中国・習近平の粛清でポンコツ化した解放軍、統制不能で暴走懸念は最高潮(JBpress) - Yahoo!ニュース

 

中国・習近平の粛清でポンコツ化した解放軍、統制不能で暴走懸念は最高潮

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中国・習近平国家主席は軍をコントロールできているのか?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 1月13日に台湾総統選が実施され、結果によっては「中国の軍事的脅威」が高まる可能性が指摘されている。  では、そもそも中国の軍事的脅威はいかほどのものなのか。足元では中国が衛星搭載のロケットを打ち上げるなど警戒感が高まっている。  ただ、解放軍に対しては習近平国家主席による粛清が吹き荒れており、人材不足が深刻でポンコツ化しており、統制もとれているとは言い難い。だからこそ、「暴走」するリスクが過去最高レベルに高まっている。  (福島香織:ジャーナリスト)

 

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 1月13日の台湾総統選挙・立法院選挙は今週末には結果が判明する。最後の民意調査は1月1日に発表されたものでTVBS調査では、頼清徳・蕭美琴ペアの民進党候補が支持率33%、侯友宜・趙少康ペアの国民党候補が30%、柯文哲・呉欣盈ペアの民衆党候補が22%。ETtodayの調査では、民進党候補は38.9%、国民党候補35.8%、民衆党22.4%。民進党・頼蕭ペアがやや有利だが、選挙はミズモノ、13日に投開票を静かに待つとしよう。  さて、この選挙が世界の注目を浴びているのは、この選挙結果を踏まえて、「中国の脅威」が増強するかもしれない、という国際社会共通の懸念があるからだ。選挙ラストウィークに入ったばかりの9日、台湾国防部は「中国の衛星発射」に国家級警報を出し、しかも英文で配信したメッセージでは「ミサイル飛来」という表現だったため、一時台湾内外が騒然とした。  すぐに誤訳と判明、訂正されたが、野党側は与党政権が選挙直前に、「中国脅威論」をわざとあおった、と批判。一方で、中国の軍事脅威が高まっているからこそ、中台関係を再構築して、不測の事態を避ける努力をすべきだという意見も出た。つまりは、与野党問わず「中国の軍事的脅威」の存在は認識しているのだ。  では、この中国の軍事的脅威というのは、いかほどのものなのか。これについて、最近の解放軍に関する噂を紹介したい。  一つはロケット軍(戦略核ミサイル戦主管)、戦略支援部隊(衛星システムを使った電子戦、サイバー戦、情報戦主管)など、解放軍の頭脳戦担当の軍種が軒並みとんでもないポンコツ化しているという「噂」だ。噂の根拠の一つは人事。  過去6カ月の間に、少将以上の軍人だけでも15人が失脚した。その中心はロケット軍関係者。ロケット軍司令だった李玉超、ロケット軍政治委員だった徐忠波ら幹部がごっそり失脚した。年末、9人の軍人の全国人民代表資格剥奪が発表されたが、その9人のうち5人がロケット軍関係者だった。  また戦略支援部隊関係者も大勢失脚した。国防相だった李尚福は元戦略支援部隊副司令兼参謀長、第20回党大会で中央軍事委員を引退した魏和鳳(元国防相、ロケット軍初代司令)、最近動静不明の巨乾生・戦略支援部隊司令も2023年夏以降、汚職あるいはスパイ容疑で取り調べを受けているといわれている。

 

 

 

