トランプが隠したかった国家機密は、金正恩との会話記録だった?

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■ トランプを信用しないNARAの「プロの勘」 

 

 米連邦捜査局(FBI)が8月8日、ドナルド・トランプ前大統領のフロリダ州にある私邸「マール・ア・ラーゴ」を家宅捜索した。  前大統領に対する強制捜査という米史上初めての事件は、2つの問題点を米国民に突きつけている。  一つは、FBIの捜索の目的、今後の司法の動き、そして押収した国家機密文書の詳細な中身だ。  もう一点は、トランプ氏がなぜ退任時にこれだけの国家機密文書を持ち出し隠匿していたのか、という点だ。  司法省は、米国立公文書記録管理局(NARA)からの要請を受けて早い段階から水面下で動いていた。  トランプ氏が2021年1月、大統領を退任してホワイトハウスを去る際、公務に関連する機密文書などの記録を大量に「マール・ア・ラーゴ」の私邸に持ち帰ったことをキャッチしていたのである。  大統領は退任時、公務に関するすべての機密文書をNARAに提出する義務がある。そのことをトランプ氏が知らぬわけがない。  結局、トランプ氏は、2022年1月中旬、15箱分の機密文書を渋々(? )NARAに提出した。正確には「返還」した。  これらの中には、バラク・オバマ元大統領からの引き継ぎ文書や、トランプ氏と北朝鮮の金正恩総書記との間の通信記録なども含まれていたとされている。  NARAは、この時にすべての書類が返還されていないことを察知していた。そして司法省に調査するよう再要請した。まさに「プロの勘」だった。  司法省傘下のFBIは、重要な機密文書がまだトランプ氏が隠匿しているとみて、内偵を開始。

 ちなみに、FBIの長官、クリストファー・レイ氏(55)は2017年トランプ氏に指名された。  2020年4月、トランプ氏は解任しようとしたが、ウイリアム・バー司法長官(当時)に「解任するなら自分は辞める」と脅されて思い留まった経緯がある。  ジョー・バイデン氏は同氏をFBI長官に留任させて、今日に至っている。  2003年、ジョージ・W・ブッシュ大統領が同氏を犯罪担当の司法次官補に指名した共和党正統派の切れ者である。  FBIが今回の捜索に踏み切ったのは、単なる思い付きでないことが分かる。  レイ氏は、メリック・ガーランド司法長官に最終判断を仰ぎ、連邦地裁判事の許可を得て、FBI捜査官30人をトランプ邸に出動させた。  トランプ氏の私邸は、17エーカーの敷地に聳え立つ「城」。  寝室58室、バスルーム33、執務室、スタッフ常駐のオフィスなどを9時間半かけて捜索した。  ダンボール箱20個余に収めた11組の機密文書、トランプ氏の手書きのメモ、関連写真など33点を押収した。  翌日、ガーランド司法長官は、「公共性や国民の関心の高さ」を踏まえ、フロリダ州連邦地裁に捜査令状や押収品リストの開示を指示した。  家宅捜査で入手した押収品リストを家宅捜査終了段階で開示すること自体、異例なことだ。  「前大統領の訴追も念頭に入れたFBIの捜査をめぐって国論が分裂していることや、3カ月後に中間選挙を控えているといった政治情勢を司法長官が配慮したためだ」(米司法省関係筋)  押収した11組の機密文書のうち、5組は「最高機密」(Top Secret)、3組は「極秘」(Secret)、3組は「秘」(Confidential)と記載されている*1 。 *1=米国の国家機密情報管理は、公開(Unclassified)と非公開(Classified)に分かれている。「最高機密」は情報の内容および情報収集手段が一般公開されると国家の安全に絶大な損害を与えるもの。「極秘」は一般公開されると国家安全に深刻な損害を与えるもの。「秘」は一般公開されると国家安全に損害を与える可能性があるもの。

 

 

 

 

 

 

 未公開情報を閲覧するには、クリアランス(安全証明)が要求される。  セキュリティ・レベルに見合うだけの身上調査を受けて潔白であることを証明された者のみが閲覧できる。  また暗号理論、軍事衛星、諜報活動、核兵器に関わる者にはさらに厳しい調査が行われる。  (https://en.wikipedia.org/wiki/Classified_information_in_the_United_States) 

 

■ 退任と同時に失うクリアランス

 

