〝最悪のシナリオ〟超えた能登地震 鍵となる地下流体の正体(産経新聞) - Yahoo!ニュース

 

〝最悪のシナリオ〟超えた能登地震 鍵となる地下流体の正体

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産経新聞

プレートから出た水が引き起こす地震活動のイメージ

震度7を観測した能登半島地震で注目が集まっているのが、半島の地下に潜む大量の「流体」の存在だ。その正体は、深さ数百キロのプレートから染み出した水とされ、3年以上続く群発地震や地殻変動を引き起こしたとみられる。一方、今回の地震は専門家が想定していた「一番悪いシナリオ」をも超える規模で、流体の影響だけでは説明できないといい、詳しい分析が待たれる。

 

  【写真】火災や津波で海底露出も。石川県珠洲市の港湾付近の航空写真

 

能登半島の北東部では令和2年12月から群発地震が続き、5年5月にはマグニチュード(M)6・5の地震も発生、1人が死亡、住宅700棟超が損壊する被害が出た。これらの原因と考えられているのが、地下約10~15キロの位置に湧き出た大量の水。通常の地下水とは異なり、日本列島の地下深くに潜るプレート由来と考えられている。 産業技術総合研究所の中村仁美上級主任研究員によると、海の底にある海洋プレートは水を含んだまま年間数センチずつ移動し、日本列島の地下に潜り込む。有馬温泉など一部の温泉は、地下に潜ったプレートから染み出た水が地表に湧き出たものだという。 プレートから出た水は地表近くに至るまでにマグマに吸収されることもあるが、能登半島周辺では深さ300キロの太平洋プレートから出た水がそのまま、地表に向かって上昇できる条件が整っている。 京都大防災研究所の西村卓也教授のグループは地殻変動のデータなどから、能登半島の地下16キロ程度の領域に、2年11月から4年6月にかけて東京ドーム約23個分にあたる約2900万立方メートルの水が地下深くから流入したと推計。これらが断層帯に拡散したことで群発地震などを引き起こした可能性を提示した。 水が急に上昇してきたきっかけについて、西村氏は「東日本大震災から続く地殻変動で地中に水の通り道ができ、深い位置で止まっていた水が急速に動き出した可能性もある」と推測する。 西村氏は当時、群発地震に続く〝一番怖いシナリオ〟も示していた。水が引き続き移動して「珠洲(すず)沖セグメント」と呼ばれる海底活断層の深部に浸入し、M7クラスの大地震を引き起こすケースだ。ただ、現実はそれをはるかに超えていた。 元日の地震では珠洲沖セグメントにとどまらず、近隣の活断層にも地震活動が連鎖したとみられ、震源域は150キロにも及んだ。 西村氏は今回の地震にも流体が関わっているとの考えを示す一方で「流体の影響だけでこれほどの規模の地震を起こすとは考えにくい」と話す。 今回の地震で激しい動きを見せたのは、むしろ流体が少ないエリアの活断層だったと指摘する専門家もいる。 兵庫県立大の後藤忠徳教授によると、流体が多いエリアの活断層は地盤のひずみをこれまでの群発地震などで解消できていた一方、流体が少なく硬い部分は滑りが起きないまま取り残され、大きなひずみが蓄積していた可能性もあるという。

 

 ただ地中深くの流体を観測するのは容易ではなく、今回の地震との関連についても、早急に結論は出ない。

 

 能登半島以外の地域ではこのような流体の実態は、よく分かっていないという現状もある。

 

東北大の吉田圭佑助教は

「能登では地殻変動と地震が少しずつ先に起こっていたからこそ

観測が進んでおり、多くの知見を得ることができた。

 

予兆なく発生する多くの地震ではそうはいかない」と指摘する。

 

 同大の武藤潤教授は

「マグマと違い、水は火山が分布する地域以外でも急に上がってきて

『想定外の地震』を起こす可能性がある」と話し、

多面的な観測が重要との考えを示した。(花輪理徳)

 

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