【舛添直言】ウクライナが窮地に、民主主義国家は権威主義国家に勝てないのか(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

 

舛添直言】ウクライナが窮地に、民主主義国家は権威主義国家に勝てないのか

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ウクライナのゼレンスキー大統領(写真:ロイター/アフロ)

 (舛添 要一:国際政治学者)  ウクライナでもガザでも、戦闘は終わりそうにない。戦争の帰趨は、基本的には軍事力の優劣によって決まるが、民主主義体制の機能不全が心配である。権威主義体制は、自由な言論を封殺するなどして、反対派を封じ込め、自らの政策の実現を図る。

 

  【写真】11月に行われる米大統領選で共和党の大統領候補になると見られているトランプ前大統領

 

■ 選挙とポピュリズム

 

  民主主義体制の特色は、代表が国民の投票によって選ばれる、そして、権力の「均衡と抑制(checks and balances)」が維持されていることである。また、政府を批判することのできる言論の自由が保障されている。そのいずれもが独裁制よりも優れているとされる。

 

  第一の選挙については、「bullet(弾丸)よりもballot(票)」で決めるということである。

 

  ナチスを政権の座につけたのは、当時の世界で最も民主的なワイマール共和国における民主的な普通選挙であった。ヒトラーが独裁へと移行するのは、政権をとってからである。第一次世界大戦の講和条約(ヴェルサイユ条約)がドイツに課した過酷な賠償などの不満が有権者をナチスに追いやった。

 

  21世紀になって、ナチズムやファシズムと同じ手法で、扇動政治家(デマゴーグ)が大衆を唆せて、非常識な投票へと誘うことがある。ポピュリズムである。

 

  その典型例は、イギリスのEU離脱とトランプ大統領の誕生である。

 

 

 イギリス人は、2016年6月23日に行われた国民投票でEUからの離脱を決めた。当時のキャメロン首相は、離脱が多数派となることは絶対にないという確信の下で国民投票という選択をしたし、離脱に票を投じた有権者も、ほぼ同じ思いであり、いわば「遊び半分」のつもりで「面白いから、離脱に票を投じてみよう」という考えであった。国民投票で面白半分にEU離脱に賛成した人々も、その後の経済情勢の悪化を前にして、間違った判断をしたと後悔しているという。  ポピュリズムのもう一つの例は、2017年1月20日にアメリカの第45代大統領に共和党のドナルド・トランプが就任したことである。国民は、「アメリカ第一主義」を掲げ、「アメリカを再び偉大な国にする」とうたうトランプを選択した。貧富の格差は拡大し、「丸太小屋からホワイトハウスへ」というアメリカンドリームは現実のものではなくなり、そのことへの不満が、既存の政治に対する幻滅をよび、その国民感情にトランプは訴えて勝利したのである。

 

 ■ ウクライナ戦争と選挙

 

  今年はウクライナ戦争に大きな転機が到来するかもしれない。それは、戦場での勝敗にもよるが、関連諸国で行われる選挙が影響を与えるからである。  3月にはロシアで大統領選挙が行われるが、反対派の立候補を阻止するなど様々な規制を行って、プーチン大統領は当選を確実なものにする。形式はともかく、実際は民主主義とは言えない選挙である。したがって、ロシアの戦争遂行体制に変化はない。  これに対して、11月のアメリカの大統領選挙は民主的な選挙である。今のところ、バイデン・トランプの老々対決となりそうであるが、ウクライナ支援が争点になれば、共和党の一部が主張するような援助削減も現実のものとなりかねない。ウクライナは、NATO、とりわけアメリカの支援に依存しており、それが滞る事態になれば、戦争の継続は困難になる。

 

 

 

 

 NATO加盟のヨーロッパ諸国にしてもそうで、ハンガリー、スロバキア、オランダなどでも、ウクライナ支援に消極的な姿勢が強まっている。これらの国々は、民主的な選挙で政府が選ばれており、それに誰も異を唱えることはできない。  ヨーロッパでは反移民を掲げる政党が伸張しており、そのほとんどがウクライナへの支援継続に懐疑的である。戦場ではなく、投票所で戦争の帰趨が決せられるということになる。  ウクライナでは、本来は3月に大統領選挙が行われる予定であるが、戒厳令下では選挙ができない。民主主義の下でも、戦争のような非常事態では、このような形で「選挙の弊害」を除去する仕組みがある。

 

 ■ 均衡と抑制

 