■ 「汚職」を理由にハイレベル軍人を大量粛清  こうした大量のハイレベル軍人の粛清は表面的には汚職が理由、とされている。ロケット軍も戦略支援部隊も高額装備予算や研究開発費が優先的に割かれる軍種で、だから汚職が起きやすい、といわれてきた。同時にスパイ容疑も噂された。こうしたハイテク部門の軍人の傾向として、米軍をお手本にしており、米軍への憧れやリスペクトがもともとある。そういう傾向をもって、彼らの多くが米国側に取り込まれていると習近平が疑った、というわけだ。  いずれにしても軍の頭脳とされていたロケット軍、戦略支援部隊幹部が大量に失脚し、その失脚による空白を、海軍や空軍の畑違いの軍種から補塡されている。上官と部下の団結と信頼が軍の生命線であり、またロケット軍も戦略支援部隊も専門性の高い特殊分野。とすると、こうした粛清、人事はロケット軍や戦略支援部隊を大いに弱体化することになった、と想像される。  さらに、汚職度合いについて我々の想像を超える深刻さであったことが、最近、ブルームバーグによる米情報機関のリポートをもとにした報道で明らかになっている。具体的には、ミサイルの燃料タンクに(燃料予算の横領のために)水が注入されていたり、(メンテ不足で)西部戦区のミサイル発射口の開閉ができない状況があったり、という問題が起きているという。このような腐敗の実態に習近平は怒り、昨年半年で15人の将校が失脚するような大粛清を行った、ということになる。  ブルームバーグの報道を信じれば、当面は台湾武力統一ができるような軍事実力は中国にない。だが、ブルームバーグは、習近平の軍大粛清は軍の腐敗を徹底的に排除し正常化するためであり、それは習近平体制の強化を意味するものであり、長期的には解放軍の強化につながる、という見方を報じていた。  ただ、私はこの点については懐疑的だ。習近平の軍に対する大粛清は、長期的にみてもむしろ軍の弱体化や軍と習近平体制の関係の弱体化につながるのではないか。

 

 

 

■ 軍関係研究者の給与削減で不満蓄積も  そう考えるもう一つの背景として、兵士への給与削減問題、特に軍事開発分野研究職の給与カット問題がある。最近、中国のSNSでは、中国の科学技術関連の研究所の研究職の給与、予算が軒並み大幅に値下げされたという現場の声が散見されている。ある投稿によると、航空、宇宙、兵器開発の分野のすべての研究者の給与が5%から30%下がった、という。  中国の兵器開発、宇宙、航空分野の開発研究製造は、中国兵器工業集団公司や中国航天科技集団公司、中国航空工業集団公司などの企業の傘下の研究機関で主に行われている。これら企業は建前では国務院直属の中央企業だが、事実上は軍がしきっている。開発予算が国防予算から出ているのではなく、国務院の中央予算から出ているから中央企業、という扱いなのだ。  兵器や宇宙、航空分野開発に従事している研究者を軍人というべきかは微妙なところだが、事実上、軍籍文職者扱いであろう。こうした兵器、宇宙、航空企業の研究職の給与カットは、昨年から明らかになったロケット軍や戦略支援部隊の汚職退治、幹部粛清の動きに連動しているという見方がある。  つまり解放軍のハイテク軍種に対する大粛清は、粛清の恐怖という心理的な圧迫と、開発予算や研究者、エンジニア育成のための経済的圧迫を引き起こし、それは軍の腐敗を是正するポジティブな作用よりも、研究開発速度の急減速や人材不足、そして軍内の習近平に対する不満、不信感などによって、長期的にもネガティブな影響の方が大きいのではないか、と私は思うのだ。

■ 軍人・兵士の手当や恩給も支給遅れや削減か  また軍人の減給問題は、必ずしも軍籍文職者だけが対象ではないようだ。  いわゆる軍人、兵士の手当や退役後の恩給が、昨年、決められた時期に出ていない、という告発が在外華字メディアなどで報じられている。  昨年から現役兵士の手当・補助金支払いも1カ月から半年遅れることが各地で頻繁に起きているという。兵士は基本給のほかに、福利厚生費や任務による様々な手当がつく。たとえば、砂漠の高温下の任務では高温手当、高地での任務には高地手当、寒冷地の任務には寒冷手当。また義務兵(士官になる前の2年の義務兵役)には家族に対して都市戸籍、農村戸籍など地域に応じて手当が出るが、その手当の支給も遅れているところが出ている。  こうした兵士に対する手当は、実は国防予算からではなく兵士の勤務地の地方政府予算から出ているそうだ。習近平時代になって、特に不動産バブル崩壊後、地方財政は破綻寸前、あるいは破綻状況に陥り、実際公務員の給与カットや支払いの遅れ問題があちこちで起きているが、それは軍人、兵士も例外にはならなかった。  習近平は権力トップの座についてから10年、解放軍の軍制改革に精力を割いてきたことは間違いなく、それは軍の統制、コントロールを掌握することで自身の独裁を強固にするという目的もあっただろう。独裁権力を固めるために、軍の掌握は必須だ。命令系統は習近平個人に集約される形になり、それまで強大であった陸軍の政治力と利権が大幅に削がれた。そのプロセスで、習近平が忠誠を疑う軍官の粛清が汚職退治を名目に行われてきた。  だが、こういうやり方で本当に軍の掌握が可能なのか。

