アイオワ州予備選:勝つには勝ったトランプだが、前途多難の予感満載

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米共和党のアイオワ州予備選で支持者にVサインで応えるニッキー・ヘイリー候補(1月15日、写真:AP/アフロ)

 

■ インド系女性候補、ヘイリー19%獲得

 

 「冬帝(冬将軍)*1 の日ざしの中を歩み出す」 米大統領選の共和党予備選が、人口320万人の中西部アイオワ州の党集会投票で始まった。 世論調査の結果通り、ドナルド・トランプ前大統領(77)が他候補に差をつけて勝った。 得票数 比率 代議員数  トランプ 5万6269 51.0% 20人  ロン・デサンティス 2万3420 21.2% 8人  ニッキー・ヘイリー 2万1085   19.1% 7人  (開票95%現在)  (nytimes/elections/results-iowa-caucus) *1=冬将軍とはロシア遠征に失敗したナポレオンからきているらしい。まさに91件の刑事罰裁判を抱えつつ党内に隠然たる影響力を持つ「闇将軍」ドナルド・トランプ前大統領が再選に向けて正式スタートするにはぴったりの厳寒の候である。 アイオワ州のこの日は摂氏氷点下25度以下。寒さで集会出席を諦めた人もいるが、トランプ支持派は送迎作戦を導入して全員出席を強要したとの情報もある。 ■ トランプ、ギリギリ50%を超えただけ  同州共和党支部は、党全国党大会に送り込む代議員4750人うち40人を決めた。トランプ氏は最低20人を確保した。 代議員数40人は全代議員数の2%。あまり大した数ではない。  この選挙の最大の焦点は、共和党有権者がトランプ氏指名をどれほど真剣に考えているかを占ううえでの最初の政治イベントという点だった。 その結果、トランプ氏の支持派、この白人保守派の牙城ですら50%をやっと超えたに過ぎなかった。 昨年末まではアイオワ州世論調査では「泡まつ候補」だったヘイリー氏が20%近くの票を取り、落ち目といわれたデサンティス氏も20%の大台に乗せたことで「期待感」を高めた。

 その背景について、米ラジオ局のベテラン政治記者はこう解説する。「人口320万人のアイオワ州の共和党員数は68万人(民主党は59万7000人、無党派は185万人)しかいない」「そのうち95%は白人(男56%、女44%)、51%が中高齢者(50歳以上)、78%がエバンジェリカルズ(キリスト教原理主義者)だ」 「トランプ氏が獲得した票の大部分は、この『白人中高年層エバンジェリカルズ』の票だろう」 「つまり、それ以外の票はロン・デサンティス・フロリダ州知事やインド系女性のニッキー・ヘイリー前国連大使(元サウスカロライナ州知事)に流れたのだ」「できれば6、7割の票を取って、雄叫びを上げたかったトランプ氏にとっては、負けたのも同然だ」(投票日直前の世論調査では、トランプ氏は支持率52.7%、ヘイリー氏は18.7%だった) ■ 共和党を蝕む「エバンジェリカルズの論理」  だが、キリスト教には疎い日本人には、エバンジェリカルズがなぜ、それほどトランプ氏を支持するのか、分からない。

 

 

 キリスト教徒は「爾、盗むなかれ」「爾、犯すなかれ」を諭す予言者モーゼの「十戒」を実践する宗教だというのが通説だ。 それが91件の刑事罰を抱える一方、連日のようにその相手候補を口汚く罵り、事実誤認の情報を流すトランプ氏の言動には一切目を瞑って、なぜこれほど同氏を熱烈に支持し、今回も投票したのだろう。 アイオワ州エバンジェリカルズ(バプテスト教会)のケン・コスケン牧師は、トランプ支持の理由を聞かれて、こう答えている。「なぜ、トランプ支持かだって。そりゃ、神様が彼を望んでおられるからだ。直感(A gut feeling)だよ」「モラルや信仰心でトランプには問題があるが、我々は教会指導者を選ぶわけじゃない。国のリーダーを選ぶのが大統領選挙だ。神様がトランプを選ばれたのだ」 これが神の教えを説く聖職者の発言とは信じ難い。

