『ポツネン氏の奇妙で平凡な日々』 | Wipe your tears with this!

Wipe your tears with this!

仮面ライダーをはじめとする特撮や民間伝承・妖怪・怪談が大好きな人間が、感じたことを徒然なるままに綴る。

気まぐれ更新。

あらゆる特撮作品に関わられた全てのキャストさん、スタッフさんに、敬意と感謝を込めて。

舞台『ポツネン氏の奇妙で平凡な日々』観劇。


はじめに申し上げておくが、当然ネタバレ注意としておく。

それから、あえて敬称を省略している部分が多々あるが、あらかじめ断っておく。






ラーメンズの小林賢太郎・作、演出、出演の舞台。




小林扮するポツネンは、奇妙な蝶と出会う。


その未知なる蝶に心惹かれたポツネンは、やっとの思いで捕まえ、持ち帰る。



やがて、彼と蝶との「共同生活」が始まり、さまざまな体験をすることになる。



ポツネンの、蝶への「しつけ」や「散歩」シーンなどはシュールである。


そんな奇妙ながらも平凡な生活の中において、天空の果てから地の底、海の底までを文字通り走り抜ける。




小林の作り出すポツネンの世界観をご存知の方はご存知の通り。


分からない方にざっくり説明すると、


セリフはほとんどなく、身ぶりや手ぶり、映像(絵・画)で楽しませてくれる。

多摩美術大出身という経歴を生かし、舞台セットや小道具、背景も多くを自作またはデザインしている。

照明や音響などの効果を巧みに活用しながら演ずる。

高い所を登ったり降りたりする。

大抵グレーの衣裳。


といった感じなんだけど、


お馴染みの「ハンドマイム」(手のみを使ったパントマイム。人差し指および中指を足に見立て、さまざまな場所を移動する)も登場し、盛り上がる。





一般的なコント、お笑いは、非日常に視点を置き、日常生活を逸脱し、通常ありえないことへの衝撃やギャップを表現するものが多いが、小林の作るお笑いは、あくまで日常の中に視点を置いている。


日常にありふれた、ちょっとしたズレを発掘し、それを独自の表現で視覚化する。




中でも、ポツネンの登場する(ポツネンを描いた)作品は、独特の抒情感を醸し出す。


笑いのほかに、不安や期待、哀切、混沌、、、それらが入り交じった、あまり類のみない感情を抱かせる。




小林曰く、セミを捕まえて、育てたところ、フクロウになったと。

そのフクロウが、なかなか感情を表に出さないというか、機嫌がよろしくない(しかめっ面な顔をする)。

そこで、なんとか機嫌をよくしてみせようと苦心したところ、ようやく笑ってくれた。

その笑顔がとても嬉しくて嬉しくて、自分も笑顔になったところで、泣きながら目を覚ましたと。


そんな折、出来上がったのが本作品だとか。




本公演作品は、過去作品同様、元となる東京公演の後、パリやロンドンでも上演され、再び日本で凱旋上演された。


ロンドンにおいて、日本文化を学ぶ現地の女学生たちと、公演後話す機会があったそうで、


「小林さんはどのように今回の作品を作られたのか」との質問を受け、「セミの夢の話」を語ったところ、


女学生たちはポカ~ンとし、「え?」という感じになったとか。


現地の人たちは「セミ」を知らないそうで、そもそもの段階で話が通じていなかったようなのだ。




「日本文化を勉強してるくせに」(小林・談)セミを知らなかったことが新鮮で、「こんな虫がいて」というところから説明する羽目になったのか。



ともかくも、「セミの夢の話」をしたら「オ~ゥ…」という、「外人かよ」と思わせる反応をされるが、その時の状況を切り取れば自分(小林)が「外人」だったのだが…というシュールな話を、カーテンコール時に披露してくれた。



彼の舞台には実際に何度か足を運んで観劇し、また「小林賢太郎テレビ(1~)」(NHK-BSプレミアム)なども欠かさず観ているが、


一度足を踏み入れれば、抜け出せなくなるクセがある(抜け出す人もいるが、それは体質が合わないだけだろう)。




アンコールというかカーテンコールもトリプルまであって、さすがに照れくさいのか、「なんだよぉ!スタンディングオベーションなんていらないんだからねぇ!」とあえて煽って、カーテンコールも終了。


あっという間の2時間であった。





誰かが言っていた。


一般的な芸人は、1分に1回笑いを取らなければ持たない、しかし、ラーメンズの場合、10分に1回の笑いでも間や画が持つ、と。



確かにうなずけるところがある。


小林(ラーメンズとしての台本も小林が一手に担っているのでこう表記する)の作るネタとは、

笑いのポイントへつなぐための単なる橋渡しではなく、その橋ひとつひとつさえも完成された見せ物であり、芸術であり、面白い。

また、一挙手一投足に意味があるように思えてくる。



こう記してくると、彼の生み出したものはお笑いのネタというより、ひとつの作品として磨かれており、芸術的要素が高い。


すなわち、芸人というのか、芸術家というのか、演劇家・劇作家というのか、分からなくなってくるのである。

(とはいえ、芸人という言葉を辿れば、類稀な、つまり秀でた芸をもつ人物、という意味であるわけで「芸術・才能」の持ち主に近い意味なのだが)


つまり、ポツネンの世界観も本当にざっくりとしか説明できないのも、こんなところに起因する。


高い所を登ったり降りたりするのも、サスケとは違うし、またシルクドゥソレイユとも違った演出なのである。



小林自身、自分の肩書きを、芸人ではなく、パフォーミングアーティスト(演技する芸術家)としている。






彼は並々ならぬ、陰の努力や絞りに絞った知恵、普段からの周囲へ払う注意から、それらをネタへとそそぎ込んでいる。


観ていて、それが伝わってくる部分も多く、だからこそ迫力や説得力も生まれてくるように思う。




もともとマジシャンでもあった小林賢太郎、手先が器用なので何でもこなせてしまうところがまたニクい。






そんな魅力的な小林賢太郎の世界、ポツネンの世界を、これからも「嗅ぎ分けて見つけ出」し、


一癖も二癖もあるお笑いに「周囲の人間と話の合わないお前らみたいな人たち」(小林・談)と共有し、語り合っていきたいと思う次第である。