  国家機密情報管理に詳しい専門家G氏は今回のケースについてこうコメントする。  「これまでメディアが報道しているところでは、押収された機密文書の中には『仏大統領関連』や『核兵器関連』文書が含まれていることが公けにされた」  「大統領は、任期中はむろんクリアランスを得ており、自分が外国首脳とのコミュニケーションで喋ったこと自体が国家機密として記録される」  「だがひとたび退任すれば、クリアランスは消滅する。これまで大統領として知り得たこと、自らが行った言動すべてが国家機密となり、それに対するアクセス権もなくなる」  昨日まで保管していた国家機密はすべて自分のものではなくなるのだ。回顧録などを書く場合は、個々の事例一つひとつにクリアランスが必要になってくる。  政治経験ゼロ、政府の公職に就いたことのない不動産経営者のトランプ氏は国家機密管理に対するこうした理解に乏しかったのか。  そんなこともあるまい。それでもなお国家機密文書の一部を隠匿したのはなぜか。

 ホワイトハウスには法律顧問もいれば、国家安全保障問題のエキスパートもいるわけだから言い訳にはならない。  (もっともトランプ氏は人の言うことには一切耳を傾けなかったそうだから、すべて独断で決定していたのだろうが・・・)  隠匿した文書の中には、NARAに渡せば将来開示されると、トランプ氏にとって非常にマズイことが生じる内容があると考えた方が、つじつまが合いそうだ。  あるいは、文書によっては、それを政治目的や脅迫材料に使えると考えていたのかもしれない。

 

 ■ 退任後も“恋人”金正恩と文通を続けていた

 

  ここからは推理ゲーム(Guessing Game)になってくる。  (押収された機密文書は、たとえトランプ氏が訴追され、裁判にかけられてもその中身が公になることはないし、機密文書が解禁される30年後まで待たねばならないのだから、中身は明らかにならない。推理は自由にできる)  主要シンクタンクの上級研究員の一人はこう「推理」する。  「最高機密は、私は北朝鮮に関するものではないかと思う。例えば、北朝鮮が今やっていることや将来やろうとしていることについての詳細なインテリジェンス情報だ」  「核兵器関連で言えば、米国の核開発計画、ケイパビリティについての情報は、最高機密とか、機密といった極度にセンシティブなものではないような気がする」  「メディアも関心を示しているが、ロシアや中国に関する機密文書は当然含まれているはずだ」  「北朝鮮で言えば、トランプは退任後も、自分の恋人だと漏らしていた金正恩総書記と文通を続けている。そう側近に漏らしている」  「権力者が大好きなトランプ氏は、自分の息子の世代の金正恩氏を本当に好きだったのだろう」  「25通も手紙のやり取りもしている。これはすべて側近や情報機関によって記録されている」  「その中に、トランプ氏が何かヤバいことをしゃべっていたことに気づき、その部分が書かれた文書を隠匿しようとしたとしてもおかしくはない」  (https://thehill.com/homenews/administration/593666-trump-still-in-contact-with-north-koreas-kim-amid-missile-tests-book/)  (https://www.voanews.com/a/east-asia-pacific_trump-kim-love-letters-reveal-friendship-flattery/6195698.html)

 

 

 

 

「もっともニューヨーク・タイムズのマギー・ハバーマン記者が目下執筆中(今年10月に発売予定)の本*2 には、トランプ氏がメモなどをシュレッダーにかけて細かくし、トイレに流していた話を側近から取材している」 「その点では抹消せずに手元に置いておきたい機密情報もあったわけで・・・。トランプ氏の深層心理分析は専門家に任せる以外にない」  *2=https://www.amazon.com/dp/0593297342 

 

■ 「マクロン関連情報」を隠匿していた理由

 

  もう一つ気になるのは押収品リストに出てくる「仏大統領関連」機密文書だ。なぜエマニュエル・マクロン氏の情報なのか。不可解だ。  これについて、2016年の大統領選の際にヒラリー・クリントン陣営でコミュニケーション首席担当者だったジェニファー・パルミエリ氏はツイートでこう推理する。  「首をひねって考えると、マクロン大統領の極秘情報をコンプロマット(Kompromat=旧ソ連に機密情報を流す通報者)から提供されて一番喜ぶ外国首脳は誰か。すぐ想像がつく」  パルミエリ氏は実名こそ上げていないが、それがロシアのウラジーミル・プーチン大統領であることは明白。少なくとも習近平国家主席や岸田文雄首相でないことだけは分かる。  トランプ氏は、ウクライナ侵攻以降、冷え切った関係にある仏ロ首脳のどちらを支持してきたか。  むろんプーチン氏だ。フランスと一戦交える際に「情報戦争」に役立つのはマクロン氏にまつわるスキャンダル情報である。  (https://www.msn.com/en-us/news/politics/ex-clinton-aide-implies-president-of-france-file-found-at-trumps-home-during-mar-a-lago-raid-could-be-valuable-to-putin-as-kompromat/ar-AA10Cr01? li=BBnbfcL)

