現在、地方公演中の「キネマと恋人」。

僕が観に行ったのは東京公演なので随分経ってしまったけれど、とても面白かったので感想を書いておこうと思う。

 

劇場は世田谷パブリックシアター・・・なんと、今年初めて!

行ったことがない劇場に足を運ぶことが増えた分、馴染みの劇場に行く機会が少なくなっているのかもしれない!?

この作品は、「ケラリーノ・サンドロヴィッチが、お気に入りのウディ・アレン監督の映画『カイロの紫のバラ』の設定を、1930年代半ばの日本の小さな島に置き換えて台本を書いた」舞台とのこと。

2016年に初演で、今回は再演となる。

ケラ作品は欠かさず観るようにしているのに、何故か初演は見逃していたので、とても楽しみにしていた舞台♪

 

 

前述のとおり、1930年代半ばの小さな島が舞台。

働かずに遊び歩き、気に入らないことがあると暴力を振るう夫(三上市朗)の代わりに家計を支えるために働くハルコ(緒川たまき)の唯一の楽しみは映画。

毎日のように映画館に通い、同じ映画を繰り返し観る。

 

そんなある日、ハルコがいつものように映画を観ていると、スクリーンの中の寅蔵(妻夫木聡)が話しかけてくる。

映画の中で寅蔵は脇役だが、ハルコは寅蔵を演じる高木(妻夫木聡・二役)のファン。

スクリーンから現実世界に飛び出してきた寅蔵は、ハルコを映画館から連れ出し、ハルコは彼を匿うことになる。

 

ひとりの出演者を失ったスクリーンの向こう側では物語が停滞し、登場人物が花札を始めたりする。

映画の主人公を演じる役者・嵐山(橋本淳)が、実際は他の役者を見下すような嫌な奴なのに、映画の中の月之輪半次郎は寅蔵を頼りにしていて、寅蔵がいないと話が進められないと言う。

観客として俯瞰してみていると「こういう事ってあるなぁ」と思う。

それって結構リアルだし、それもまた面白い。

 

そして、自身が演じる寅蔵を探すように言われた高木と、彼のファンであるハルコが出会う。

高木のファンであるハルコは、高木が過去に演じた役の素晴らしさを力説し、それが高木の思いと一致していたことから、高木もまたハルコに恋をし、奇妙な三角関係に・・・。

 

ハルコは寅蔵と共に映画の世界に入り込んで行ったりもするが、最終的には現実世界の高木を選び、亭主をきっぱりと見限り彼と共に東京に行くことを決意するが、待ち合わせの場所に高木は来ない。

映画の中で暴走する寅蔵が観客にウケて、仕事の関係で急遽、東京に帰ってしまった高木。

一途で可愛らしいハルコが可哀想・・・ケラ作品のブラックな部分は薄いけれど、やっぱりハッピーエンドじゃないのかと思った。

でも、ハルコと妹(ともさかりえ)が映画館で笑顔を見せるラストシーンの後味は悪くない!

 

ハルコの語る方言が可愛らしいし、二役を演じる妻夫木聡の切り替えも見事!

時代劇と現代を行き来する役柄上、衣装替えが頻繁にあって大変だなぁと思うけれど、そこも見所のひとつ。

高木と寅蔵が相対する場面は、映画やドラマでは映像処理で何とでも出来るけれど、生ものの舞台ではそうはいかない・・・が、ここはコメディならではの見せ方になっていて、ここにも笑いが詰め込まれている。

 

場面転換の演出を観て、かなり前に青山円形劇場で上演された「パン屋文六の思案」を思い出した。

後からパンフレットを見て、振付が小野寺修二だと知って納得!

恋に一途な妹役のともさかりえ、高木のマネージャー役の佐藤誓、ケラ作品を知り尽くした村岡希美など、脇を固める役者もとても良かった。