この笑いの意味は?

 

   英語はコミュニケーションツールです。とても便利なコミュニケーションツールです。大学生のとき初めて訪れたイギリスで、現地のひとに自分の話した英語が通じたときの喜び、興奮、感動はいつまでも忘れられません。中学1年生のときから、苦労して身に付けた英語がコミュニケーションツールとして役にたつとわかったとき、その苦労は吹き飛び、もっともっと英語が話せるようになりたいと思いました。

 

 ただコミュニケーションというのは言葉だけで成立するわけではないことも実感しています。何年も英語を勉強してきて片言の英語をしゃべる私より、相手がどこの国のひとであろうが日本語だけをひたすらしゃべり続けるひとのほうが、よっぽど心を通わせているシーンにもよく遭遇しました。

 

 言語以外のコミュニケーションツールのひとつに笑いがあると知ったのはつい最近のことです。英語のポッドキャストプログラム、Brain Onで”Why do we laugh?(なぜ私たちは笑うのか)”というテーマを取り上げていました。

 

 人はおかしいことや面白いことに反応するから笑うんだと、単純に考えていた私は、これを聴いて笑いの意味、奥深さを知り、笑いへの認識を新たにしました。

 

 おかしいこと、面白いことに反応して思わず笑ってしまう笑いはgoofiesと言うそうです。goofies は制御不能でこらえきれず、ひどいときは涙があふれ、お腹が痛くなってしまうような笑いです。

 

 それに対して、必ずしもおかしいことへの反応ではなく、なおかつ制御可能な笑いというのがあって、それはposed laughterと呼ぶのだとか。

 

 Posed laughterはさらにsoothing laughter(和らげる笑い)、reward laughter(賛同、賞賛の笑い)、teasing laughter(からかい、さげすみの笑い)と分類されていきます。

 

①soothing laughterは、緊張しすぎたときに緊張をほぐすために意図的に笑ってみるような笑いのことです。

 

②reward laughterはいっしょうけんめい頑張っている我が子を見つめる親の優しい微笑みを想像してみてください。

 

③teasing laughter は全然面白くない親父ギャグを聴かされたときの反応というところでしょうか。

 

 これらのposed laughterは私が今まで認識していた笑いと比べると、笑いとしては邪道、嘘笑いのような気がしてしまったわけですが、決してこれらは嘘笑いではなく、この笑いの裏にもちゃんと人間の意思が隠されていて、この笑いを通じて人は相手に自分の思いを伝えているというのです。

 

 そう言われてみるとposed laughterのteasing laughterなどは言葉にしようとしたら、いくつ言葉を並べても伝わるかわからない、微妙で複雑な感情を端的に伝えています。

 

 なるほど笑いは立派なミュニケーションツールなんですね。確かにひとりのときって滅多に、いえ全然、笑いません。誰かがいるから、相手となにかを分かち合いたいから、そこに笑いが起こるということなんですね。

 

 ところで笑いがとまらなくて窒息しそうになっている赤ちゃんはよく目にします。goofiesは0歳児でも難なくできるわけです。しかしposed laughterができるようになるのは10歳以降、30歳くらいになってようやく相手が発するposed laughterを受け止められるようになるのだそうです。複雑な感情の理解となれば、それなりに時間がかかるのも納得です。

 

 ということは、50年以上生きてきた私には長年の経験と、複雑な感情をキャッチする能力という武器があるわけで、英語にこの武器を加えたら鬼に金棒。より血の通った、深いコミュニケーションがとれるということではなかろうか。

 

 なーんて都合よく考えて、ひとりほくそ笑みました(これはきっとreward laughter)。言語の習得能力に関しては圧倒的に若いひとに軍配があがりますが、これからはコミュニケーションにおいて年齢は必ずしもマイナスな要素ではない!と、思うことにします。
 

 

※Brains on は英語の子ども向け科学番組。子どもの素朴な疑問に真剣に向き合っている番組です。大人と子どもがホストを務めていて、英語もとても聞きやすいです。ネットで検索すればスクリプトも手に入ります。