 

 

 

 

 

 そうしたトランプ氏の「プーチン思い」に呼応するかのように、FBIの家宅捜索の報に接したロシア国営テレビは急遽、専門家を招いて特番を流した。  出演者の一人、軍事問題専門家のイゴール・コロチェンコ氏はこうトランプ氏を擁護した。同氏はプーチン氏の代弁者として知れ渡っている。  「これは完全な魔女狩りだ。ある勢力が寄ってたかってトランプ氏の首を絞め、窒息させようとしている」  「かつてのマッカーシズムより質(たち)が悪い。これは法外な専制政治のシンボル以外の何物でもない」  「われわれはトランプ氏を支持し、2024年の大統領選で勝利するよう応援しよう」  (トランプ氏をこの期に及んでも必死で守ろうとする米共和党支持者の言い分と全く同じだ。皮肉にも「プーチンの独裁国家」から米国は専制国家だと非難されてしまっている! )  (https://www.yahoo.com/news/russia-trump-raid-tantrum-spectacle-200143962.html) 

 

■ 本来なら最高で禁固刑20年

 

  FBIは押収品をこれから精査し、訴追するか否かを決めることになる。FBIの捜索令状には、以下の3つの法律に違反する容疑が記載されている。

 

  (1)国防情報を無許可で保持することなどを禁じる諜報活動取締法(Espionage Act)

 

  (2)公文書の隠匿や破棄などを禁じる法律(18 US Code -793)

 

  (3)捜査妨害のための文書隠匿などを禁じる法律(18 US Code -2071, 1591C) 

 

 トランプ氏の場合、(1)(2)(3)すべてが適用される可能性大だ。  だが前大統領が刑事罰で裁かれた前例はない。「大統領特権」とやらはどうなるのか。バイデン氏はトランプ氏に「恩赦」を与えるのか。  ただ一般の米国民が上記の法律を犯した場合、最高20年の禁固刑が科せられる。国家機密を敵国に漏らして死刑になったケースもある。  (https://www.mtsu.edu/first-amendment/article/1045/espionage-act-of-1917)

 

 

 

 

 

 共和党のトランプ・シンパの中にはFBI による家宅捜索は「魔女狩りだ」「ナチスのゲシュタポだ」との批判が渦巻いている。  「FBI予算の凍結」「FBI解体」を唱えるトランプ派議員もいる。  しかし、党執行部はじめ「良識ある」(常識ある? )議員たちは口を閉ざして成り行きを見守っている。  オハイオ州のシンシナティでは8月12日、トランプ支持者の元海軍勤務の男(42)がFBI事務所に乱入しようとして逃走、FBI捜査官に撃ち殺される事件が起こっている。  (https://www.npr.org/2022/08/12/1117275044/an-attempted-attack-on-an-fbi-office-raises-concerns-about-violent-far-right-rhe)

 

  8月14日にはアリゾナ州フェニックスのFBI事務所に武装したトランプ支持者数十人が押し掛け、周辺でデモ行進した。  FBI当局は「トランプ私邸への家宅捜索以降、全米各地のFBI事務所には脅迫電話が頻繁にかかってきている」と述べている。  (https://www.msn.com/en-us/news/politics/armed-trump-supporters-protest-outside-fbi-office-in-phoenix-following-mar-a-lago-raid-reports/ar-AA10DOP8)  最新の世論調査では米国民の62%が家宅捜査を「非常に重大な問題」(A very big problem)ととらえている。  (民主党支持者では76%、無党派では44%、共和党支持者では12%)  トランプ氏が「罪を犯した」と考えている人は、全体で49%、民主党支持者では81%、無党派では48%、共和党では16%となっている。  (https://morningconsult.com/2022/08/11/fbi-raid-increases-trumps-2024-primary-support/)  司法関係者たちはトランプ氏の訴追はまず間違いないとする声が圧倒的だ。  ニューヨーク南部地区連邦地検の元検事補、アンドリュー・マッカーシー氏はこう見る。  「10のうち7の確率でトランプ氏は訴追されるだろう」

 

  「FBIは機密文書隠匿に関する容疑だけでなく、2021年1月6日の米議会乱入事件に関連する容疑も固めるだろうし、罪状は増えることはあっても減ることはあり得ない」  (https://gazette.com/news/us-world/trump-fbi-raid-seven-chances-in-10-donald-gets-indicted-former-prosecutor-says/article_2b2de4b3-2f44-5926-81a4-adcb9ea366cc.html)  これから何が起ころうとしているのか。米全土を黒い雲が包み込んでいる。

高濱 賛

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