「米は足りているので安心して」という政府の呼びかけもむなしく、いまだにスーパーの売り場に米は並んでいない。【画像】サトウのごはん、秋田産のあきたこまち 人気の「パックご飯」を見る(全12枚) そこでバカ売れしているのが「サトウのごはん」(サトウ食品)や「低温製法米のおいしいごはん」(アイリスオーヤマ)など、いわゆる「パックご飯」だ。 一部報道によれば、サトウ食品は8月22日に行った新商品発表会の中で「今春にライン増設が完了したが、需要拡大を受けて工場の拡張を決定した」と明かした。 実はこれは米業界にとっては久々に明るいニュースだ。「コメがない」「コメ不足だ」と大騒ぎをしているわりに実は、日本人はそれほど米を食べていないからだ。総務省統計局の家計調査によると、2014~23年まで10年連続で1世帯当たりのパンの支出額が、米の支出額を上回っている。また農林水産省によれば、米の年間需要量は毎年約10万トンずつ減少。おいしいご飯を炊く「炊飯器」の2023年国内出荷台数は約470万台で、2010年に比べて160万台減少している。 そんな深刻な「コメ離れ」が進行している中で孤軍奮闘というか、右肩上がりで販売量を増やしているのがパックご飯だ。
「パックご飯」「レトルト米飯」が売れている
食品需給研究センターが発表している「食品産業動態調査」によると、パックご飯(無菌包装米飯)に「レトルト米飯」を合わせた年間生産量は、2023年に25万367トン。ここ数年で増加している。 今回のようなコメ不足がまたいつ起こるか分からないところに加えて、日本には台風や巨大地震がわんさかと控えている。非常食として備蓄しつつ、日常的にちょこちょこ食べて補充をしていく、という「ローリングストック法」にもパックご飯はピッタリであり、今後もさらに市場拡大が予想されるのだ。 ……という話を聞くと、「確かに便利だけど、やっぱり炊き立てにはかなわない。9月に入れば米の供給は徐々に戻るって話だし、米を買いだめして保存しておいたほうがいい」と感じる方も多いかもしれない。 個人のメリット的なことを言えば確かにそうなるかもしれない。しかし、パックご飯を国民みんなで買ってこの分野を盛り上げることは「日本のため」にもなる。多くの日本人を「飢え」から救うことになるのだ。 一体どういうことか、順を追ってご説明しよう。
パックご飯が日本を救う理由
ご存じのように、日本の食料自給率は38%と先進国の中でダントツに低い。米国や東南アジアはもちろん、隣の中国などに多くを依存している。そのため「有事」が起きてシーレーン(有事に際して確保すべき海上交通路のこと)が分断されてしまうような事態が起きた際には、食料の輸入がストップして、多くの日本人が飢えることが予想されている。 これが「悲観シナリオ」でも何でもないことは、農林水産省の「食料の安定供給と不測時の食料安全保障について」という資料を見れば分かる。同資料では日本が深刻な食糧不足に陥ったときに、国民生活安定緊急措置法という法律に基づいて国民の理解の下に規制を強めていくというシナリオがまとめられている。 その中には「1人1日当たり供給熱量が2000kcalを下回ると予測される場合を目安」というレベル2の食糧危機に陥ったら、こうすべきという指針がはっきりと記されている。 「供給熱量確保のため、小麦、大豆等を増産しつつ、地域の農業生産の実態も踏まえ、熱量効率の高いいも類への生産転換を実施」 つまり、食料自給率が38%しかないこの国で何らかの「有事」が起きた際には、昔やったようにサツモイモをかじって頑張ろうというわけだ。ちなみに、太平洋戦争が始まる前の1939年の食料自給率は86%もあった。にもかかわらず、あれだけの人が飢えて死んだ。38%ではどんな阿鼻叫喚の地獄が訪れるのかは想像できよう。
「飢えるニッポン」を避けるには
では、そんな「飢えるニッポン」を避けるためにわれわれはどうすべきか。注目されているのが「食料安全保障」だ。 当たり前の話だが、国家というものは国民を決して飢えさせてはいけない。だから基本的には戦争や天変地異が起きたときに備えて、自国内の食料自給率を高めておくものだ。 といっても無計画にたくさん生産させてしまうと、過剰供給で価格が暴落し、農家や畜産家が廃業に追い込まれる。そこでとりあえずたくさん生産させた食料を国内に流通させるだけではなく、他国にも売りつける。つまり、「自由貿易」にもっていく。 もし何かしらの「有事」が起きたときは、輸出をストップして国内市場にまわす。そこで再び生産が戻ってきたら今度は過剰供給しないようにそれを輸出に当てる。もちろん、海外の顧客に迷惑をかけてしまうわけだが、やはり自国民を飢えさせないことを優先する考え方で、「輸出」を国内需給の調整弁にしているというわけだ。 米国やオーストラリアの牛肉が分かりやすいが、米ということではやはりインドだろう。 農業国として知られるインドの食料自給率は100%。しかし約14億の人口を擁するだけあって、いつ「有事」で食料が不足するかも分からない。そこで「減反」とか愚かなことはせず、せっせと米を生産して海外に輸出している。現在、インドは年間1000万~2000万トンを輸出して、世界に流通する米の約4割を占めている。もし何か「有事」が起きたとき、この1000万トンを引き上げれば14億の国民が飢えずに済むというワケだ。 実際、2023年7月にはインド国内の供給確保などを優先するために米の輸出禁止を決め、世界の食料価格にも大きな影響を与えた。 では、このように世界各国が着々と食料安全保障に力を入れる中で、われらが日本の米は果たしてどれくらい輸出をしているのか。農林水産省の資料によれば、2023年は3万7186トンだ。同年の主食用米の収穫量は約661万トンなので、その0.6%しか輸出していない。食料自給率38%のこの国では「焼石に水」というレベルだ。
