KAAT神奈川芸術劇場<大スタジオ>で上演されていた「ラビット・ホール」を観てきました。

神奈川芸術劇場は自宅から行こうと思うと少し遠いので、最近は足が遠のいていたのですが、この作品は絶対に観たかった。

実は2月公演のチケットを取っていたのですが、コロナ影響で中止になってしまったので、チケットを取り直した結果、東京公演終了間際の観劇になりました。

 

 

 

原作はデヴィッド・リンゼン=アベアーという方で、ピューリッツァー賞戯曲部門受賞作ということです。

個人的には小島聖さん目当てでしたが、新原泰佑さん以外は観たことがあるので、ちょっとした安心感があります。

 

幼い息子ダニーを不慮の交通事故で亡くしてしまったベッカ(小島聖)、ハウイー(田代万里生)夫妻を中心とした家族の物語。

ベッカはダニーを思い出すようなものを片づけ、服を処分しようとしたり、愛犬を母親に預けるなど、子供の面影を遠ざけることによって気持ちを安定させようとしますが、ハウイーは想い出を大切にし、それを乗り越えていきたいと考えています。

ダニーに対する二人の思いは同じですが、そこに気持ちのすれ違いが発生してしまい、お互いを傷つけあうような口論になってしまう。

どちらが正しいということはなく、どちらにも共感出来るし、物語を通してもその答えが提示されるわけではありません。

 

そんなある日、ダニーの事故の当事者であるジェイソン(新原泰佑)から、会いたいという手紙が届きます。

家の売却を考え始めた夫妻が開いている内覧会に直接訪ねてきたり、少し常識外れとも思われる行動にハウイーは動揺しますが、ベッカはあらためて会うことを決意します。

そして、そのことがきっかけでベッカの気持ちも軟化していくことに・・・。

 

ジェイソンに会うことを拒否するハウイーも彼を責めているわけではなく、彼に責任がないことをきちんと伝えてほしいと言う。

彼らは犬を追って道路に飛び出してしまったのは自分の責任だと考えているし、ジェイソンは少しスピードを出し過ぎていたのではないかと自分を責めている。

ベッカの妹のイジー(占部房子)は、自分が電話をしなければ事故は起こらなかったのではないかと思っていて、ダニーの事故をきっかけに誰もが後悔の気持ちを抱えているのが観ていてつらいです。

 

それでも、笑いが起きる場面もあり、登場人物の気持ちに寄り添いながら、重くなり過ぎずに観ることが出来ました。

ダニーの想い出の品を片づけながら、母ナット(木野花)と会話を交わすシーンが印象的。

思いは変わっていくけれど、失われること(忘れること)はない・・・その通りだなと思いました。

 

そして、暖かい色合いの照明に照らされて二人が手を重ねあうラストは、ぐっと込み上げてくるものがありました。

照明で(もちろんそれだけではないのですが)泣いたのは初めてです。

 

小島聖さんの悲しみを抱えつつも、優しさを湛えた演技がとても素敵でした。

歌わない田代万里生さんを観たのは初めてのような気がしますが、やはり表現力は素晴らしい。

チケットを取り直してでも、観に行って本当に良かったと思いました。