く傾向がある。それは、前回の記事でも触れたように男性中心社会への嫌悪感に通じる。その内なる不満が今回の一件で李在明代表に向かうかもしれない。実際、15日発表の世論調査では、共に民主党の支持率は全年齢層で44.5%から3ポイント下落して42.4%となったが、中でも下落幅が大きいのが、20代の4.9ポイントと30代の4.3ポイントであった。

 

  他方、第三極を目指している李洛淵氏の新党についてはどうか。李洛淵氏が手を組む相手として臆測されている、与党・国民の力を離党した李俊錫氏はMZ世代の男性からの支持が厚い。

もし、この2人が実際に手を組むことになれば、

共に民主党の李在明代表に嫌悪感を抱くMZ世代の女性と、

李俊錫氏支持のMZ世代の男性が合流し、大きな力となるかもしれない。

 

  そうなると、李在明代表は政治家としての求心力を失うことになり、

次期大統領の座は難しくなる。

 

 

 

■ 韓国政治につきまとう「黒い影」

 

  韓国で暮らしながらこうした政治の動きを見ていると、忸怩たる思いを禁じ得ない。お互いを批判してばかりいて、政策の議論がまったく見えてこないからだ。日本の大学に留学しているかつての教え子が年末に一時帰国した際に立ち寄ってくれたときには、「政治は何も変わらないけど、なぜか発展してきたのが韓国の不思議なところです」と苦笑していた。  もちろん、批判ばかりが繰り広げられるのには理由がある。そもそも、多くの政治家に「黒い影」が付きまとっているからだ。  李洛淵氏は離党宣言の記者会見で、共に民主党の国会議員は「44%が前科者」と発言している。これは半ば冗談かと聞いていたが、後日「44%ではなく41%」に訂正されたので、信憑性のある数字なのだろう。これほど多くの国会議員が何らかの「犯罪」を犯しているというのは驚きだ。  李在明代表も怪しい。京畿道城南市市長時代での背任と不正送金疑惑があったほか、長きにわたり身近で支えてきた人物たちが相次いでこの世を去っている。今月2日には釜山で首を刺された背景には、そうした黒い影を感じざるを得ない。

 

 

■ 日韓関係は今後も安泰にはならない

 

  これまで李洛淵氏の離党をきっかけに、韓国政治の勢力図が変わる可能性を見てきたが、それが日韓関係にどのような影響を及ぼすのかという点について、最後に触れたい。日本批判を繰り広げてきた共に民主党の李在明代表の求心力が低下することで日韓関係は今以上に改善するだろうか。残念ながら、日韓関係が安泰になることはなさそうだ。

 

 

  そもそも今は、日韓両政府の関係が良いだけで、韓国の国民感情は別だと考えたほうがいい。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権で日韓関係が改善された後でも、日本を信頼できると考えているのは28%(読売新聞と韓国日報の共同世論調査)と低水準にとどまっている。

 

 

  韓国で暮らしていると実感するが、確かにMZ世代は“日本を楽しむ”のが大好きだ。それは、豚骨味のラーメンやかつ丼、牛カツが好きということであり、アニメやキャラクターなど日本の「カワイイ」文化に興味があるというに過ぎない。

  不幸な歴史の清算は、日本のカルチャーに理解があるMZ世代とて、それとは全く別問題である。日本が好きと言っている韓国人も、部屋に慰安婦像のミニチュアを置いていたりする。

つまり、日本のカルチャーは楽しめるが、

韓国の歴史認識に歩み寄らない日本の政府や社会は気に入らないのだ。

 

 

  共に民主党を離党して第三勢力を作ることを目指し、知日派でもある李洛淵氏も、歴史の清算を求めることについては譲れないだろう。

なぜならば、それが共に民主党の歴史であり、

離党してもすぐに主義・信条を改めることはできないからだ。

 

 

  【参考資料】 이낙연·이준석·김종민, 티타임 회동...속도 내는 '빅텐트' (MBN) ‘탈당’ 이상민 “민주당, 이재명 사당화 완료…방패 위한 탄핵‧특검”(韓国・毎日新聞) 民主党離党の3議員が「未来大連合」結成宣言、李洛淵氏「李俊錫氏と世代統合」(東亜日報) 윤 대통령 지지율 소폭 올라 '36.3%'…국힘 39.6%·민주 42.4% (MBN) 대전·충남, 21대 총선 투표율 ‘최하위’ 왜?  < 국회/대통령실 < 정치 < 기사본문 - 디트(NEWS24) 韓国最大野党代表の元秘書室長が自殺 関係者5人目の死亡 (聯合ニュース) 韓国医療界「野党代表の『ヘリ上京』は異例…ブリーフィングは治療医師がするべき」(中央日報) “일반 시민도 119헬기 태워주나…이재명 특혜” 현직 의사의 글 :: 문화일보(文化日報) 日韓関係「良い」急上昇、日本45%・韓国43%…読売新聞と韓国日報が共同世論調査 (読売新聞) 韓国の李洛淵元首相が最大野党を離党 総選挙へ、新党で第三極めざす(朝日新聞デジタル)  平井 敏晴(ひらい・としはる) 1969年、栃木県足利市生まれ。金沢大学理学部卒業後、東京都立大学大学院でドイツ文学を研究し、韓国に渡る。専門は、日韓を中心とする東アジアの文化精神史。漢陽女子大学助教授。

平井 敏晴

 

 

 

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