 

 

 

 

■ 粛清で軍をコントロールするのは難しい  中国共産党は革命戦争の中で、いわば「銃口から生まれた」政権であり、軍の支持があってこその共産党独裁体制だ。鄧小平は革命戦争の最前線で戦った軍人であり、軍の忠誠とリスペクトを最初から獲得できていた。だから、文民の江沢民が鄧小平の後継として共産党指導者になったとき、軍の忠誠と支持をどのように得るかというのは非常に大きなテーマであった。  江沢民は結局、軍の忠誠を金で買う。つまり、中国の改革開放による経済成長のうまみを軍人にも分け与え、軍に大きな経済的利益、利権、特権を与えることで支持を得て軍を掌握することができたのだった。この江沢民が与えた軍の利権が、今に続く軍の根深い腐敗構造につながる。この江沢民の金による軍の掌握力は非常に強かったので、胡錦涛はついに軍の実権を江沢民から奪うことはできなかった。  だが、胡錦涛の後継の習近平は、軍の利権を徹底的に奪い、腐敗を徹底的に排除する。一つは江沢民の影響力排除が目的だが、習近平自身、そうすることが軍を戦える軍隊に強化できると信じていたのだろう。ただ、習近平も軍人ではなく、江沢民以上に軍に関しては無知であることは、習近平が2015年の軍事パレードにおいて左手で敬礼したことからも広く知れ渡った。  習近平は、鄧小平式の軍のリスペクトや忠誠は得られず、かといって江沢民のように軍の忠誠を金で買うようなこともできず、結局、粛清に次ぐ粛清という恐怖政治で軍を支配しようとした。これは北朝鮮のスタイルと似ているが、北朝鮮軍よりも何倍も複雑で大所帯の解放軍がこうした恐怖政治で本当にコントロールできるだろうか。  私は、表面上は忠誠を誓っても内心、不満を募らせる軍人は多いのではないかと疑う。しかも、軍高官は利権を奪われ、兵士は手当が遅延している状況で、習近平は「戦争できる軍隊、戦って勝てる軍隊」になれ、とむちゃぶりを言う。江沢民時代に現実に戦場に出る可能性など考えなかった軍人、兵士たちは習近平時代、経済的うまみや利権は奪われたのに、にわかに実際に命を危険にさらして戦う可能性に直面することになった。

 

 

 

 

■ ポンコツ化がむしろ暴走リスクを高める

 

  李尚福失脚後、2カ月以上空白だった国防相は海軍司令の董軍がついた。そして、その前に海軍司令に胡忠明がついた。胡忠明は戦略原潜の艦長も務めたことのある海軍実戦派だ。  1949年以来、海軍出身者が国防相になるのも初めてで、この人事は、南シナ海、台湾海峡有事の実戦を想定している、海軍主導の作戦を想定している、という見方をもって放るメディアも多かった。  こうした状況を総合して考えると、解放軍は確実にポンコツ化し、習近平と軍の関係は険悪化しているが、それは決して安心材料ではない。習近平には、それを認めて戦争を回避しようという発想がないと思われるからだ。  昨年12月の毛沢東生誕130周年記念の演説でも、新年挨拶でも台湾統一は歴史の必然として絶対に実現する姿勢を見せていた。和平統一の道がなければ、武力統一しかない。ロケット軍や戦略支援部隊を信頼できなくても、それなら海軍主導で台湾統一作戦をやってみせよう、と考えていそうではないか。  ちなみに海軍も昨年8月に信じられないレベルの原潜事故を起こしており、ポンコツ化が噂されている。統制されたハイレベルの軍の運用より、統制しきれていないポンコツ軍の運用の方が予期せぬ暴走がありうるという意味で恐ろしい、ということに思いいたれば、中国の軍事脅威は、まぎれもなく過去最高に高まっている。

 

 

  福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。

 

 

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