“3層化”する大学受験生が直面する「想定外の事態」とは【大学入試2024】(ダイヤモンド・オンライン) - Yahoo!ニュース
“3層化”する大学受験生が直面する「想定外の事態」とは【大学入試2024】
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準難関レベルの「日東駒専」が少子化時代の分かれ目になっていくことに(写真は専修大神田キャンパス)
大学通信の井沢秀さんと教育ジャーナリストの後藤健夫さんによるG&I大学対談。前回(第4回)は2023年で一番話題となった日本大のガバナンス不足問題を取り上げました。第2回では半世紀以上にわたって私立大出願者数トップの座にあった早稲田大の志願者数がさらに減少すること、第3回で日東駒専のくくりで日本大が沈んでいく様子について見てきました。今回は、この週末に迫った共通テストの前に、大学入試の意味を考えてみましょう。(ダイヤモンド社教育情報)
● 様変わりした大学入試のスケジュール
――いまの受験生の親世代ですと、1月中旬の大学入試センター試験から始まって、2月に入るといよいよ私立大の一般入試と国公立大2次試験が始まるという実感が、それを報じる側も含めてあったように思います。 後藤 非一般選抜である総合型選抜や学校推薦型選抜で年内に合格を得た受験生の多くにはもう関係のない話で、半数の受験生にとって大学入試はすでに終了しています。かつてのように横一線で、というのはもはやあり得ない。後述するように、大学の層によっては年内に入学者の確保をほぼ終えている場合もあります。 井沢 2023年度のデータを見ても、私立大では募集人員の半分以上が年末にはもう決まっていましたから。推薦型選抜の枠は公募から指定校制に移行してその比重を減らしており、23年度の志願者数は前年度比0.5%増でしたが、24年度はすでに前年度比でマイナスに転じているというデータもあります。 その点、総合型選抜の志願者数は24年度も前年度比20%以上増加していると推測しており、それを上回る勢いで合格者も出ています。受験生としても、総合型選抜の方が学校推薦とは違って校長の推薦を必要としないので学校とは関係なく出願しやすい、ということがあるかもしれません。 後藤 総合型選抜では、評定平均値が規準とならないことが大きい。学力を問われないし、そもそも勉強をしていない(笑)。勉強しなくても入れるというのが総合型選抜受験生の感覚になっていることがとてもまずいと思います。 井沢 中には、オープンキャンパスに行けば合格がもらえてしまうような大学もあります。そういう大学が増えてくると、大変ですね。 後藤 23年度比で、24年度は18歳人口が4万人も減っているわけですから、大学側としては入学者の歩留まりを読みにくい一般選抜の前に、早く学生を取っておかないといけない。ここ数年、非一般選抜の枠も合格者数も増えていますから、一般選抜の実質倍率は落ちるに決まっている。年内に合格を出し過ぎると、かつての江戸川大のように、一般選抜の枠がなくなり、一般選抜で合格者を出せなくなっちゃいます(笑)。 井沢 24年度の大学入学共通テスト出願者数が50万人割れ(確定値は49万1913人)となったことは大きいですね。少子化と年内入試での志願者増もあって、現役受験生が2%ほど減少しています。 後藤 少子化の影響が大きいとはいえ、本当に大丈夫なの、という気もします。大学にとって、共通テストが基礎学力を最も端的に測定できるものです。大学入試で判定すべきは、基礎学力と学習意欲。その基礎学力を大学はしっかりと判定できているのか。この状況では疑義を持たざるを得ない。これはある教育委員会が調べて判明したことですが、総合型選抜でも学校推薦型選抜でも、上位国立大での合否は、結果的に共通テストの得点で決まっていることが分かってしまった。基礎学力の重視なんですよね。 井沢 リンクしているわけですね、学力と。そして、学力試験以外の面接やプレゼンテーションでは有意差を生まないのでしょう。日東駒専(日本大・東洋大・駒澤大・専修大)など準難関クラスを境に、それよりランクが下の大学の入試問題と共通テストの試験内容は志願者のレベルも含めてもはや別物ですから。平均的な高校では、共通テストで求められている思考力・判断力・表現力のような受験対策ができないと思います。 後藤 そういう高校の受験生は、そもそも共通テストの対策まで追いつかない。定期テストでそれなりの理解を求めるのが精いっぱいの高校も少なくない状況です。これまで高校の授業は、大学の一般選抜のような学力試験を目指して指導してきました。それが、一般選抜が広き門になり、そういった指導がしにくくなっている。 そもそも生徒に一般選抜を受ける意思はなく、総合型選抜や学校推薦型選抜に走ることになる。そうした高校では、共通テストを受ける受験生は、少数精鋭なんですよ。 井沢 そうですね。共通テスト出願期間(9月25日から10月5日まで)に指定校推薦の校内選考はもうだいたい終わっていますから。 後藤 その学内選考でも学力、つまり授業の成績である評定しか見ていない側面があります。しかも、大学の面接でそれほど差が付くわけではない。15分から20分の面接で何が分かるのか。しかも面接しているのは大学の教員ですよ、分かるわけがない(笑)。 校内の成績なんてローカルルールですからね。果たしてちゃんと基礎学力を担保できているか。ある大学で聞いた話だと、受験生の書類に高校のランクが書いてあり、評価してはいけない評定平均も書いてある。そういう指標がないと、大学の先生は受験生を評価できない。つまり、かなりバイアスがかかった面接になります。
