忍ぶ可能性を引き出す経験 | グローバルに波乱万丈

10年ほど前にアメリカ心理学会会長によって提案された、“ポゼティブ心理学”という心理学の分野があります。
 
本来人間が持つ幸福の源を伸ばすことにより、より充実した人生を送るというところに焦点を置いた学問なのです。


その定義の一つの、

幸せになることを含め、人はいろんな可能性を秘めていて、それはポジティブな感情や経験から引き出される。


私は、本人も知らなかった可能性がひょんなことから引き出され、才能として伸びていくことがあると思うのです。



息子は、背の高い生徒達の中で目立たない、アメリカによくいるタイプの控え目なアジア人の子でした。 普通アジア人の子は成績がいいのですが、息子は勉強もスポーツも平均下、飛びぬけた才能もない生徒でした。


中学生の時でした。 私にとって、息子の成績表を開くことほど嫌なことはなかった時期。 科学研究をすれば生物のクラスでボーナス点をもらえるということでした。 息子には1点でもありがたい話でした。 

やる気のない息子の代わりに、私が何晩も徹夜をし、実験し、レポートを書き、発表のボードを作り提出させました。 なんと、ボーナス点が欲しかっただけなのに、息子の研究が学校で一番、区で一番、州で一番... 終いには、ディスカバリー・チャンネルのヤング科学者のコンテスト参加者として、選ばれてしまったのです。 

科学が好きなわけでもない息子は、保護者の私と同行で、収録のためにワシントンへ嫌々行くことになりました。 アメリカ中からやってくる39人の科学マニアの優等生と、四日も過すことが憂鬱なようでした。
 

確かに、息子にはかなり場違いの場所でした。 物理がテーマのスピーチ・コンテストもひどい結果。 研究も他の生徒のDNAのどうのこうのと比べたら、息子の研究など幼稚なもの。 でも、息子が輝いたのは休憩時間でした。 退屈なコンテストの反動で、ふざけて他の生徒を笑わせていました。


$モロッコ人、そしていろんな国の人のお話



大人しい、がり勉タイプの生徒達は、そんな息子がめずらしく、楽しかったのでしょう。 投票で息子を生徒代表のスピーカーに選んだのです。 終日の表彰式でスピーチをすることになりました。


表彰式前夜、毎日続く撮影や報道者の相手でくたくたの息子を、翌日のハードスケジュールのために休ませ、
私はホテルの部屋のバスルームの床に座り込んで、朝の三時までかけてスピーチを書きました。 翌日、息子は移動のバスの中で暗記。


表彰式のステージはカメラがいくつも設置され、まるでアカデミー賞のようでした。 どきどきの私にはそう思えただけかも。

司会はディスカバリー・チャンネルの人気番組、「怪しい伝説 (MYTHBUSTETRS)」の二人。

モロッコ人、そしていろんな国の人のお話



息子の前はゲスト・スピーカーは、オリンピックで金メダルをいくつも取った水泳選手、マイケル・フェルプス。

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それにも関わらず、息子はしっかりとステージに立ち、しっかりとスピーチをしたのでした。


            


式の後で、ミスバスターズの二人からも、マイケル・フェルプスからも褒めてもらっていました。



その日、息子の中で何かが変わったのです。 14歳の時でした。 誇り、自信、自尊心... ポジティブな感情。 息子の中で忍んでいた可能性をひき起こしたのです。 



あれから6年の年月が経ち、先週の金曜日、大学、大学院教授、上級生、他関係者など100人近くの前で息子はプレゼンテーションをしました。 そして、投票により、大学のプログラムで息子のアニメーションが選ばれたのです。

再来年の4月に向け、息子が監督として他の生徒達と共に3Dに作り上げ、コンテストに参加することになります。 

上手くいけば、アート・ディレクターになりたい息子にとって、映画、ゲーム業界に知ってもらえるいい機会となるでしょう。



あの成績の悪かった息子が、今では大学3年生。 

あの控え目で目立たないアジア人の生徒が、人前に立ち、他の生徒を指揮する監督。


あの日のポジティブな感情や経験が、息子の中の忍んでいた才能を伸ばしてくれたのです。



実は、

息子のアニメーションのストーリーの原作を書いたのは、母の私。 

息子達の可能性を引き起こすためなら、私は科学研究もする。 スピーチも書く。 原作のストーリーも書く。

これからも、息子達を伸ばすためなら徹夜をするでしょう。