  民主主義体制では、大統領や首相が独裁者にならないように、「均衡と抑制」という工夫をしている。モンテスキューのいう三権分立である。  アメリカ政府は、ウクライナへの軍事支援予算が議会の承認を得られないまま越年した。このように、行政府の方針に対して立法府が拒否することが可能である。  また、司法が政府の政策を規制することもある。2021年1月の連邦議会乱入事件について、トランプ前大統領に免責特権が適用されるかどうか、連邦最高裁の判断が待たれている。その決定は、大統領選挙の行方に影響を与える。

 コロラド州の最高裁は、トランプに出馬資格を認めない決定を出したが、そこにも「均衡と抑制」の考え方がある。つまり、連邦制である。中央政府への権力の集中を避けるために、建国の父の一人であるジェームズ・マジソンは、地方分権、つまり各州が独立国並みの権限を持つ連邦制を導入した。  一方、権威主義体制のロシアや中国では、三権分立も地方分権も実質的に存在しない。プーチンや習近平の決定に、国会や裁判所や地方が反対することはない。それだけに、戦争遂行にしろ、その他の政策遂行についても、迅速性や効率性では民主主義は権威主義に劣る。民主主義体制は、選挙の結果次第で政治が機能不全に陥ることがある。

 

 ■ 政治の停滞を阻止する仕組み  <日本>

 

  日本では、2007年夏の参議院選挙で自民党が惨敗し、参議院で過半数を失うどころか、第一党の座を民主党に明け渡すという事態になった。厚労大臣だった私は、この「ねじれ国会」に対して、政府の法案を通すのに苦労したものである。  日本国憲法の第59条の規定では、衆参両院が異なった議決をした場合、両院協議会を開くことができるが、それで妥結したことはなかった。また、衆議院の3分の2以上の多数で再可決する手もあるが、与党が3分の2以上の多数を擁していないとそれも不可能となる。  そこで、法案を修正したり、付帯決議をつけたりして、可決に導いたことが何度もある。これも、もし野党が強硬に反対すれば上手くいかない。安倍長期政権下で、両院で与党が過半数に達する議席を享受し、独断専行することもまた問題であるが、国会の状況で政治が前に進まないのも、民主主義の機能不全である。

 

 

 

 

■ 民主主義の機能不全を全力で防げ  <フランス>

 

  フランスでは、1月8日、フランスのエリザベット・ボルヌ首相が辞任し、ガブリエル・アタル国民教育相(34)が第5共和制最年少の首相となった。その背景には、与党が国会の多数を握れないという事情があった。  国民議会は定数577議席であるが、与党は250議席、野党が327議席である。与野党とも複数の政党からなるが、政府は法案ごとに野党の会派にも協力を呼びかけて多数派を形成した。  予算、社会保障、安全保障などの重要な法案については、議会で多数派を獲得できないときには、「政府の責任をかけて」、採決なしで法を成立させる奇手が憲法第49条の3項に定められている。24時間以内に不信任動議が可決されない限り、票決なしに採決されたと見なすことができる。野党は不信任動議を出すが、もし可決されれば内閣は解散となるので、リスクは大きい。  しかし、安定した多数派与党を持たない政権は、この手にすがるしかなく、ボルヌ首相は、この手段を23回も使うという不安定な政権運営を強いられたのである。  求心力の低下したマクロン大統領は、局面展開を図るために、若くて、政治家の中で最も人気の高いアタルを首相に任命したのである。

 

 

  <アメリカ>  アメリカ憲法では、第12条第1節の1に「執行権はアメリカ合衆国大統領に属する」と規定されており、この条項を基に、大統領は、連邦政府や軍に行政命令を出す。それが大統領令である。緊急性を要する案件については、大統領令は有効な武器となる。そのため、歴代大統領はこの方法を多用している。  トランプ前大統領は、医療保険制度改革法(オバマケア)見直し、対イラン制裁の一部見直し、環太平洋経済連携協定(TPP)離脱などの命令を下した。バイデン大統領も、就任した直後から、地球温暖化対策(パリ協定)への復帰、トランスジェンダーの軍務禁止の撤廃など、トランプ政権の政策を取り消す形で大統領令を多用した。

 

  この大統領令は、三権分立による政治の停滞を回避する手段である。しかし、議会が命令発効を禁じる法律を制定したり、連邦最高裁が違憲の判断を下したりすれば、大統領令は効力を失う。権力の過度の集中を阻止するという要請と、政策推進を遅滞させないという要請を、どのように両立させるかという困難な課題は優れた政治的リーダーシップがなければ実現しない。  権威主義に負けないためには、民主主義は機能不全に陥らないようにすることが求められている。

 

  【舛添要一】 国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。

参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』(小学館新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。

 

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