● 3層化した日本の大学受験生の向かう先 ――大学間の構造的な問題が、大学入試にも影響を与えている様子もうかがえます。 後藤 大学入学者数は63万人ほどですが、大学受験生は3層化しています。第1層である最上位5%ほどの学生が旧帝大や早慶といった難関大や医学部医学科に進み、第2層である次の10%くらいがMARCHや関関同立、地方国公立大などに進みます。 早慶よりもMARCHの方が一般選抜の比率は大きい。それは早慶を落ちてくる学生を拾うことができるからです。そして、第3層となる残りの85%のうち、入学定員合計が約3万人の日東駒専を境にして、上位ランクの大学から不合格者が流れてくることが期待できない大学は、先ほど見たように非一般選抜で学生を確保することになります。 井沢 関西では、総合型選抜と公募の学校推薦型選抜の併願もありますね。年内受験の合格者には優先的に奨学金をつけるところもあります。そうした受験生は一般選抜で国立大など難関大を受ける。国公立大の合格発表まで入学手続きを待ってくれる大学もある。 後藤 学力の高い受験生が混じるよう特待生試験などをやり、志願者を増やして、ある程度レベルを上げていくというやり方もあります。ならば、受験生はそれをうまく使いたいですね。先日、24年新設の武蔵野大ウェルビーイング学部に総合型で合格した生徒は、4年間学費免除という特待生になりました。浮いた学費相当分を使って留学しようともくろんでいます。一部を除けば、大学間の就職格差はなく、むしろ、留学して知見を広げた方が大学卒業後はなにかと優位になりますからね。 井沢 神奈川大の給費生と同じ感じですね。そういう特待生制度は、1年次の成績が悪いと見直しされるのが一般的ではありますが。 後藤 そもそも勉強する気がない受験生が増加してきて、勉強しない学生の水位がどんどん上がってきているのが現状です。母校の南山大学から先月電話がかかってきました。東海地方のトップ私立大である南山大であっても、この少子化の中で、いずれ学び方を知らない、大学教育にふさわしくない学生が交じり始めることに危惧を抱いています。 名古屋は大学が多いので、大半の私大受験では学力試験が関係なくなっている。そもそも他地域からの参入がない地域ですから「赤信号、みんなで渡れば怖くない」って感じで勉強しなくなっているんです。これは一大学の問題ではなく、東海地方の危機ですね。 河村たかし名古屋市長が「市立高校入試を廃止する」と息巻いているそうですが、廃止するのでなく「高校入試が機能しなくなる」ことを想定した発言じゃないのかな。うまく機能しなくなったときに中学生の学ぶ意欲はどうなるのか。一部地域でトップ進学校が定員割れを起こす状況が散見されるようになりました。トップを目指さないんですよね。中学受験でも母親が傷つく息子の姿を見たくないと、負けない受験しかさせないといった話も数年前から出ています。これが「草食男子」を生んでいるという話なんですが(笑)。少子化の影響は大学入試よりも先に高校入試にやってくるわけですから。 ―――悪貨が良貨を駆逐する状態ですね。 後藤 国公立大志向が強い地域ですから「国公立大を狙え」と共通テストを受けさせられますが、それができない高校では、これくらいでいいかと生徒の学習指導を妥協してしまいます。合格実績だけを求めて、私大文系3教科のように入試科目も絞る傾向があるので。高校生は余計勉強しなくなる。 高校での文理選択を止めろという声がありますが、文理選択を止めるのではなく、数学を含めたバランスの良いカリキュラムで学べという話だと思います。 それに、いまや人文社会科学系の学問でもデータを扱うことは普通です。だから数学を学ばないことはあり得ないんですよね。むしろ、高校で数学や理科を深く学ぶ「理系特化」は必要なんですが。それ以外の大学進学を考える生徒は幅広く教科を学び基礎学力を充実させて、探究学習で自分の興味関心のある分野を深く学ぶようにしないと、大学入学後の教育を享受できなくなります。 ―――私大だと3教科が普通でしたが。 後藤 1教科入試もあります。一般選抜の合格者数は減っていくので、大学の偏差値だけは上がっていきます。 井沢 浪人生が減っているという現状もあります。一方で、不本意な大学に入ってしまい、仮面浪人も増えているようです。 後藤 仮面浪人にとってはやりやすくなっている。浪人生も予備校には通わず、N予備校やスタディサプリなどで勉強する。費用が月額数千円とかでべらぼうに安い。 ―――それは予備校にとって由々しき事態ですね。
● これから問われる有名大学院に入れる力
