対面叶わなかった偉大な反面教師 「がん放置療法」で一世風靡、医療界きっての憎まれっ子
配信
【ドクター和のニッポン臨終図巻】医師・近藤誠氏 この人と会ったことはありません。
だけどこの人のWikipediaに「敵対者 長尾和宏」と記されていたことがあります。
ハブとマングース? 否、僕はこの人を尊敬してもいました。
だからこそ、それは極論だと思う部分を議論したかった。
いずれどこかで会えるような気がしていましたが、叶わなかった。
悲しみよりも複雑な気持ちが先立ちます。
なぜなら彼は、医療界きっての憎まれっ子であり、長生きしてまだまだ世に憚ると信じていましたから。やはり会えるときに会っておかなければダメですね。
喧嘩でもいい、沈黙でもかまわない。
サザンの歌ではないですが、逢いたくなった時に君はここにいない。
コロナ禍で一層、そんな気持ちになることが増えました。
〈がん放置療法〉や、〈がんもどき理論〉で一世を風靡(ふうび)し、
『患者よ、がんと闘うな』をはじめ多くの著作を出版された医師の
近藤誠氏が、8月13日に亡くなりました。享年73。
報道によれば、その日近藤医師は、自身が院長を務める東京都渋谷区のセカンドオピニオン外来に出勤途中、タクシーの中で体調不良を訴えて、病院に搬送されましたが帰らぬ人となりました。死因は虚血性心不全。いわゆる「心臓突然死」でした。 虚血性心不全とは、血液が循環していないという意味で、心臓の幹線道路である冠動脈が狭窄(きょうさく)ないし詰まった結果、心臓の機能が低下し、全身に血液が送り出せなくなった状態。別名、急性冠症候群とも呼ばれます。 突発性心不全の場合は、症状が現れてから1時間以内に死に至るケースが多く、わが国では、年間約5万人が心臓突然死をしています。
これは高齢者に限ったことではありません。
近藤医師も、まさかご自分が今日死ぬとは思いもせずに出勤されたことでしょう。死んだことにも気が付いていないかも。あるいは、もしも病院内など、AEDが使える環境であれば、救命できたかもしれません。
さて、僕が近藤医師の天敵とまで言われた理由は、2015年に
『長尾先生、「近藤誠理論」のどこが間違っているのですか?』という本を出版したからです。
抗がん剤は、やる/やらないの二元論ではなく、「やめどき」が大切であり、
がん放置療法は後期高齢者に関しては一部正しくもあるが、
若い人のがんは、上手に闘うという選択肢もある
、と主張しました。
現代医療の全否定でも全肯定でもなく「中庸」、つまりは
ほどほどに生きること…近藤医師は僕にとって、偉大な反面教師であったのかもしれません。
■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。
