損切りできない人 | 悠釣亭のつぶやき

損切りできない人

損切って、あれですわ。
株が下がってしもた時、先の見込みがないと判断したら、損を覚悟で
売却する事ですわ。
もちろん、それで得た金で、別の優良銘柄に乗り換えて取り返す
のが前提でしょうけど、場合によっては完損になる事もありますな。
それでも、少なくともその株とは後腐れが無くなる訳です。


ロシアの油・ガス田、サハリン2の権益が問題になってます。
この施設、何とも不可解な企業体で、不思議な経過を経ているが、
一体どうなってるんでしょうね。
分かる範囲で調べてみました。
間違いがあれば、是非ご指摘ください。

本稿は2稿に分けても良かったんかもしれんが、一気通貫で。
前半(〇印以降)は開発以来の経緯を、後半(□以降)は今後の
お話について書いたので、経緯はどうでも良いという方は□印から
お読みください。



〇〇〇
サハリン2とは2003年頃からロシアが国際共同開発している油田、
LNG施設です。
日本はそれまで石油やLNGを中東や東南アジアからのみ輸入して
ましたが、脱中東依存、調達先の多様化志向もあり、埋蔵量も多い
とされてたし、また、輸送距離が3分の1ほどになる事もあって、
積極的にこの国際共同開発に参加したわけですな。

当初、ロシア政府は国有企業のサハリンエナジー社を主体として、
ロシアは許認可のみ、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル55、三井物産25、

三菱商事20%の出資で開発をはじめた訳です。
要するに、ロシアは資源を提供する、各社はカネと技術は出せという
プロジェクトなわけです。
この3社で、約1兆3000億円の投資ですから、物産3,000億円、
商事2,500億円の投資となっています。

実際のLNG供給は当初2007年からの予定で、国内の需要会社、
東電や東京ガスなどが続々と購入の意思表示を行い、海外からも
韓国ガス公社が購入決定するなど、この開発プロジェクトは順調に
スタートしたように見えました。


その後、2004年にはロシアのエネルギー産業であるガスプロム社
が参入を働きかけ、3社も受け入れることになった。
ガスプロム社はシェル社からの投資枠を買う事で約1,000億円規模
の出資を行うことになった。
ガスプロム社の参入は安定的な輸入を保証するという意味もあった
ようだ。
その後も、ロシア側の権益拡大と称してガスプロム社の出資比率は
増大の方向で交渉を継続していた。

また、2004年には、この手の事業にありがちな、総事業費が倍近い
2兆2千億円に膨らむことが分かり、各社が増資に応じざるを得ない
状況になった。
負担額は三井物産が約5千億円、三菱商事が約4千億円に膨らんだ。

一方で、埋蔵量の下方修正もあり、また、パイプラインの敷設が
環境問題を起こすとかで、開発が繰り延べになり、プロジェクトの
採算性に疑問符も付いた。
要するに、ロシア政府が様々な圧力をかけ、権益拡大に注力し始めた
という事。


工事のほぼ8割が完成した2006年にはロシア天然資源省は
あろうことか、この工事の承認取り消しを行った。
名目は絶滅危惧生物の保護と環境保護だったが、関係者の間では
外資に対する圧力強化とガスプロムの強硬参入を目論んだものと
考えられている。

時のプーチン政権は外資の拡大を懸念しており、エネルギー開発
事業の国営化または事業主体になる事を目指した結果である。
ロシアとしては自国に権益主体がある事、開発技術などを取得
したいことが真の目的のようだ。


2007年、これらの圧力に負けたシェル、物産、商事はガスプロムに
権益の50%プラス1株を譲渡することで合意し、開発差し止めの指示も
解除された(基本的問題が解決したわけじゃないのに)。
何のことはない、負担金額は変わらないままに各国権益がそれぞれ
半分に減ったという、ロシアの丸儲けに終わったわけだ。


とはいえ、この施設は2008年に原油の通年生産・出荷を、2009年
にLNGの出荷を開始した。
産出した原油やLNGは各国に輸出されているが、LNGの6割は日本
向けである。

日本は原油の3.6%、天然ガス(LNG)の8.7%をロシアから輸入し
ている。
原油はサハリン1・2で約半々、LNGはサハリン2でほぼ全量を賄って
いるというわけです。
日本にとってロシア産と言えばはサハリン油田・ガス田からという事に
なる訳です。



