北方四島問題 | 悠釣亭のつぶやき

北方四島問題

このところの尖閣問題の陰に隠れて、殆んど表に出て
こなかった北方四島の返還問題はプーチン大統領の
『引き分け』発言以降、動き始めた感がある。
折りしも2月21日には森元総理がロシアを訪問し、
プーチン大統領と、この問題も含めて話し合いを持つ
事になっている。



ロシアはソ連時代から一貫して、日本の返還要求に
対してダンマリを決め込んできた。
ゴルバチョフやエリツィンの時代に僅かな兆しはあった
ものの、基本的に日本へ返還する積極的な動きは
皆無と言ってよかったわけだ。
では何故、ここに来て俄かに動き出したのか?
プーチンによる国内経済改革の一環として、ロシアの
永年の懸案であったシベリア開発の推進が主因と見る
のが妥当であろう。
資源国ロシアにとって、シベリアに眠る石油・ガスの
採掘は殆んど金鉱脈に近いものであろうが、如何せん、
開発資金不足で売り物にまで至っていないのである。
日本の技術と資金が使えれば、願ってもない事なのだ。


『引き分け』の意味する所は、恐らく、二島返還なので
あろうと推測されるが、ここで日本の国内世論が真っ二つ
に割れる。
あくまでも四島返還を求めるべきとする意見と、いやいや、
現実解を求めるべきだ、とりあえずは二島でも良いでは
ないかと。



歴史的に見ると、日本とロシアの間での平和的な国境線は
択捉島とウルップ島の間(即ち、四島)とした1855日露
和親条約に遡る。
勿論、間宮林蔵などの調査は樺太まで及んではいたが、
これは領土の意識が殆んどなかった時代の事。
その後、1875年に樺太・千島交換条約を結び、紛争の
絶えなかったこの地域を、ロシアが樺太、日本が四島、
その間の列島島嶼は日本領で共同統治とした。
そしてその後、日露戦争の勝利(ポーツマス条約)によって、
南樺太までを日本が領有する事になる。


従って、日本は先の大戦までは四島は勿論、南樺太と
千島列島を領有していた(ソ連は日露戦争で取られたと
いう)わけだ。

大戦中のヤルタ会談で、戦後の権益が話し合われた結果、
ソ連は南樺太と千島を取るという密約に至った。
そしてここからソ連の本領って言うか、ずる賢い所業が始まる。


8月8日に日ソ中立条約を一方的に破棄し、日本への宣戦
布告(一応、ヤルタ協定に応じた事になってるが、日本に
対しては一方的)、日本は8月14日にポツダム宣言を受諾
する事を決定。15日に終戦。
ソ連はその後も侵攻を続け、8月25日に南樺太を占領、
8月18日~8月31日までにウルップ島以北の北千島を
占領、8月28日~9月1日までに、北方領土の国後・択捉・
色丹島を占領、9月3日から5日にかけて歯舞群島を占領した。
その上、北海道北部も領有したい意向を示したが、ヤルタ
協定外としてアメリカに拒否されている。
サンフランシスコ講和条約締結が9月8日。
ソ連は終戦記念日を8月15日でなく、9月2日としている。


日本としての致命的な失策は、1951年、サンフランシスコ
講和条約において、日本は千島列島を放棄する。ヤルタ
協定のいう千島列島の範囲に、国後島・択捉島が含まれると
説明した事である。 この説明は1956年2月に取り消されたが、
ロシアはこれを根拠に、四島ではなく二島だろと言い続けて
きた訳だ。
その後の経緯は日本は『即時四島一括返還』、これに対し
ソ連・ロシアはダンマリまたは、返しても良いが日本からの
外国軍隊の撤退が条件とか、呑めぬ案ばかり。
国際司法裁判所への提訴も拒否されている。



四島問題はその後もくすぶり続けたが、1973年 に田中・
ブレジネフ会談の結果、日ソ間の諸問題を解決した後、
平和条約を締結することが合意された(日ソ共同声明)。
要は、四島問題が解決せんことには平和友好条約は
結べんよと言う日本の意思表示でもあったわけだ。
で、今も結ばれてはいない。


そんな訳だから、四島は歴史的にも国際法上も、日本の
領土であるのは明白としても、ロシアとしては、いやいや
国後島・択捉島は千島列島でしょと言う。
現実派は、とりあえず歯舞群島、色丹島の二島を返還させ、
あとの二島は継続審議と言う事でよいではないかという。
他にも、国後までの三島派、紛争解決には折半と言う案
(三島半案)もある。
二島だと四島の50%ではなく、7%の面積にしかならない
(面積は国後島・択捉島が圧倒的に大きい)のだが、
領海を入れると35~40%になり、漁業面では大きな利益
とはなるので、当面の現実解で妥協するのが早道と言う訳だ。
森元総理は三島派だったと記憶するが、自民党の意向
(四島一括返還後、平和条約)を持って話し合いに臨む訳
だから、必ずしも三島を主張する訳ではないと思うが、
どんな話の糸口や流れになるのかは予断を許さないわけだ。
ロシアがあくまでも二島という時はどうなるのかも含めて。


ロシア側もしたたかで、四島へ韓国や中国の視察団を受け
入れ、日本がカネを出さないなら、他と交渉してもエエんや
けど、と牽制する。



複雑な歴史を経る四島ではあるが、国際関係は理不尽が
そのままゴリ押しされるのが常の世界。
そこをどう上手く泳いで行くかが外交。
今回はその接点を垣間見る事になる。