なぜ米の輸出量が増えないのか
もちろん、農林水産省も「輸出を増やすのが喫緊の課題」として力を入れているのだが、なんともパッとしない。この原因は輸送コストが高いなど、さまざまなことが言われているが、根本的なところでは「個人経営の農家が多い」ことが挙げられる。 同省によれば、全国の農業経営体数は約92万9400だが、団体経営体は4万700しかない。圧倒的に個人経営が多い世界だ。「輸入」はもともと煩雑な関税手続きや、海外企業と価格の交渉が必要なので、個人零細企業にはハードルが高い。しかも「農作物」の輸入は、現地の規制当局の審査などもあって、あれやこれやと面倒なのだ。 つまり、日本の米の輸出量が圧倒的に少ないのは、小さな農家があふれているという「規模」がネックとなっており、農業が「家業」のままで、ほとんどビジネス化されていない構造的な問題が大きいのだ。 ここを変えていくには正直、まだウン十年もかかる。その間に世界的な食料危機が起きれば、あっという間に日本人は飢えてしまうだろう。 そこで米の輸出をドカンと増やす「裏技」として業界のみならず、農家にも注目を集めているのが、パックご飯だ。
パックご飯の輸出は右肩上がりで増加
例えば、米の生産から加工・販売までを行う「大潟村あきたこまち生産者協会」の涌井徹会長はこんなことをおっしゃっている。「海外については、お米そのものを輸出するにはさまざまなハードルがあり簡単にはいかないのですが、パックご飯は比較的輸出がしやすいこともあり、最終的に米を輸出するための戦略商品としても有望な商品だと考えています」(秋田県環日本海交流推進協議会の公式Webサイト) 実際、この言葉を裏付けるように、パックご飯の輸出は右肩上がりで増えている。2023年の輸出数量は1593トンで対前年比+15%となり、直近4年間で輸出額が倍増しているのだ。 そして何よりもパックご飯を日本の戦略商品にすべき理由として、「米よりも売りやすい」ことがある。 先ほども述べたように、米の輸出はいろいろと面倒なところに加えて、輸出先の国での売り方が難しい。世界では米食がそれほど浸透していない人たちが多いからだ。しかし、パックご飯はそのような国でも売りやすい。電子レンジや湯せんであたためるだけなので手軽に食べられる。炊飯器はいらないし、業務用でもいけるし、スーパーのような一般消費者向けの小売もいける。 現在、パックご飯の輸出先は米国、香港、台湾がメインで、韓国、シンガポール、ミャンマーが続いているが、米食がそれほどメジャーではない欧州、アフリカ、南米などに進出も可能なのだ。
パックご飯を世界に広げるには
実際に業界としては既に「世界」を見据えて動き出している。全国包装米飯協会は2023年10月27~29日の3日間、成田空港で日本から去っていく外国人観光客にパックご飯2000個を無料配布した。 日本観光の余韻に浸った外国人観光客が、こういう「日本土産」を自国に持ち帰る。もし日本食に魅せられた人の場合は、日本の米のおいしさとパックご飯の便利さを家族や友人に宣伝をしてくれるだろう。口コミでパックご飯のおいしさが伝わるかもしれない、というワケだ。 このような戦略でパックご飯の輸出を右肩上がりで増やしていけば、それは結局のところ日本の米の輸出も増やすことになる。原料を供給する農家側も、生産量を上げていくことも求められる。 つまり、パックご飯が世界に広まれば、日本の食料安全保障はかなり強化されていくということだ。 もちろん、海外にもパックご飯はあるので一筋縄ではいかないだろう。競争に勝つためにはただ単に米のおいしさだけで勝負するのではなく、外国人にも人気の「牛丼」や「親子丼」のような日本独自のパッケージをつくって売っていく必要もあるかもしれない。 ただ、そこは「カップヌードル」などの世界的ヒット商品をつくった日本である。言葉や文化の違う人たちをうならせる、革新的なパックご飯を開発していけるのではないか。 いずれにせよ、今回のコメ不足からも分かるように、日本の食料事情は皆さんが思っている以上に脆弱(ぜいじゃく)だ。世界的な食料危機が起きたとき、各国はまず自国民のために食料を確保をする。そうなると食料自給率38%の日本には何も入ってこない。「日本人は世界で最も早く飢える」と言われるゆえんだ。 食料安全保障のためにも、そして災害の備えのためにも、パックご飯という戦略商品を介して米の生産量をどうにかして増やしていくしか、日本人が飢えを回避する道はないのではないか。(窪田順生)
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あい「まぁ10キロの米を買うよりパックごはんのほうが楽なのは確かだけど笑笑
炊く手間もないからね。」