発達がゆっくりなお子さんの言語訓練をしている言語聴覚士です。
いわゆる小児STと言われています。
現在はクリニック外来に常勤勤務して、十数年になります。
「話していたのに消えた」子どもたち
ASDのお子さんに関わっていると、
「まぁまぁ話していたのに、ある日突然発語が消えた」
というケースに出会うことがあります。
いわゆる「折れ線現象」と呼ばれるものです。
この現象、保護者の方にとってはかなり衝撃的ですし、
支援者側でも「予後が悪いのでは」と言われることが少なくありません。
現場で感じていた“ちょっとした違和感”
ただ、現場で長く関わっていると、少し違う印象もありました。
確かに一度発語は消えるのですが、
・また言葉が出てくる
・しかも、ゼロからのやり直しではない
・むしろ以前の段階までは比較的スムーズに戻る
というケースが多いのです。
そしてその後の発達も、
「折れ線がなかった子と比べて大きな差があるか?」
と言われると、正直そこまで差を感じない。
でもこれって、あくまで現場の感覚。
「自分の思い込みかもしれない」と、どこかで思っていました。
信州大学の研究が示したこと(要約)
そんな中で見つけたのが、信州大学の研究です。
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/medic/topics/2025/11/post-191.html
この研究では、
・折れ線現象を経験したASDの子どもたちを
・成人期まで長期的に追跡
した結果、
折れ線現象があったからといって、長期的な発達や社会適応に大きな悪影響があるとは限らない
ということが示されました。
さらに、
・言語や知的発達の最終的な到達点は大きく変わらないケースも多い
・一時的な後退があっても、回復・再獲得が可能
といった点が明らかになっています。
「やり直し」ではなかった
この研究を見て、
「あ、やっぱりそうだったんだ」
と思いました。
発語が消えると、
どうしても「振り出しに戻った」と捉えがちですが、
実際には
完全なリセットではなく、一時的な揺らぎ
なのかもしれません。
現場で感じていた
「前の段階までは意外とすぐ戻る」
という感覚とも一致します。
現場感覚も、捨てたものじゃない
エビデンスはもちろん大切です。
でも同時に、
日々の臨床の中で感じている違和感や実感も、
ちゃんと意味があるのかもしれません。
今回、
自分の中でなんとなく感じていたことが
研究で裏付けられたことで、
少し安心しましたし、ちょっと嬉しくもありました。
まとめ
・折れ線現象=予後不良とは限らない
・発語は「やり直し」ではなく「再開」に近い
・長期的には大きな差が出ないケースもある
