理不尽に怒鳴り散らす、勝手に動画撮影…。客による迷惑行為が社会問題化する中、閉店にまで追い込まれる店舗がある。地元住民に長年愛され、今年3月に閉店した鹿児島県の温浴施設もその一つ。物価高騰のあおりに加え、一部の男性利用者同士の性的な不適切行為も影響した。こうした施設は裏で「ハッテン場」と呼ばれるようになり、迷惑を被る銭湯やサウナは他にもある。健全な浴場文化を守りたい経営者や組合は、モラルなき迷惑行為に頭を抱えている。
■突然の閉店「モラルない行為で」《施設設備の老朽化と昨今の燃料費等の高騰、モラルのないお客さまの行為により温泉事業を続けていくことが大変困難となってしまいました》鹿児島市にある温浴施設が閉店を発表したのは昨年12月。告知するホームページや張り紙にはこう記されていた。日々の疲れを気軽に癒やしてほしいと平成2年に開業し、午前4時から翌午前2時まで営業していた。大浴場や電気風呂、サウナなどを備え、安価な料金で入浴できることから地域のお年寄りや家族連れに人気だった。「経営難の問題もあっただろうが、利用者の迷惑行為の影響も大きい」。この施設が加盟していた鹿児島県公衆浴場業生活衛生同業組合副理事長、永用(ながよう)八郎さん(70)は声を落とす。永用さんによると10年ほど前から、施設内では男性利用者同士の性的不適切行為が目撃されるようになり、経営者は頭を悩ましていたという。行為の大半は利用者が少なくなる深夜の時間帯。ときには一般利用者を誘ったり、行為を見せつけたりする事例も組合に報告された。施設側は不適切行為を禁止する張り紙をはったり、従業員の巡回回数を増やしたりと対策を強化。悪質な場合は出禁措置も取った。ただ、根絶することはできず、「俺たちのおかげで経営が成り立っているんだろう」。耳を疑うような言葉を放つ利用者もいたという。閉店までの約5年間ほぼ毎日のように通っていたという鹿児島市の男性(70)は「私も浴場内で付きまとわれたことがある。警察が来ていたこともあり、店にとっては大きな迷惑だっただろう」と証言。「従業員の対応がよく、住民との交流の場にもなっていた。閉店は非常に残念」と話す。