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〝良好〟日韓関係は揺るぎないか?尹政権を変える要因

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2024年の尹錫悦政権と日韓関係はどうなっていくのか(AP/アフロ)

 尹錫悦政権2年目となる2024年の韓国は、いったいどのように動いていくのか。本稿では、政治、国際、経済、日韓関係の4つの視点で論じていきたい。

拮抗続ける与野党の支持

 一つ目の視点である政治では、4月に行われる総選挙が焦点となる。4月11日に行われる総選挙では、定数300議席の国会議員が選出される。大統領制と一院制国会を採用する韓国では、5年ごとの大統領選挙、4年ごとの総選挙が国民の価値観と社会の雰囲気を一変させるほどの影響力を持つ。そのため、総選挙の結果によっては、尹大統領は27年の任期まで難しい舵取りを迫られることになる。  現在の国会勢力図は、革新系野党「共に民主党」168議席、保守系与党「国民の力」111議席が議席と、ねじれ状態になっている。1年前の大統領選挙で保守系の尹政権が誕生したのだから、総選挙でも保革逆転が起こるかというと、そう簡単に事は進まない。  まず、大統領選挙の得票率を振り返ってみると、尹錫悦氏48.56%、李在明氏47.83%と、その差わずかに0.73ポイントの薄氷の勝利だった。そして、現在までこの拮抗した保革対立は続いている。  次に、最新の世論調査(韓国ギャラップ12月第1週)を見てみると、支持政党は国民の力35%、共に民主党33%、無党派層27%となっているが、この大凡の比率は尹政権発足から変わらない。しかし、これを地域と年代別で見ると、国民の力は首都圏と30~50代で共に民主党に劣っていることがわかる。  このようなデータを分析すると、与野党の支持率は拮抗しており、人口の半分以上が集中する首都圏とボリュームゾーンの年代で与党が不利な状況にあることが見えてくる。ただし、総選挙は政策イシューをめぐって争われるものではなく、大統領への信任投票の意味合いが大きいため、任期2年目までの大統領に有利に展開するといわれている。  また、韓国の選挙は投票前日まで票読みができないと言われるほど、社会的問題の動きに影響される。そのため尹大統領は日米韓首脳会談を24年上半期、おそらくは総選挙前に行って、外交成果を投票行動に結びつける作戦を取るだろう。  一方で、尹大統領の人間性への反感が影響を与える可能性がある。大統領選挙を争った李在明氏は尹政権の強権政治に抗議して、8月から9月にかけてハンガーストライキを行ったが、尹大統領は見舞いに訪れなかった。これが韓国人の目には、「やはり検事であって政治家ではない」と映った。

 

 

 

 

 

 過去を振り返れば、16年4月の総選挙で与党が敗れたことを受けて、朴槿恵大統領への責任追及が始まり、最後には友人で実業家との政治スキャンダル「崔順実ゲート事件」で憲政史上初の大統領弾劾・罷免にまで発展した。韓国を西側陣営に復帰させた尹政権の帰趨を占う上でも、総選挙をめぐる動きには注目せざるを得ない。

気になる北朝鮮情勢と米大統領選

 二つ目の視点である国際では、北朝鮮の動向と11月に行われる米国大統領選挙が焦点となる。北朝鮮は21年1月の朝鮮労働党第8回大会で国防5カ年計画を採択し、目標達成に向けて邁進しており、後半戦となる24年には、更なる偵察衛星の打ち上げ、さまざまな種類の弾頭ミサイルの発射を行うとみられる。23年11月の北朝鮮による偵察衛星打ち上げを機に、南北軍事合意が効力を失った状態にあるので、南北間で小規模な交戦が起こり、一時的に軍事的緊張が高まることは否定できない。  また、北朝鮮は3年7カ月におよぶ国境封鎖を解除し、23年9月には金正恩氏がロシアの宇宙基地ボストチヌイを訪れ、プーチン大統領首脳会談を行い、同会談での密約を受けて、北朝鮮はロシアに弾薬などを提供するに至った。これらの動きから、北朝鮮が外交と海外での工作活動を再開したと判断される。  韓国でこれまで北朝鮮の工作活動を探知してきた国家情報院が23年末で共産主義活動の捜査を行う対共捜査権を警察へと移管し失ったことは、今後の北朝鮮情勢に少なからぬ影響を与えるだろう。サイバー攻撃や暗号資産の窃取など北朝鮮の工作活動に対する情報収集の弱体化の影響が海外にも波及することが懸念される。  そして、韓国の国際関係に最も大きな影響を与えるのは、11月5日に行われる米国大統領選挙だ。選挙では、共和党のドナルド・トランプ前大統領と民主党のジョー・バイデン大統領の一騎打ちとなる公算が大きく、トランプ氏の返り咲きが現実となる可能性がある。  トランプ氏は大統領在任時、在韓米軍撤退や米韓自由貿易協定(FTA)の破棄を示唆する同盟無視の言動を繰り返した。それを受けた文在寅政権で、独自の核武装や米韓同盟廃棄などが持ち上がるなど、同盟関係は迷走した。  このようなトランプ氏が残した悪しき遺産を払拭するため、バイデン大統領は23年8月、大統領専用保養地のキャンプ・デービッドで日米韓首脳会談を開き、首脳、外相、国防相などが最低年1回協議することを盛り込んだ共同声明「キャンプ・デービット精神」を発表した。上述の尹大統領が24年上半期に開催を目指す日米韓首脳会談は、この精神に基づく2回目の会談を指す。  「もしトラ」と喩えられるトランプ氏再選が現実のものとなれば、日米韓の友好関係に再び深い亀裂が生じる恐れがある。また、もしトラでもう一つの懸案は、トランプ氏の北朝鮮政策だ。在任中に金正恩氏と3回にわたり会談したトランプ氏が、世界の注目を集めやすい北朝鮮問題で成果を求める蓋然性は大きい。

