シェイクスピア学者によるポー新訳選集、「大鴉」の緻密な翻訳に驚嘆―エドガー・アラン・ポー『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』鴻巣 友季子による書評(ALL REVIEWS) - Yahoo!ニュース

シェイクスピア学者によるポー新訳選集、「大鴉」の緻密な翻訳に驚嘆―エドガー・アラン・ポー『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』鴻巣 友季子による書評

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『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』(KADOKAWA)

ポーの諸作を三巻に編んだ新訳選集である。際立っているのは、一つに言語面での驚異的な忠実さだ。訳者の河合氏はシェイクスピア学者として、言葉遊びや地口が満載された韻文の訳出を数々経験してからポーを再読したところ、その韻文の凝った技巧に改めて感嘆し、新訳に乗りだしたという。訳出するのは当然ながら意味だけではない。ライム(押す韻)に加えてミーター(韻律)までが再現される驚き。ポー自ら「構成の原理」で分析した「大鴉」(「ゴシックホラー編」)の緻密な翻訳には腰を抜かすしかない。各連の一行目と三行目に仕込まれた中間韻もすべて再現されているではないか! 「怪奇ミステリー編」はセレクションと共に、ポーの怪死に迫る解説も圧巻。死の前にポーが見せた痙攣(けいれん)、幻覚、おかしな言動……。従来の通説が鮮やかに覆される。三巻目を「ブラックユーモア編」としたことにも快哉(かいさい)を叫びたい。短編小説、謎かけ詩、創作論も収められ、特に「Xだらけの社説」を読めば、ポーが大いに天邪鬼(あまのじゃく)で悪魔的なユーモリストであることがわかる。巻末の「ポーを読み解く人名辞典」は永久保存版だ。 【第2巻】 【第3巻】

 

 

 

 [書き手] 鴻巣 友季子 翻訳家。

訳書にエミリー・ブロンテ『嵐が丘』、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ1-5巻』(以上新潮文庫)、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(河出書房新社 世界文学全集2-1)、J.M.クッツェー『恥辱』(ハヤカワepi文庫)、『イエスの幼子時代』『遅い男』、マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』『誓願』(以上早川書房)『獄中シェイクスピア劇団』(集英社)、T.H.クック『緋色の記憶』(文春文庫)、ほか多数。文芸評論家、エッセイストとしても活躍し、『カーヴの隅の本棚』(文藝春秋)『熟成する物語たち』(新潮社)『明治大正 翻訳ワンダーランド』(新潮新書)『本の森 翻訳の泉』(作品社)『本の寄り道』(河出書房新社)『全身翻訳家』(ちくま文庫)『翻訳教室 はじめの一歩』(ちくまプリマー新書)『孕むことば』(中公文庫)『翻訳問答』シリーズ(左右社)、『謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学』(新潮社)など、多数の著書がある。 [書籍情報]『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』 著者:エドガー・アラン・ポー / 翻訳:河合 祥一郎 / 出版社:KADOKAWA / 発売日:2022年02月22日 / ISBN:4041092434 毎日新聞 2023年4月29日掲載

鴻巣 友季子

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