 

 

 

 

 キリスト教関係者B氏は、エバンジェリカルズがトランプ氏を支持する理由は、人工中絶反対やLGBTQ(性的マイノリティ)合法化反対判決を打ち出した最高裁人事を高く評価していると指摘している。 反エバンジェリカルズの共和党関係者の一人は、筆者にこう囁いた。「このエバンジェリカルズのトランプ氏に対する贔屓の引き倒しこそが、今の共和党を一般市民から遠ざけている」「共和党を蝕んでいる癌だ。こうした論理は共和党内では通用しても一般には通じない。したがって大統領選の本選挙ではトランプ氏は勝てない」 (nytimes/iowa-pastors-trump-desantis)

 

 

 ■ 「政教分離」は今や「過去の遺物」か

 

 

  米政治では、長きにわたり「政経分離」が守られてきた。  ところがキリスト教プロテスタント各宗派に横断的に広がるエバンジェリカルズがここまで政治に介入してきているのだ。 主要メディアの選挙担当記者は、アイオワでの共和党の新たな動きをキャッチして、こう指摘する。

 

「トランプ支持だった層の穏健派とエバンジェリカルズが完全に袂を分かった」

「トランプ氏の『犯罪』についていけなくなった者が出てきたからだ」

「世論調査では支持すると答えていた者が、

いざ投票となるとトランプとは書かず、デサンティス、ヘイリーと書いたのだ」

 

 「こうした傾向はこれから他の州でも起こりうる」

 

  こうした傾向が8日後の東部ニューハンプシャー州予備選でさらに加速するかどうか。

 同州の有権者数は97万8000人、共和党員は30万9000人(民主党30万6000人、無党派39万9000人)、うち白人は94%、54%が中高齢者。エバンジェリカルズは55%だ。 ニューハンプシャー州は1976年まで予備選挙を最初に実施する州だった。ところが1976年以降、アイオワ州にその座を奪われている*2 。*2=1968年民主党の予備選で勝っていたユージン・マッカーシー候補(上院議員)の指名に反対した民主党幹部たちが全国党大会の場でヒューバート・ハンフリー上院議員を大統領候補に指名した。党の州組織の決定が無視された「異例の事態」を受けて、アイオワ州が党集会での徹底した候補者選びを強硬に主張して全米で最も早い時期に党集会を実施することを州議会で決定、同州共和党もこれに倣った経緯がある。 (l2-data/new-hampshire)  (pewresearch//new-hampshire/party-affiliation)

 

 

 ■ スーパーチューズデー前日には初公判

 

  さらにトランプ離れが進めば、3月5日のスーパーチューズデー(カリフォルニア州を含む15州予備選)はトランプ氏にとっては「関ヶ原の戦い」になる。

(3月4日にはトランプ氏の選挙結果転覆裁判の初公判が予定されている)

(もっとも、2023年12月15日公表のカリフォルニア大学政治研究所世論調査によると、

カリフォルニア州共和党員・支持者の57%はトランプ支持という結果が出ている)

 (latimes/poll-biden-trump-rfk-how-california-voters-are-sizing-up-their-presidential-choices)

 

  8日後の東部ニューハンプシャー州予備選ではどうなるのか。「ヘイリー旋風」は起こるか。

 

  少なくとも、「トランプ、アイオワ大勝利で他候補粉砕」といった保守系メディアの報道に追従する気にはなれない。

 

 取材していて、デサンティス氏にはカリスマ性も発信力もないことが見え見えだ。

高学歴、海軍というがその片鱗すら感じられない。

 

 その点、非白人で女性というハンデを抱えるヘイリー氏にはまだ糊しろがある。

 

 共和党候補に指名されればバイデン嫌いな民主党支持者もヘイリー氏になら、入れるかもしれない。

高濱 賛

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