我が家のお隣は奥中山教会。

 

「毎年、イブ礼拝で坂道にロウソクを灯しますね。幻想的な光景がなんとも美しく多くの方々がこの景色を楽しみにされていることと思います。

このロウソクの残骸をウチの犬がよくくわえてしまいます。ちゃんとしつけていない飼い主の責任です。

でもやっぱり火の消えたろうそくは自然に帰るものではないので、そのまま放置して置いたのでは、投げ捨てた空き缶のようです。散らかしたままでは、せっかくの美しいクリスマスの思い出も半減してしまう気がします。

今年はいい思い出のクリスマスにしたいです。だからロウソクを灯すところからお手伝いします。声かけてください。そして片付けも一緒にしませんか? 雪が積もると見えなくなってしまうのでイブの夜に片付けるほうがラクではありますが、自然に消えるのを待ちたいというのであれば翌朝でも構いません」

 

今年のクリスマスを前に、お隣の教会の牧師夫人のKさんにこんなメールを送った。我が家の犬を飼い主よりも可愛がってくれる優しい牧師一家と仲違いしたくなかったので、ためらいはあったが、変に我慢して一方的にわだかまりを感じるより、思いを話して、一緒に作業することで、気持ちをスッキリさせたかった。すると、

 

「ご提案ありがとう。今まで気がつかなかったんだね。ごめんなさい。また連絡しますね。」という優しい返事が届いた。よかった。

 

そしてクリスマスイブの朝、牧師夫人から連絡がきて、牧師一家とカナン牧場で働く青年ふたりと坂道、通称“サンタロード”にろうそくを灯すはこびとなった。

 

教会の隣りに暮らして10年以上がたつ。クリスマスイブにろうそくを眺めるのは恒例だったけれど、実際に灯すのは初めての経験だった。

 

夕方4時、犬を散歩させにサンタロードにさしかかると、青年ふたりと牧師家のSちゃんの姿があった。Sちゃんがスコップを持ち、かまくらみたいな雪山を作っている。青年ふたりはしゃがんで雪山を掘っていた。

 

我が家の駄犬はかたっぱしからその雪山をずかずか踏み潰した。
「エイトっ!」
青年のひとりに叱られて、飼い主はようやくことの重大さに気付く。雪山のなかに青年たちがろうそくをたてていたのだ。

 

「すみませーん」と、飼い主は来た道を慌てて引き返し、犬をつないで、スコップを持って急いで準備にとりかかる。

 

Sちゃんがいともたやすくやっている雪山づくりだったが、なぜか私のはぺったんこの雪見だいふくみたいになってしまう。なかなか要領をつかめず苦戦しているうち、穴を掘ってろうそくをたてていた、Kくんがコツをつかんだと言って、どんどん横に迫ってきていた。

 

「ごめーん」
「いえいえ」
「毎年やってるの?」
「そうですね。去年も一昨年も、その前もだったかな」

 

知らなかった。聞けば彼とあとふたりの職場の同僚とで毎年やっていたそうだ。

 

ろうそくをたてるだけ、とあなどっていた作業が意外なくらい重労働で時間がかかることもわかっていなかった。日も暮れて気温も下がってきていたのに、1時間以上も作業していると、もこもこ着込んだ洋服や、毛糸の帽子の下は汗でぐっしょり。ろうそくに火を灯す午後6時を前に体力はすっかり尽きてしまった。

 

結局、点灯の瞬間は見逃してしまったのだけれど礼拝が始まって、人気のなくなったサンタロードに出向いてみると、いくつもの暖かいろうそくの灯が白い雪に反射して、星あかりのようにゆらゆらと揺れながら輝いていた。

「きれいだな」

そう思いながら消えてしまったろうそくに火をつけなおして行く。
今年のあかりはとりわけきれいに見えた。

 

家にもどってふたたびうつらうつらしていると、メールが届き、うろうそくのあと片付けがすんだと知らされる。あら、寝過ごしてしまったようだ。

 

だけど思い切ってメールして、今年いっしょに作業してよかったな、とつくづく思った。心に曇りがなくなったし、何よりとてもいいクリスマスの思い出ができた。

 

ヘトヘトになって汗だくになって作業しながらも、不思議と気分はとってもよく、「みんなでやると楽しいね」と隣のKくんに声をかけたら「はいっ!」とこれまた気持ちのよい答えが返ってきて、さらに気分がよくなった。あの感動は何よりのクリスマスプレゼントだった。

 

誰に誇ることもなく、人知れず、毎年、サンタロードにろうそくをセットしてくれていた青年たちと牧師一家の皆さん。みんな、この灯が一晩中、ろうそくがなくなるまでサンタロードを照らし続けているものと信じていただけなんだな。そう思った。本当にそうかはわからない。でもそういうことでいい。何より今年は、きれいに片付けまでしていただいたのだし。

 

サンタロードの名前の由来は、その昔はクリスマスイブには毎年、サンタに扮した誰かがソリに乗ってトナカイではなく、犬に引っ張られてこの坂道を下っていたからだそうだ。いつしかサンタは登場しなくなってしまったけれど、ろうそくのライトアップの慣習だけは今もなお続いているということらしい。

 

時々、奥中山教会のクリスマスの思い出を語って聞かせてくださるひとに出くわすことがある。「サンタがやってきて、お菓子をくれた」とかなんとか。決まって誰もが、遠くをみるような目をして、ちょっぴり自慢気に話すので、よほどいい思い出なんだろうなあ、と感じていた。

 

そんな方々に、いつかのクリスマスイブに奥中山教会に足を運んで、ろうそくでライトアップされたサンタロードを見てほしいものだ。

 

来年もぜひまたクリスマスイブにサンタロードにろうそくを灯しに行こう。