【コラム】熱烈支持者に捕獲された文大統領
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韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が今日(18日)、新年記者会見を開く。
来年は大統領選挙(3月9日)を控えているため、今回が事実上、最後の新年会見となる。
コロナ感染再拡大および景気浮揚策、ワクチン、不動産、北朝鮮の戦術核などいくつか争点があるが、これまでの文大統領の発言を振り返ると大きな期待は抱けない。
気になる点は
一つ、
李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の赦免に対する最初の肉声の立場だ。
予想される答弁はある。
最初は「大法院(最高裁)の判決が出た直後に赦免の議論は時期尚早」だ。
今まで与党は「最終宣告も出ていないのに何の赦免か。それこそ特恵だ」という論理を出してきた。
ところが刑が確定してまだ間もないからと先延ばしするのだろうか。
このようにずるずると長引く間、
朴前大統領は4年近く獄中生活(元大統領のうち最長収監)をし、
元大統領2人が一度に監獄に入るという、
近代国家では前例を探せないような状況が続いた。
いくら政治報復でないとしても、これを放置するのは国家的な不幸だ。
2つ目は
「国民的な共感と当事者の反省・謝罪があるべき」だ。
国民的な共感は明白なレトリックであるため論外としても、当事者の反省・謝罪という
「条件付き赦免」は「条件付き出馬」ほど困り苦しむものだ。
実際、大統領の赦免権は君主の恩徳を連想させ、行政・立法・司法の独立性を強調する民主主義3権分立には逆行する。それでも韓国だけでなく世界的に最高権力者の赦免権を容認する理由は国家の統合のためだ。冷たい法の隙間を抱き込もうという趣旨だ。
ところが、ひざまずいてこそ赦免するということなのか。
これは統合ではなく屈服だ。
実際、静かだった赦免論に火をつけたのは李洛淵(イ・ナギョン)共に民主党代表だった。
与党代表が大統領の固有の権限を青瓦台(チョンワデ、
韓国大統領府)との共感なく一方的に突然投げかけるはずはない。
振り返ると、昨年末「秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官-尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長の葛藤」が一段落する頃から与党の気流は変わった。秋美愛法務部長官が交代され、新しく指名された朴範界(パク・ボムゲ)議員は「法務部と検察の安定的な協力関係が文大統領の注文」と伝えた。意思疎通に優れているという兪英民(ユ・ヨンミン)元科学技術情報通信部長官が大統領秘書室長に起用され、与野党トップ会談の話が流れ、文大統領は「新年の辞」で不動産問題について「申し訳ない気持ち」と述べた。強硬から穏健への路線の変化が明確だった。
その頂点にあったのは「李明博・朴槿恵赦免」だった。短くは4月の再補欠選挙、長くは文大統領の任期以降を念頭に置いた布石だった。
しかし野心に満ちた赦免カードを放りだしたのは元大統領でも野党でもなくムンパ(文大統領の熱烈支持者)だった。
ムンパの過激さは、すでに野党だけでなく与党までも操っている。
朴用鎮(パク・ヨンジン)議員は昨年11月、李承晩(イ・スンマン)・朴正熙(パク・ジョンヒ)元大統領について「未来を眺める目があった」と述べたところ、「正義党から来たゴミ」という声を聞いた。秋前長官に「いい加減にすべきだ」と述べた鄭成湖(チョン・ソンホ)予算決算委員長は「やはり李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事の手先」という烙印を押された。与野党合意処理を話した国会議長は「サクラ(御用)」と言われ、補正予算に反対した女性議員は暴言を浴びた。 最近はムンパが「検察捜査権廃止」連判状を回し、民主党の黄雲夏(ファン・ウンハ)議員、金容民(キム・ヨンミン)議員、金南局(キム・ナムグク)議員、張耿態(チャン・ギョンテ)議員、李寿珍(イ・スジン)議員らが実際に誓約書を出す事態までが生じた。単純な暴言や攻撃を越えて国家政策基調にも関与する態勢だ。ついには大統領の代わりに赦免論を持ち出した李洛淵代表に向けて「弾劾すべき」と攻撃した。「民主党がムンパにのみ込まれた」「与党権力序列1位はムンパ」などの声はもう虚言には聞こえない。 このような風景に文大統領は当惑しているかもしれない。
ムンパとは誰か。この政権を創出した功労者であり、過去4年間、文大統領に向かう攻勢があるたびに悪役を自任した人たちではないのか。
そのムンパが徐々に反旗を翻すとは。
しかし作家も「文を書くのは私でなく文自体」(ロラン・バルト『作者の死』)と吐露する。
「組織は作られる瞬間、その組織内部の論理で進む」というのが官僚主義だ。
ムンパも当初は文大統領に従属的な関係だったのかもしれないが、
時間が経過するにつれてメカニズムを構築したということだ。
もう任期1年となった文大統領とさらに強い権力を望むムンパの利害関係は一致するとは限らない。
