かなり前に、新国立劇場で上演された多部未華子主演の「サロメ」を観たことがあるが、これは色々な意味で衝撃的で、このチラシをもらった時にはその舞台を思い出した。

 

脚本がブス会を主宰するペヤンヌマキで、「現代に置き換えて描いた作品」と書かれていたので、「どうなのかな?」と躊躇していたのだが期待半分で観に行くことにした。

 

 

 

劇場は東京芸術劇場シアターイースト。

やはり、ここでの観劇率は高い。

 

ヘロデ(ベンガル)は「風俗王」と呼ばれる会社の社長に置き換えられていて、優秀な兄と比較され、嫉妬し、「全てを奪い取りたい」と考えてしまう卑屈感が漂う男。

兄の妻・ヘロディア(松永玲子)と関係を持ち、彼女にそそのかされて兄を殺害、社長の座も奪い取ったという設定になっている。

ヘロデは娘のサロメ(朝海ひかる)に色目を使い、それを目の当たりにしたヘロディアは娘に対して嫉妬を感じているが、ヘロデへの依存度が高く、夫への不満は抑え込んでいる。

しかし、サロメに対しては「自分の言うことを聞いていれば間違いない」と繰り返し、とても支配的な態度を取る。

そのような家庭環境の中でサロメは閉塞感を抱えているように感じられる。

 

ヘロデの還暦祝いパーティーの日に、その予言がよく当たると噂されているヨカナーン(牧島輝)が現れる。

サロメはその姿に魅了され、自分を救ってくれる人だと思い焦がれるが、ヨカナーンには邪険にあしらわれ、その思いは届かない。

 

彼の不吉な予言は兄を殺害した事の報いだと怯えるヘロデは、それを払拭するために「欲しいものは何でもあげる」と約束してサロメにダンスを踊らせ、サロメは自分の思いのままにならないヨカナーンの首を銀の盆に乗せて持ってくるようにと求める。

 

・・・という話。

 

基本的には原作から大きく逸脱することはなかったと思うのだが、設定を現代に置き換えたことによって、預言者という神秘性を纏ったままのヨカナーンが異質な存在として浮き立っているように感じた。

 

朝海さんは初めて観たが、とても舞台映えする方だと思った(元宝塚の女優さんとは知らず・・・)。

今回観て、サロメ役には少女性と、それがゆえの残酷なまでの冷徹さが求められるような気がしたが、その冷徹ささえも美しいと感じさせられる。

ラストのダンスシーンは美しさはもちろん、繊細さと力強さも持ち合わせており見応えがある。

 

観劇後に「設定は現代なんだよね」と思い返してみると、ヘロデは兄を殺したのに捕まらないし、ヨカナーンの幽閉という行動をとる裏組織的な人としては小物だし・・・とか、設定を置き換えた意図はよくわからなかったけれど、期待以上の舞台ではあった(観る前の自分の期待度も影響しているのかもしれないけれど・・・)。