『象は鼻が長い―日本文法入門』

 (三上章著作集) 1960/10/30

三上 章  (著)

 

二重主語問題の代表的例文「象は鼻がない」を書名に、「ハ」は「ガノニヲ」を代行(兼務)するという鮮やかな変形操作と、1,000以上の生き
た例文を駆使し、「ハ」の本質を明らかにしたベストセラー。序 佐久間鼎。

(はしがきより)

日本語の文法手段のうち、もっとも重要なのはテニヲハです。

中でもハです。

本書は、問題をそのハ一つに絞って、日本語文法の土台を明らかにしようとしたものです。

代行(=兼務)というのが中心概念の一つになっています。

ハはガノニヲを代行(=兼務)する、というのです。

 

三上章・大野晋の両先生は間違っている!

「は」には「格の指示情報」は全くない!

 

日本語は膠着語である。「一語」には「一意」だけである。

助詞も同じであり、格の指示は「格助詞」にしかできない。

「は」は「格の指示でない、別の意味・働き」がある。

「は」は、「格を指示していない」からこそ、多くの「用言・述部」に係っていくことができる。

「は」は、句読点を越えて、多くの文の「用言」に係っていく。

だから、係助詞である。

 

現在、母語が「中国語」の外人に、日本語を教えている。

格助詞「が」「を」と、副助詞「は」「も」は、文法規則は単純である。

明確に区別して使用できる。

現に「普通の10歳ぐらいの」子供でも、正確に区別して使用している!

 

日本語の最大の特色は「相手・聞き手・読み手」の「知っている・理解している部分」は非表示にする。

「好きだよ。」・・・「主格」も「目的格・対象格」も、相手には「自明」だから、非表示である。

「助詞」でも、自明の場合は、非表示にする。できる。

「今日、誰が行く?」「私、行く。」…格助詞「が」は非表示。しかしそこには「が」の機能がある。

「お昼に、何を食べる?」「カレーライス、食べる。」…目的格「を」は非表示。

 

助詞とは、「名詞・概念」の後ろに付加し、「後続の動詞・用言」との関係を示す。

その関係の「内容・意味」は、「助詞」と「動詞」の関係で生まれてくる。

 

・水、飲みたい。・・・助詞が非表示でも、水が「目的格」の関係であることが自明である。

・水が、飲みたい。・・・主格が「一人称」なので、目的格に「が」が使用できる。自然態である。

          格助詞「が」は「飲む」という動作を起こさせる「原因・動機・指向」を示す。

・水を、飲みたい。・・・目的格「を」がやや不自然堅いので、目的格「水」が強調されている。

・妹が、水を、飲みたがっている。…主格の「が」が既に使用されているので、避けて「を」に。

 

膠着語では、一つの「語」には、一つの「意味」しか持たせない。

「複雑な意味」は、「助詞」でも複数個を膠着させて表現する。

すると、ここで指定する順序規則が、発生する。「は」は最後。

父「に」「だけ」「は」、知らせるな。

父「だけ」「に」「は」、知らせるな。

 

結論!

副助詞「は」「も」等と、格助詞「が」「を」等との単純な規則。

 

(1)副助詞「は」「も」等と格助詞「が」「を」等には、意味上で重なりなし。

つまり「は」「も」等には「格」を示す働きは、一切ない。

「格」は、格助詞「が」「を」等だけが示すことができる。

だから、副助詞「は」「も」は、「格以外の意味」を付与する。

つまり「は」「も」等と「が」「を」等は、一切、関係性はない。

だから、「は」と「が」とを比較すること自体が間違っている。

 

(2)「xx は yy」文には、格助詞が非表示なので、受け手側が補う。

なお、格助詞「が」「を」の場合は、必ず非表示とする。以下、記号<と>で囲む。

「どの格助詞か」は、「xx」と「yy」との関係で推測される。決まる。

例:(主格)桜 <格助詞「が」> は 美しい。

例:(目的格)今回のテストの成績 <格助詞「を」> は 父が褒めた。

 

「が」「を」以外は、普通は、格助詞をそのまま明示する。

例:公園 に は 行かない。…これが、普通。自然態。

例:公園 は 行かない。…これも可。個人の語感覚による。

 

(3)格助詞は、直後の「一つの用言」だけに係る。

例「父が買って」くれた本を、「姉が持って」行った。

 

(4)副助詞は「格の意味はない」ので、複数の用言に係る。

つまり、句読点を越えて、複数の文にまで、係る。

各々の「用言」に応じて、受け手側が適切な格助詞を補う。

 

この場合、「トピックス」「題名」「テーマ」の働きをすることになる。

これが「三上章の文法」となる。

例:この本「は」、

<この本の>題名が良かったので、さっそく、

<この本を>図書館に借りにいった。しかし、既に、

<この本が>貸し出し中だったので、

<この本を>予約した。

 

(5)副助詞「は」は、或るカテゴリーの中の「一つ」を限定する。「取り出す」。

これが「大野晋の文法」となる。

「は」は「既知の情報」、「が」は「未知の情報」で、区別して使用する。

 

例:月曜日「は」、3時間、勉強した。…「一週間」のカテゴリーから既知の一つを。格助詞なし。

例:人間「は」、一番、賢い。…「動物」というカテゴリーから既知…を。非表示「が」

例:廊下で「は」、走らない!…「広い空間」から、既知の一つを限定。

例:田中さん「は」、学生だ。…「知っている人々」から、既知一人を限定。非表示「が」

例:京都大学「は」、卒業した。…経歴のグループから、既知一校を限定。非表示「を」

 

(6)副助詞「も」は、或るカテゴリーに、更に「一つ」を追加する。

例:リンゴ 「も」好きです。…好きな果物に、追加する。非表示「が」

例:京都大学 「も」 卒業した。…卒業大学に、追加。非表示「を」

例:京都大学 「を」 「も」 卒業した。…これも可。少し不自然。だから強調になる。

 

(7)否定の場合は、否定の「対象を限定する」ので、「は」を使用する。

例:月曜日に「は」、父「は」、犬と「は」、公園で「は」、散歩「は」、

<述部・用言>していない。

 

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日本語は、膠着語だから、助詞にも様々な「順列組み合わせ」がある。

その中には、「禁止のケース」が存在する。

ただし、個人の語の感覚には差異が大きいだろう。

係助詞:は、も、こそ、さえ、でも、ほか、しか、

副助詞:ばかり、まで、やら、か、だけ、ぐらい、

 

副助詞が前、係助詞が後。

正:この本…「だけ」「は」…残したい。

誤:この本…「は」「だけ」…残したい。

 

正:あの本…「まで」「も」…持っていかれた。

?:あの本…「も」「まで」…持っていかれた。…少し不自然。

 

正:この本…「こそ」「は」…是非とも手に入れたい。

誤:この本…「は」「こそ」…是非とも手に入れたい。

 

格助詞と副助詞とは、順序の交換が可能。

正:東京…「に」「だけ」…「は」、寄りたい。

?:東京…「だけ」「に」…「は」、寄りたい。…少し不自然。