ファクトシート]「安倍政権下で公安調査庁報告書から統一教会の記述が消滅」報道について
楊井人文弁護士
公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」2020〜22年版(同庁ホームページより)
公安調査庁が毎年公表している報告書から、安倍政権下で、統一教会を意味する「特異集団」の項目が消えた、とする報道が話題となっている。
辻元清美参議院議員(立憲民主党)の質問主意書に対する政府の答弁書(8月15日閣議決定)について、各紙が報じたものだ。
この報道により、安倍晋三首相が削除に関与したのではないかとの疑念がネット上に広がっている。
事実関係はどうなのか。閣議決定された政府答弁書には何が書かれているのか。現時点で確認できたことを整理してみた。
まとめ
◯ 公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」は、いわゆる白書と異なり、閣議で報告、配布、了承されるものではない。
◯ 2000年版以降、「特異集団」への言及は5回で、その多くが刑事事件を起こした団体であった。統一教会に関しては、05、06年版に新組織設立について匿名で言及されていた。
◯ 2007年版(第一次安倍政権下で発表)以後、オウム真理教を除き「特異集団」や国内で刑事事件を起こした宗教団体への言及はなくなった。この点は民主党政権下でも同様であった。
朝日新聞の報道とそれを引用した辻元議員のツイート
「内外情勢の回顧と展望」とは
そもそも、今回焦点があたった公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望」とはどういうものか。
まず、公安調査庁は、破壊活動防止法(破防法)の「破壊的団体」や「無差別大量殺人を行った団体」などに関する調査などを任務とする、法務省の外局組織の一つ(公安調査庁設置法5条参照)。長は公安調査庁長官で、法務大臣が任命する。
公安調査庁は破壊的団体の活動制限や解散を請求する権限はあるが、処分権限はない。処分決定は、別の外局組織である公安調査審査会が行う。
「内外情勢の回顧と展望」は1986年から毎年発行されているが、閣議で配布、報告、了承されるものではない。法律の規定に基づき国会で提出されたり、閣議で報告、了承されたりする、いわゆる「白書」とは異なる(参照:白書について)。
(以下「回顧と展望」と略称する。)
「特異集団」との項目が登場した回数は
「回顧と展望」は1986年から毎年発行されているが、インターネット上で閲覧できるのは2000年版以降である(近年の版はこちら)。
2000〜2022年版に限って調べたところ、「特異集団」という項目が登場したのは2001年、02年、04年、05年、06年版の5回のみで、07年版以降は(民主党政権時代も含め)一度も登場していなかった。
「特異集団」=「統一教会」ではない
一部報道で誤解を与える可能性があるが、「特異集団」は統一教会を意味するわけではなく、「特異集団」の一例として統一教会が取り上げられたことがある、というのが正確な事実である。
この点、政府答弁書(8月15日閣議決定)では
お尋ねの「特異集団」とは、社会通念とかけ離れた特異な主義・主張に基づいて活動を行う集団であると承知している。
と答弁している。
事実、2001年版で登場した「特異集団」の項目では、前年に刑事事件となり社会の注目を浴びた「加江田塾」「ライフスペース」「法の華三法行」が取り上げられている。02年版、04年版の「特異集団」でも、統一教会とわかるような団体は取り上げられていない。
今回の政府答弁書で質問の対象となった05年版、06年版において、統一教会に関連する記述は、次のようなものであった。
また,不透明な朝鮮半島情勢を背景に,「国内外の韓民族の和合と統一を図り,南北の平和統一に貢献する」として,我が国において,在日韓国・朝鮮人の糾合を目的とする新組織を設立し,これら在日関係者を取り込むことで勢力拡大を図る動きをみせた集団もあった。(2005年版より、太字は筆者)
このほか,「朝鮮半島の統一」を標榜して,我が国で在日韓国・朝鮮人を糾合する新組織への結集を目指し,これら在日関係者を韓国の大会に参加させるなどして,在日組織との間で軋れきを生じさせるといった動きを示す集団もあった。(2006年版より、太字は筆者)
ここで注目されるのは「在日韓国・朝鮮人を糾合する新組織」という文言だ。
今回、この「新組織」が「平和統一聯合」という組織であること、その組織を設立した母体「集団」が「世界基督教統一神霊協会」(当時の名称)であることを政府答弁書は認めた。
この平和統一聯合なる組織は、2004年7月に設立された(なぜか明記されていないが、創設者は故・文鮮明氏とみられる)。
05年、06年版には、統一教会が新組織を立ち上げたことに注目し、取り上げたとみられる。
いずれにしても、統一教会は、匿名ながら、05年、06年版の「特異集団」の一例として言及されていた。
07年版以降「特異集団」の記載はなくなる
先ほど述べたように、07年版以降、「特異集団」の項目そのものがなくなった。以後、国内の宗教団体に関連する言及自体がなくなった。
統一教会に関連する刑事責任が初めて司法認定された事件(新世事件、2009年)についても、民主党政権下で発行された2010年版、11年版、12年版も言及されていなかった。
12年版(民主党政権下で発表)からは、反原発運動なども言及されるようになり、翌年版から「社会的に注目を浴びた事象をめぐる諸団体の動向」という項目が新設された。
ただ、オウム真理教を除き、国内の宗教団体に関連する言及は見当たらなかった。
この項目も19年版を最後になくなり、20年版(第二次安倍政権下で発表)からは「オウム真理教」「共産党」「過激派」「右翼団体」の4項目に戻り、現在に至っている。
「内外情勢の回顧と展望」国内情勢における言及対象(筆者調べ)
<2000年版>「オウム真理教」「共産党」「過激派」「右翼団体」(以下、「主要4項目」と呼ぶ)
<01年、02年版> 主要4項目+「特異集団」
<03年版> 主要4項目
<04〜06年版> 主要4項目+「特異集団」(※05、06年版で統一教会が新組織を設立したことに匿名で言及)
<07〜11年版> 主要4項目
<12〜19年版> 主要4項目+反対運動関連
<20〜22年版> 主要4項目
報告書の記述と調査対象は必ずしも連動せず
今回の政府答弁書は「『内外情勢の回顧と展望』は・・・その時々の公安情勢等に応じて取り上げる必要性が高いものと公安調査庁が判断したものを掲載している」(太字筆者)とも述べている。
また、統一教会が調査対象になっていたかどうかについては
「同庁が調査対象としていた団体を明らかにすることや、
同調の調査内容を具体的に明らかにすることは、
今後の業務遂行に支障を来すおそれがあることから、
お答えを差し控えたい」と具体的な回答を避けた。
政府は国会で、共産党などを調査対象としていることを認めているが、
いずれも「内外情勢の回顧と展望」でも公表されている既知情報で、
未公表の調査対象団体を明らかにした実例は確認できなかった。
05、06年版からは、
少なくとも04〜05年当時、統一教会が調査対象となっていたことは間違いない
とみられる(今回の答弁書で事実上認めている)。
その後に関しては、「回顧と展望」には
「取り上げる必要性の高いもの」だけが掲載されているとしているため、
単に取り上げられていないだけで、ひきつづき調査対象となっていた可能性はある
ものの、どこかのタイミングで調査対象から外れた可能性も否定できない。
現時点で客観的な裏付けは確認できていない。
弁護士
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年、一般社団法人日本報道検証機構を設立し、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年6月、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人。2019年10月〜2021年2月までインファクト(InFact)のファクトチェック担当編集長。2018年4月、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。現在、FIJ事務局長、日本公共利益研究所主任研究員、早稲田大学次世代ジャーナリズム・メディア研究所招聘研究員。