悪いインフレ(2) | 悠釣亭のつぶやき

悪いインフレ(2)

さて、賃金は上がるのかという問題。
政府は給料の上昇を促す施策として、賃上げ税制を検討するという。
その内容は議論中とのことだが、大まかな骨子は下記の通り。


大企業・中堅企業においては、継続して働く従業員の給与やボーナス
などの総額が前年よりも3%以上増えた場合、従業員全体の給与の
増額分の15%を法人税から差し引く。
4%以上増額していれば控除率を25%まで拡大する。

中小企業では、総額が前年度よりも1.5%以上増額となった場合、
増額の15%を法人税から差し引く。
また2.5%以上増えていれば、30%まで控除率は拡大するというもの。


原価率60%で税引前利益5%の標準的な企業で試算してみる。


原価の半分が人件費とすれば、人件費を3%増額すれば、原価が
60×0.5×0.03=0.9%上がり、税引き前利益は4.1%となる。
税率が30%とすれば、当初5%×30%=1.5%が税だったが、
この税制を適用すれば税は4.1%×30%×(1-0.15)となって
1.05%に低減されることになる。
純利益の減少は少しで済む。

売上高100億円の企業だとすると、人件費は100×0.009=
0.9億円増えるが、税金が1.5億円から1.05億円に減る
(減り高0.45億円)って事。
大雑把に言えば、給与増額の半分は減税で戻るって事になるのかな。

原価率の高い企業、人件費率の高い企業ほど、戻ってくる税金の
額は少なくなる。
効率の良い企業ほど優遇されるという結果になる。


で、企業マインドはどうなんかしら。
先の見えないこの時期に、応じる企業があるのか知らん。
コロナ禍中でも業績が良い一部の企業では有り得るのかも知れんが、
大半の企業は賃上げどころじゃないでしょうよ。

統計的に言えば、6割の企業が赤字で法人税払ってない(払わなくて
済むように赤字にしてる?)から、そういう企業は税制優遇では動か
ないしね。
中小企業の多くは1.5%の賃上げにも応じないでしょ。


税の優遇は賃上げした時だけの一過性のものだけど、企業にとっては
賃上げは一過性の事ではなく、その後も原価高として続くんだよな。
だからこそ、先行きの企業業績を見越して賃上げ幅を決めるんだろ。

ただ、昨今の労働事情から見ると、退職してゆく高齢従業員が全国で
1000万人程度居るのに比して、新規労働参加者が600万人程度
だから、若者の賃上げが高齢者のリタイアで相殺される利点はある。
また、低賃金では人を雇えないという所もあるな。


一過性の税優遇を得るために賃上げしても、その後高齢者の大量退職
によって人件費が下がる。
なら、これに乗じて、とりあえず今回は賃上げしても良いかなって。
本末転倒だけどね。

逆に若者の多い企業などでは人件費抑制の方策として、高齢高賃金
の人のリストラが加速する恐れは多分にあるな。
一時的な退職金は出ても、高賃金者が減り、低賃金者が増える方が
将来的には良い方向だから。

この税制、よほど考えないと労働市場に大きなダメジを与えかねない。
税を下げれば賃金を上げるってな単純な話ではないし、見せかけの
賃上げが実は高齢者削減に使われないとも限らない。
本来の賃上げは、企業業績の上昇によってもたらされるべきで、姑息な
手段でもたらされても、持続性が無いだろう。


成長と分配って言うが、成長はないから、・・・・・。
物価だけが上がって、どうして豊かな生活になるんかねぇ。
碌な成長戦略も無いし、庶民の懐を温める施策は皆無やから、この
傾向(賃金は上がらないのに物価だけは上がる)は今後も長く続く
んだろう。