回顧録: 息子への手紙 19 | グローバルに波乱万丈
Dear MY SON、

日本にいる間、突然、友達のボーイフレンドの後輩からプロポーズを受けました。 「貴女と息子さんを面倒みさせてください。」と、紫色のバラの大きなブーケをプレゼントしてくれたわ。  

年下のその彼は、みんなと一緒に数回会っただけ。 とてもいい人のようだったけど、まだ若い人だったし、貴方の父親になる人として満足できなかったの。 再婚だから、子持ちだからって、妥協なんかしたくなかった。 お断りしたわ。 結局は、「早く結婚させないとだめになってしまう。」という伯母の言葉が、引っかかっていたからでしょう。 

でも、本当の断った理由は、あのノルウェイ人の彼のことが頭にあったからだと思うわ。 養子の兄と彼を、同じ我が子として育てた彼の両親。 顔の見えない白人の老夫婦に、本当の孫として可愛がられる貴方の姿を何度も妄想していたわ。 パリに飛び、彼と会い、ロンドンの友達のところにはパリから列車で行くことに決めました。

先にパリに着いた私達は、彼が取ってくれたホテルにチェックインをし、日本で買った新しいワンピースを着て、貴方にも一番おしゃれな服を着せて、ボストンからの飛行機で来る彼を迎えにシャルル・ド・ゴールの空港に行きました。 ホテルで待っているものと思っていた彼は、びっくりしていたわ。 そして、嬉しそうに私達にキスをしてくれました。 覚えていた通りのハンサムな人でした。 

それからのパリでの数日は夢のようでした。 カルチェ・ラタンのビストロで食事をしたり、ルクセンブルグ公園を散歩したり。 人はきっと、私達三人を親子だと思ったことでしょう。 彼は、私には香水、貴方には車のおもちゃをプレゼントしてくれたわ。 

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あんな楽しい、幸せな思いをしたのは何年ぶりだったでしょうか。 慣れない、久しぶりのときめく気持ちに、私は混乱したのでしょう。 翌月にまたパリで会いたいと言う彼の言葉で、私は日本のマンションのことも何もかも忘れ、彼が住むオスロから近いロンドンでの暮らしを考え始めたの。 飛行機の中で偶然に隣りに座った彼。 あれは“運命の出会い”だったんだと、胸を躍らせたわ。 馬鹿な私。

まだドーバー海峡には海底トンネルができる前の話です。 パリから列車でカレーへ、フェリーでドーバーへ、そして列車でロンドンへ。 幸せいっぱいで長旅に苦痛を感じることもなく、高校時代の友達の待つロンドンの駅に貴方の手を引いて到着したわ。 ノッティンヒルに住んでいた友達はとてもよくしてくれ、ロンドンにアパートを借りるのを手助けしてくれました。 

同じヨーロッパにいるのだからと、何気なく古いオーストリアの友達に電話してみたの。 ウィーンに遊びに来るように誘われたわ。 またノルウェイ人の彼に会いにパリに戻る日までは数週間もあったし、毎日貴方をハイドパークの公園に連れて行く以外はすることもなかったし、何年も会っていないその友達の家族や他の友達にも会いたかったし、ウィーンに行くことにしたの。 それにそのオーストリアの彼があまりにも強引に誘うので、断ることもできませんでした。 

もちろん、貴方を連れ回すことに罪悪感を感じたけれど、貴方はどこでも愚図ることはなく、楽しそうだったわ。 でも本当は、貴方はお母さんの気持ちがわかっていて、あんなふうに明るくしていくれていたのかしら? 私は、自分がしていることは貴方の将来の幸せのためって、自分に言い訳をしていたのかも知れません。 ごめんね。

ウィーンでは思わぬことに巻き込まれてしまいます。

そのことは次の手紙で...


Love、MOM


追伸

私はそれ以来“運命”なんて信じません。 確かに自分ではコントロールできないことはあるけど、人生は自分次第だと思います。 よく考え、慎重に判断をし、しっかり自分の力で人生を切り開いていってください。 I love you with all my heart, and I will always love you no matter what. You are my son forever and ever.