イラク派兵と韓米自由貿易協定(FTA)で支持層が離脱した盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領を見ながら、文大統領は反面教師としたはずだ。しかし望むかどうかに関係なく、いま文大統領は支持層との新しい関係の確立という現実にぶつかっている。今日の記者会見の本質は2人の大統領を赦免するかどうかではない。
ムンパに振り回されるか、ムンパを引っ張っていくのかに答える時だ。
チェ・ミンウ/政治エディター
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「慰安婦損害賠償判決」で加速するのは「反日」ではなく「反文在寅」である理由
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文大統領も会見で「正直困惑」と
元慰安婦が日本政府を相手に起こした損害賠償訴訟で、ソウル中央裁判所が日本政府に支払いを命じる判決を下したのは既報の通り。韓国政府はこの判決を受け、「韓国外交部が予想外の判決に困惑している」「2015年の慰安婦合意が両国政府の公式見解」とする一方で、「政府は裁判所の判断を尊重する」とも発表した。「裁判所の判断を尊重すること」と「2015年の慰安婦合意が公式なものと言及すること」は相反するもので、そこに文在寅大統領の深い悩みが見て取れる。実際、18日の新年の会見で文大統領は、「外交的な努力をしている間に慰安婦判決問題が加わって正直困惑している」という言葉を使ったのだった。
今回の韓国政府の発表は、韓国外交部が日本の外務省ととりまとめ、両国首脳が握手して進めてきた話を裁判所が逆回転させることに、韓国政府が「遺憾の意」を表明したと言えなくもない。
早速これについて慰安婦支援団体の正義連は、
「歴史的な判決に対する韓国政府の反応は
失望を超え、憤りを感じる」とかみついた
。 いつもなら世論も正義連に引きずられるところだが、今回は風向きが異なるようだ。 韓国では「カフェ」と呼ばれる掲示板が活用され、情報交換が活発に行われている。 このカフェで今回の判決に対する反対意見が随分と巻き起こった。
「韓国はいったいいつまでこんなことを続けるんだ」
「(1965年に)国が合意してハンコまで押してお金を受け取ったのに数十年後に覆す。これが国だといえるのか?」
「中国には(賠償)してくれて韓国にはしてくれないとゴネまくる。果たして国際社会に通用するのか?」
「李容洙(イ・ヨンス)さんによる告発での正義連問題はいったい何だったのか?」
などといったコメントが並んだ
現政権のジレンマ、反日と日本融和
昨年、元慰安婦・李容洙さんによる告発に始まった
「正義連の寄付金不正流用問題」を受け、国民が慰安婦問題にシラけつつあったのは事実だ。
1月8日の判決後に文在寅大統領は、「日韓の未来志向的な発展のために引き続き努力していく」と述べているが、判決には一切言及しなかった。
日本への刺激を極力抑えたように映るが、実際、政府関係者はこう明かす。
「東京オリパラの機を捉え、日米南北の首脳会議を開催したい意向や、
2020年10月8日から始まったビジネストラックという渡航特別措置(1月14日より、
緊急事態宣言解除まで一時停止中)の維持・拡大という文大統領の狙いがあったからでしょう」
最新の政府系シンクタンク産業研究院の調査結果によると、
2019年に173社の外国企業が韓国から撤退したという。
この数は前年比の約3倍にあたる。
韓国経済が極度に疲弊している証左だが、その原因は、反日不買にコロナ禍が加わったことに尽きる。
それを大きな声で言う者はいないが、心の中では皆が意識しているのだ。
反日不買を“支持”するはずの掲示板カフェにも、
「反日を進めようとしている人が、子供を日本に留学させ、東京に家を持っている!」
「なんでそんなに特定のメーカーの不買を勧めるのかわからない。そんなこと言ったら携帯も使えないし、車にも乗れない。何もできなくなる」 という反日不買“批判”のコメントがつくようになったのだ。
1月13日の慰安婦裁判は延期
ムリして反日不買を続けても自分たちの首を絞めるだけではないのか。
反日不買を先導すべき人たちが逆に積極的に日本にすり寄っているのなら、反日不買など捨て去るべきではないのか。
そんな悲痛な訴えに聞こえる。
先の政府関係者はこんな風に評価する。 「これまでは反日を煽れば割と簡単に支持率は上がってきた。大統領は支持率はもちろん下げたくないけれど、一方で日本との融和を訴えて経済活動の改善も成し遂げたい。
今回の判決後の韓国政府のコメントが支離滅裂というか矛盾しているのは、文大統領の心の中がそうなっていて、それが反映されたからだと見ています」
18日の会見で大統領は「困惑」という言葉を使って、より踏み込んだ意思表示を行っている。
韓国では1月13日にも、李容洙さんら20名の元慰安婦とその遺族が日本政府を相手に損害賠償を求めた裁判の判決が下される予定だった。 ところが2日前になって急遽、裁判所は追加審理が必要として弁論再開を決定した。
裁判所が国民情緒を忖度した結果ではないかという憶測が飛び交っている。
慰安婦問題で反日に拍車がかかることはもうないのかもしれない。
加速するのはむしろ反文在寅の方だろう。
週刊新潮WEB取材班 2021年1月18日 掲載
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