 

 

 

 

 

経済のカギ握る軍需産業とデジタル通貨

 三つ目の視点である経済について、韓国のシンクタンク「サムジョンKPMG」は、12月に発表した「2024年国内主要産業展望報告書」で、半導体、携帯電話、エネルギー、ユーティリティ、損害保険など11の業種で、新規商品・サービスを通じて市場を拡大し、グローバル市場を開拓し、需要創出と収益向上につながると、期待感を示している。特に半導体市場では、23年に-9.4%となった減少を24年には13.1%の成長で挽回するとしている。

 

  また、新たな輸出産業として、近年世界から注目を集めている防衛産業は、文在寅政権の2020年代から躍進期に入り、韓国の武器輸出は20年に約30億ドル、21年に約72億ドル、22年には約172億ドルと倍々ゲームの様相を呈しており、23年の輸出額は200億ドルを超えると見込まれている。200億ドルを円換算すると約2兆8000億円になり、これは韓国の武器輸出が日本の航空機産業や防衛産業の規模(ともに約1兆8000億円規模)を大きく凌駕していることを意味する。

 

  政治理念では文政権と対極にある尹政権だが、武器輸出については前政権の政策を引き継いでおり、尹大統領は22年12月に招集した第1回防衛産業輸出戦略会議で、任期が終える27年までに、世界の武器輸出シェア5%獲得、世界4大武器輸出国入りを目指して1兆ウォンに上る補助金を投入することを表明した。

 

  過去、武器輸出は「死の商人」のイメージで語られていたが、現在では国家安全保障の根幹である武器を提供、共有することで、極めて高いレベルの国家関係を築くための手段になっている。韓国はこれまで中小国への輸出が中心であったが、豪州への自走榴弾砲の輸出を成就し、6兆円規模とも言われるカナダの新型潜水艦事業を視野に入れて、政財官がタックを組んで受注に取り組んでいる。

 

  もう一つ、韓国の先進的な取り組みとして、24年第4四半期に10万人が参加する中央銀行デジタル通貨(CBDC)の試験運用を上げなければならない。主要国の中央銀行は近年、デジタル決済の増加に対応するため、CBDC開発を模索している。

 

  現在のところ、中国のデジタル人民元が注目を集めているが、韓国は21年12月に模擬環境でのCBDC発行テストを終了しており、二番手に位置している。韓国のデジタル技術と輸出機運を考えると、独自のCBDC技術で世界に打って出ることが考えられるので、その動きから目を離せない。

 

 

 

 

 

 

懸念の徴用工裁判

 最後となる日韓関係は、これまで述べてきた政治、国際、経済の動きが複合して影響を与えると言える。現在までのところ、尹政権の誕生によって、日韓関係は近年で最も友好かつ安定した状態で推移している。

 

  尹氏は就任後の光復節(独立記念日)の演説に際して、歴代大統領で初めて日本の植民地支配に言及しなかった。尹大統領は日本を「国際社会における自由を守り、広げるためのパートナー」と認識しており、それは現在まで一貫している。

 

  しかし、そんな尹政権も、徴用工裁判への対応という悩みの種を抱えている。韓国大法院(最高裁)は23年12月、3件目となる日本企業への賠償命令を下した。尹大統領は、これら賠償に関して、韓国政府傘下の財団が賠償金を肩代わりする解決策を進めているが、一部の元徴用工や遺族は財団からの受け取りを拒否している。

 

  同問題への対応は高度な政治・司法判断の下で進められているが、韓国人のアイデンティティに直結する問題でもあるため、尹大統領は難しい舵取りを迫られることになる。

吉永ケンジ

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