通勤途中、
山の中に、動くものが見えた。
車を停めて、目を凝らして見る。
犬だった。
車から降りて、山を登る。
犬は、さらに上へ。
小枝が、顔に突き刺さる。
急斜面、もうこれ以上登れない。
犬は、私を見下ろしている。
(どうか、お願いします)
(どうか、神様、お願いします)
私は、少し足場のある所まで下りて、
「おいで」
と、手を広げた。
犬は、ゆっくり、下りてきた。
私は、犬のお腹に手を回し、
ゆっくりと、
一緒に、山を下りた。
車に乗せ、ホームセンターで、ドッグフードと首輪とリードを買う。
愛護センターへ、探している人がいないか、確認の電話をする。
そして、近くの警察へ行き、探している人がいないか、確認する。
いなかった。
警察で、用紙を二枚書くよう言われる。
一枚は、書いた。
もう一枚は、
警察で、数日保護した後、元の飼い主が現れなければ、
愛護センターへ収監するという内容だった。
私は、サインしなかった。
犬を、そのまま、連れて帰った。
まだ、若くて、健康だった。
ブリーダーが、
成長して、売れ残った子犬を、山へ遺棄したのではないかと考える。
ここまで。
これは、5年前の話になる。
現在。