現代欧米戯曲を日本で初演するという企画の第5弾として、新国立劇場小劇場で上演中の「プライムたちの夜」。

第5弾ということなので過去の上演作品を調べてみたところ、2014年上演の「永遠の一瞬」、2015年上演の「バグダット動物園のベンガルタイガー」、そして昨年上演された「フリック」を観に行っていた!!

 

相変わらず、新国立劇場のチラシは地味。。。

意外と劇場でもらうチラシが有力な情報源だったりするので、もう少しインパクトがあるデザインにした方がいいのではないかと思っているのだが・・・。

そんなわけで、最初はスルーしていたが、人工知能の話で「面白そう!」と思ってしまった。

出演者は4人で、相島一之以外は観たことがなかったけれど、テーマへの興味だけで観に行くことにした。


 

とある家の居間で、マージョリー(浅丘ルリ子)とウォルター(佐川和正)が話をしている。

ウォルターは、マージョリーの夫の若い頃の姿を移したプライムで、会話を通じて学習していくが、ふたりの会話には少しずつ食い違いが生じる。

彼女は85歳で記憶が曖昧になってきていることに不安を感じつつ、会話の食い違いに苛立ちをみせるが、ウォルターに感情の変化はみられない。

 

次のシーンでは、娘のテス(香寿たつき)とマージョリーが話をしている。

彼女は精神的に不安定な状態にあり、夫のジョン(相島一之)が勧めるカウンセリングを受けようともしない。

マージョリーは亡くなっており、彼女の姿をしたプライムがテスと会話しているが、ジョンに対して「これは、自分とキャッチボールをしているようなものだ」と告げる。

 

そして、最後のシーンではジョンがテスと話をしている。

ふたりで出かけた旅行先でテスは自殺し、そこにいるのは彼女の姿をしたプライム。

まだ、それ程時間が経っていないようで、プライムにテスの情報があまりインプットされていない。

ジョンはテスとの思い出を語って聞かせるが、彼女が生前に言っていた「これは、自分とキャッチボールをしているようなものだ」という意味を理解する。

 

その後のジョンの事は語られず、残された3人のプライムが会話し、そしてお互いの記憶(=情報)を共有し、補填し合う。

プライムは与えられた情報で形成されているが、それは生きている人間のフィルターを通して与えられた情報。

その人が忘れたい思い出は語られず、美しい想い出だけがインプットされる。

実は語られない思い出の中にこそ、相手に対する本当の気持ちが隠されている。

 

最初からプライムとして登場する佐川和正と、不安定な精神状態にあり感情的なテスが一瞬にしてプライムに変わる際の香寿たつきの表現力が素晴らしい。

笑みを浮かべながら無表情、動きも若干ぎこちない。

 

物語は近未来のSFっぽい設定だが、そこから見えてくるものは生々しい感情や、家族への思いだ。

高齢化社会や老後のあり方をテーマにした作品と捉えることも出来るかもしれない。

重くはないが、色々と考えさせられる作品だった。