主人もカミングアウト? | グローバルに波乱万丈






やれやれやれ、やっとラマダンが終わった。


一年に一度、一ヶ月弱、日の出から日の入りまで断食をし、水も飲まないイスラム教の行事なのだけど、

うちの主人のような、なんちゃってイスラム教徒&その家族には、なんとも厄介な月。



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イギリス人のナニーに育てられ、フランチ・スクールに行き、ヨーロッパを旅し、

ジョニー・ウォーカーのブラック・ラベルとフランス文学をこよなく愛した、それはそれはモダンだった義父。

 (イスラム教では飲酒は罪。) 


そんな父親に育てられた主人が、宗教熱心なわけはなく、

単にイスラム教の国に生まれたからだけの、名ばかりのイスラム教徒。 



しかし、この街のモロッコ人コミュニティーに属し、人の上に立つ立場の主人としては、

「ラマダンしないだなんて!」 などと、あれこれ陰で言われてはいけないと、

毎年、友達の前でもラマダンしている演技。 空腹でぐったりしている演技。

この街のモロッコ人には、主人がラマダンをしないことを知る者はいない。


モロッコ人は男の人も女の人も大の噂好きなので、一人に知られたらコミュニティー皆に知られる羽目になる。




主人の休みの日、他のモロッコ人に見つからないように、サングラスをかけ、帽子を深くかぶり、

こそこそと、わざわざ遠くのカフェやレストラン内の奥で過ごすのが面毒さく、

妻の私は、「もういい加減、カミングアウトしたら?」 とブツブツ。




ラマダンの月は新月から新月なので、毎年11日ほど時期が早まっていくのだが、

今年は、暑くて、太陽が出ている時間が一年で一番長い真夏となり、最悪の時期のラマダンで、

それを理由に 「やってらんねーよ!」 とカミングアウトした人もかなりいるらしい。



主人の弟分のような友達も、主人にカミングアウトした。


それを聞いて、「へーーっ」 と驚くと、

「アイツ、しょちゅう朝早く電話してくるだろう? 

ラマダンしながらあんな時間に元気に電話してこれるわけないから、薄々感づいていたんだ。」

と、自分の勘の良さに得意そうな主人。


私が、「彼、あんな時間に元気に電話してくるのは、あなたがあんな時間に元気に電話に出るからで、

つまり、彼はあなたもラマダンしてないってことを、感づいてるってことじゃん。」

と返すと、主人は言葉を失い、目をぱちぱち。



主人はアメリカ生活が長いし、モロッコ人と結婚してないし、

私が、自分もイスラム教徒になりラマダンをするような “彼方の色に染まります” なタイプではなく、

“私の色の方が絶対にいいんだってばぁ” な妻であることを知る人は、

私と連れ添っている主人が、家庭で断食してるわけないと思っていることだろう。



「皆、感づいてるわよぉ。 前はあれだけいろんな人から、ラマダンのお菓子のお裾分けが来たじゃない。

毎年、くれる人が減ってるでしょ。 あなたがラマダンしないってバレバレだからよ。」 

そろそろ、カミングアウトしなさいってば。」



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大体、モロッコは、ワインを生産しているようなユルい国だし、

主人の家族のように、ヨーロッパの影響を受けている家庭で育った人達には、宗教熱心ではない人が多いし、

ラマダンをしてない人達がたくさんいるらしい。


「ラマダンしないだなんて!」 と人の陰口を言われるのを恐れ、

お互い、“この人はラマダンしてないんじゃないかな” と思いながら、

空腹でぐったりしている演技をし合っているのだろう。





実際、この街にあるディズニーワールドのモロッコ館に、毎年一年契約で50人くらいモロッコから働きに来るのだが、

今年のラマダンは、5人も、カミングアウトしてラマダンをしなかった若い人達がいるそうだ。


それを聞いて、

近々主人もカミングアウトし、休日には近くのカフェのテラスで堂々とお茶ができる日が来るのでは...

と期待する “私の色の方が絶対にいいんだってばぁ” な妻の私なのである。