□□□
さて、ロシアのウクライナ侵攻で各国が経済制裁をする中、日本も
それに加わりましたね。
その結果、ロシアは英蘭とともに日本を非友好国と位置づけました。
で、サハリン2の権益を白紙に戻し、新しく設立した会社がその権益を
引き継ぐ。
引き続きこのプロジェクトに参画したければ、新会社に申し出よと
いう訳です。

シェル社は即刻権益を放棄しましたが、物産と商事は引き続き参画
する事を表明しました。
もちろん政府の強い後押しがあったのは当然です。
権益の割合は12.5%と10%で変わりません。
シェル社の抜けた後の権益が問題になりますが、どうやら中国が
触手を伸ばしているようです。
ここまでが、現在までの経緯。


日本が権益を継続したい理由はいくつかあるんでしょう。
もちろん、当初の目的の仕入れ先の多様化や近さはあるでしょう。
そして、輸入LNG全体の8%強と言えども減る事の痛みはあるし、
代替LNGを求めるにも市況は逼迫しているし、俄かには困難。
日本が放棄すれば、そこに中国が入り込み、権益もガスも総取り
してしまう恐れが多分にある。
色々な思惑の積み重ねで、参加表明という事になったと思われます。

しかし、懸念も一杯ある訳ですな。
一応、ロシアはガス量と価格は今まで通りと言ってますが、ホント
なんかな?
プロジェクト自体のリスクが増大し、採算性が大きく損なわれたのは
事実で、2社ともに、資産価値を大幅に減額しているのがその証と
言えそうですな。
投資価値の減少額は三井物産が1366億円、三菱商事が811億円で
計2177億円。
大きなリスクありと認識しているという事は確かである。

ロシアから見れば、日本はどんな状況でもサハリン2が放せないと
見たのは確かだろうから、今後も足元を見て難題を持ち込む恐れも
無きにしも非ずですな。
中国が参入してきたとき、露中日共同プロジェクトで、対ロ制裁組合を
搔い潜れるのかしらね?


少なくとも日本は、ロシアに対する制裁は真っ先に行い輸入制限を
行っているのに、直近は毎年ほぼ3,000億円程度の少量とはいえ、
尻抜けとも言えそうな原油やLNGのロシアからの輸入を継続する事に
したわけだからねぇ。
ま、ドイツは量が多いから死活問題になるので、少量は止む無しって
所はあるのかも知れんが。

ノルドストリームを止めたり絞ったりしてドイツに圧力をかけている
ロシアが、同じく非友好国である日本にだけは引き続き暖かく、
LNGを供給し続けるのか?


これまでの経緯を見るにつけ、ロシア側の不誠実さは際立っている。
元々、このプロジェクトの始まりは資源はあるが技術が無いロシアが
技術のある国に働き掛けて、掘削の権益をすべてそれらの国に与え
てでも、商業化したいというものだったはず。

開発が完了したとたんに、権益が半分になり、資産価値も大きく減価
したうえ、参画しなけりゃ今までの投資は召し上げっちゃ無いでしょ。
まるで詐欺にかかったようなもんだから、信用できぬとしたシェル社は
撤退したわけだが、資源に目の眩んだ日本はそれでも参画したい?

ロシアとの非友好関係がどれほどの期間続くのかは分からない。
ロシアと中国の接近がどれほど早く強いのかも測りかねる。
辞めるのはいつでも出来るが代替資源確保は期間が掛かるし、
棘の道だ。
なら継続ってな所なんでしょうか?


ワシ的に見れば、ロシアという国は決して信用できる国じゃない。
歴史的に見ても、誠意の欠片も無かったじゃないか。
元々サハリン2になんか参画すべきじゃなかった。
北方領土が還るかもという幻想も有ったんかもしれないが。
今回の事はちょうどよい機会じゃなかったのか、後腐れなく損切り
するのに。

大本にはエネルギー安全保障がある。
無資源国日本というが、自足できるエネルギーが6~7%で、
どんな訳ありでもエネルギーなら喉から手が出るという所を、上手く
利用されただけに見える。

自前のエネルギーを開発するための資金は投じなくても、こんな所
には莫大な投資をして後顧の憂いを背負うなんて、何ともオカシイ
上に、一体誰が舵取りしてるのかを疑ってしまうな。
この問題、今後も事あるごとに燻ぶりそうに感じる。