――圧倒的に多くを占める3層目の大学はどうなるのでしょう。
後藤
ある私大の英文学科に総合型選抜で合格した生徒が、入学式の前に大量の英文を渡されて、
「これの5ページ分を毎回授業で扱うから読んでおくように」と言われたそうです。
こうした事前教育をやらないといけなくなってきている。
大学での授業のイメージがそもそもないというか、
学ぶことができない生徒が大学に入学してきますからね。
そんな状況では大学の授業は成立しません。
第3層の受験生を受け入れる大学の多くでは、
そもそも選抜機能が働かないのだから、
受験生から選抜することを考えてはいけない。
この層の生徒は、教科、分野によって、理解度にばらつき
いまや「学ばない生徒、学べない学生」の時代です。
大学も立ち止まって考える必要がある。があります。
大学入学後に学ぶ内容に合わせて、ある一定の理解ができるようする。つまり入試を起点にして、その大学の教育にふさわしい状態に育てていくことが必要です。「選抜から育成へ」の変革を求められ「高大接続」の本来の意義を問われます。 ――大学間格差もより顕著に表れそうですね。 後藤 大学の世界ランキングが毎年騒がれていますが、あれは研究業績を問う大学院が対象ですから。勝負する世界は変わっているものの、受験生も親も、その周辺の関係者も意識が以前のままで変わっていない。 南山大の話に戻すと、大学には「これからは学部の定員を減らすしかない、勝負は大学院進学」と伝えました。これまでのように同じ大学の大学院に進ませるだけでなく、研究実績があり知名度も高い他の大学院に進んで活躍してくれる卒業生をどれだけ出せるかを含めた勝負になります。 ――文系ですと、かつては東大の新聞研で修士号を取る「学歴ロンダリング」が裏技でありました。
後藤
これからは、こうした“ロンダリング”が普通になっていく。別の競争が始まっている。あまり大きな声では言えないけれども、法科大学院ができた頃、関関同立のある大学は自前の法科大学院を設けたものの、成績優秀なトップの学生を早稲田の法科大学院に送り込んでいました。
井沢
司法試験に強いとされる大学からも、慶應義塾大や東大の法科大学院に進学するケースが目立ちますね。大学が行かせたこともあるかもしれませんが、学生もそれを望んだと思います。
後藤
特に私大の人文・社会科学系の学部は、人工知能の発達で卒業後に就く仕事がなくなっていきます。
学部の定員を減らしていくことになり、相対的に理系の比重が増えていきます。
その一方で、立命館アジア太平洋大学(APU)の国際学生(海外からの留学生)の動向を見ると、
就職後にも大学院進学を狙っています。
日本の企業ではまだまだ入社後に修士号を取得しても評価されないケースが多い。
だから優秀な学生ほど外資系に流れていきます。
井沢
外資では修士号以上を持っていないと昇進できませんし。
● 急速に変化する仕事と雇用に対応するには
後藤
今年の受験生は4年後に就職するわけですが、これだけ円が弱くて、自民党が崩壊して、いまよりも国際競争力は低くなっていると想定できる。日本の経済が不安定になっていることで、産業構造や雇用システムがガラッと変わる可能性は高いです。
営業職は人間がやらず「電子」がやる時代になるでしょう。人工知能が進化すれば、経理業務に人材を割り振ることもないでしょうね。社会科学系が養成していた人材の活躍の場がどんどん狭くなっていきます。
雇用システムも、特定の業務に対して人材を求めて賃金を支払うジョブ型雇用が増えてくるでしょうから
「○○大学△△学部を卒業した」ことはあまり評価されず、
「あなたは何ができますか」を問われるようになり、護送船団方式の大学システムは意味をなくします。
――そうなると、偏差値や大学間の序列も崩壊していきますね。
後藤
いかに学生を育て上げるか。大学教育の実質化を求められます。
その大学教育にふさわしい能力の基盤となる教育が、高校教育にも求められている
ことを忘れてはいけないですね。基礎学力がないところに学力は積み上がりません。
――難関中高一貫校からの海外直接進学も年々増えているそうです。
後藤
一方で、トップ進学校では、保護者がこうした状況を既に見越しています。あるトップ公立女子校では、文系クラスよりも理系クラスが多くなりました。これは保護者の意向です。産業構造の転換を見据えているのですね。
さらに言えば、人工知能では対応しにくい保育士の待遇は改善し始めています。保育所不足の影響もあり、既に初任給は公務員よりも厚遇になる地域も出ています。ここでは短大卒と四大卒の給与格差はあまり大きくないようです。
少子化とは言え、子どもが生まれないわけではない。
今後、特に第3層の受験生は、
人工知能が発達した世界を思い描いて
高校卒業後の進路を落ち着いて考える必要があるでしょう。
井沢
首相がグレートリセットだとか言っている状態ですから。
後藤
そこまで読み込んで、偏差値だけではない大学選びをしないといけないわけです。
ダイヤモンド社教育情報/後藤健夫/井沢 秀
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