鈴木エイト氏×相澤冬樹氏】安倍元首相問題の本質とは?「安倍さんはお友達に利益を与えて敵とみなした相手と徹底的に戦った

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NEWSポストセブン

相澤冬樹氏(左)と鈴木エイト氏が安倍元首相問題の本質を語り合う

 なぜいつもこの人だけは追及を免れるのか──森友学園問題、旧統一教会問題で安倍晋三・元首相を追い詰めた鈴木エイト氏と相澤冬樹氏の2人が、問題の本質を語り合った。

 

  【写真】安倍元首相が旧統一教会関連団体に送ったビデオメッセージ

 

 

相澤:安倍派の裏金事件をエイトさんはどう見ていますか。 エイト:単純に安倍さんが亡くなったことで“重し”が取れて、これまで隠されていた暗部がやっと現われてきた印象です。僕がずっと追及してきた統一教会問題も、安倍さんが権力者のままだったら表沙汰になっていなかったかもしれません。 相澤:たしかに安倍さんが健在だったら、統一教会や裏金の問題が明るみに出たのか疑わしいですね。でも、そう思ってしまうこと自体が実は不健全なんです。時の権力者による隠蔽工作や検察の不作為を“さもありなん”と捉えてしまっているわけですから。 エイト:安倍さんに近いジャーナリストの岩田明子氏によると、安倍派会長時代にパーティー収入のキックバックが収支報告書に記載されていない実態を知った安倍さんは激怒して、「このような方法は問題だ。直ちに直せ」と会計責任者を叱責したそうです。  でも過去の安倍さんの言動から見て、「バレたら大変だから揉み消さないと」というニュアンスだった可能性もあり得ると思います。 相澤:そうかもしれません。ただ一方で安倍さんは言動が軽いんですよね。私はNHKの初任地で山口放送局にいましたが、地元の人は安倍さんを「いい人だけど中身は空っぽ」と評していました。安倍さんはサービス精神旺盛で友達思いだけど、自分の言動がどういう影響を及ぼすか考慮しない。裏金問題についても、思い付きでそう言っていた可能性はあります。  私が追いかけた森友学園問題でもあまり深く考えず、国会の場で「私や妻が関係していたら職を辞する」と勢いのまま発言して、その後に昭恵さんの関与が明らかになった。でもその後始末を本人が行なうことはない。周囲が忖度したことで財務省による公文書の改竄につながりました。 エイト:統一教会へのビデオメッセージもその重大さを認識していたとは思えません。安倍さんは教団に特別な思い入れはなく、「選挙で票をくれる便利な人たち」程度に思っていたはずです。教団の被害者に思いを寄せることもなく、関係が明らかになっても世間は騒がないと高を括っていた。おそらく「モリカケ桜」の問題についても「大したことじゃない」と認識していたのでしょう。

 

 

 

相澤:安倍さんは地盤が盤石で資金も豊富だから、選挙の心配はいりません。裏金も票もいらないから、“施す人”として加計学園や桜を見る会で自分と親しいお友達をすごく大切にした。  統一教会でも安倍派の仲間に票を差配しました。半面、自分に都合の悪いことが起こると、「俺は関係ない」と言い張って人のせいにする。森友学園事件がまさにそんな展開でした。 エイト:仰る通りで、安倍さんは空っぽの人なのでいろいろな人が入りやすかったのでしょう。しかも「お仲間利権意識」が強く、身内が得をすることばかり行なう一方で、自分に従わない有権者を「あんな人たち」と呼び、国民を分断しました。 相澤:本来なら一国の首相は国民全体を守るべきですが、安倍さんは味方と敵をはっきりと分けるところがある。お友達に利益を与えて敵とみなした相手と徹底的に戦った。それも安倍政治の大きな特徴でした。

「共依存」のような関係

相澤:私が問題だと思うのは、安倍さんが総理になって何がやりたいのか最後までわからなかったことです。ほとんど前に進まなかった憲法改正はどこまで本気だったのか疑わしく、韓国を拠点とし反日的な教義を持つ統一教会に接近するのは右派として信条に反している。  安倍さんには確固たる思想信条があるのではなく、その場その場で支持勢力に受ける右派的な主張をして、拍手喝采されていただけではないか。世間に流れるイメージと実態が乖離し、主張がちぐはぐで首尾一貫せず、政治的な軸があったとは思えません。 エイト:中身ががらんどうだったとしても、周囲から持て囃された稀有な政治家でした。 相澤:彼が憲政史上最長の政権を築くことができたのは、周りの議員や取り巻きが安倍さんを神輿として担ぎ上げたからです。お友達にサービス満点の安倍さんは、自民党にとって非常に収まりがよかったのでしょう。  お互いが持ちつ持たれつで「共依存」のような関係だったから、安倍さんの死後に様々な問題が噴出しても、議員は自分たちが担いだ神輿を悪く言えません。

 

 

 

 

 

エイト:安倍さんは過ちを犯さなかったとすることが自分たちの保身のために最も大事なことなので、自民党の議員は統一教会問題に正面から向き合わず、右派論客も、“実は統一教会はそんなに悪い団体ではなかった”と無理筋な主張で安倍さんの言動を正当化しています。どんどんおかしな方向に向かっています。 相澤:ただし、安倍さんに続く突出したリーダーが自民党内に見当たらないのも事実です。岸田さんはいかにも担ぎやすかったけど、神輿としてはあまりにも空虚です。 エイト:安倍さんが亡くなって1年半経っても派閥の後継者が決まらない間隙を縫って、検察の怒涛の捜査が始まったわけですね。 相澤:この際、これまで見過ごされた問題についても振り返ってほしい。安倍政権下でうやむやにされた森友学園問題は告発された財務省幹部ら38人が全員不起訴になった。信じられない事態で、再捜査に期待します。 エイト:今回の捜査は、かつて安倍政権が検事総長人事に横やりを入れたことへの意趣返しとも言われますが、検察は本来やるべき仕事をやっているだけです。三権分立が機能するのは好ましいことですが、長期政権を監視するのはメディアの役割でもあるので、僕も相澤さんを見習って、統一教会問題をさらに追及していきたいですね。 【プロフィール】 鈴木エイト(すずき・えいと)/滋賀県生まれ。ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表、主筆を歴任。カルト宗教問題を扱う日本脱カルト協会に所属し、長きにわたり旧統一教会問題を取材。著書に『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』など。 相澤冬樹(あいざわ・ふゆき)/1962年、宮崎県生まれ。1987年NHK入局。2018年に森友事件の取材の最中に記者職を解かれ退局。財務省の決裁文書改ざん問題で自殺した近畿財務局の元職員、赤木俊夫さんの手記を遺族から託されスクープした。主な著書に『メディアの闇──「安倍官邸 VS. NHK」森友取材全真相──』など。 ※週刊ポスト2024年1月26日号

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