『オッペンハイマー』

【原題】Oppenheimer

【製作年】2023年【製作国】アメリカ

【監督】クリストファー・ノーラン

【主なキャスト】キリアン・マーフィー、 エミリー・ブラント、 マット・デイモン、 ロバート・ダウニー・Jr.、 フローレンス・ピュー、 ジョシュ・ハートネット、 ケイシー・アフレック、 ラミ・マレック、 ケネス・ブラナー、 ディラン・アーノルド、 デビッド・クラムホルツ、 マシュー・モディーン、 ジェファーソン・ホール、 ベニー・サフディ、 デビッド・ダストマルチャン、 トム・コンティ




落ちていく雨粒から始まり、次々と現れる、解像度の高い 迫力ある映像。

魅入りました。


凄い造形力、素晴らしい音楽、主役級ズラリの豪華キャスト。

今 考えられる、最高峰の映画なのでしょう。


自分の周囲でも、絶賛しないといけない空気になっていますが…

私は、複雑な気持ちになりました。


ノーラン監督作品は、いつも何度か観る (1度では理解できないことが多いからでも口笛) けれど、今作は、もういいかな? というのが、今の気持ちです。



こんな映画を撮ることができるなんて。 素晴らしいのは間違いありません。


けれど、(自分の理解力不足なのかもしれませんが) いろいろとモヤモヤするのです。

気になったこと、好きだった点などを記します。



◆日本への原爆投下をサラッとしか描いていないのは、この映画は物理学者オッペンハイマーの伝記なのだから、仕方ないと理解できました。



一方、その前のトリニティ実験には、かなり尺を使っていました。

彼らの熱量とは対照的に、私はどんどん低温になるものの、観続けると…

成功に歓喜する、研究所の面々が映し出され、泣きそうになりましたショボーン


後に『忘れられた犠牲』と呼ばれるわけですが… 付近に住んでいる人々のことを、これっぽっちも考えていなかった彼ら。 


作っておきながら、原爆の威力や恐ろしさを正しく知らなかったから、成し遂げた喜びの気持ちだけだったのでしょう。

この感覚が、日本への投下に繋がっていくのかと思うと、悲しかったえーん


先住民のことを気遣う人を、ひとりでも描いてくれていたら、まだ救いがあったのですが。



◆『ひとりの天才科学者オッペンハイマーが…』(意訳) という予告編に、違和感を抱いていたのですが…


これはプロジェクトだった。分業で、各分野の天才が集められた。

オッペンハイマーは、プロジェクトリーダーだった。

ということが描かれていたので、その点はホッとしました。


日本への投下に反対しなかった責任はありますが、『原爆の父』として、彼 “だけ” を責めるのは、間違っているということはわかりました。

実行したのは政府なのですし。


当初のターゲットはドイツ、彼はユダヤ系、というのもあるでしょうが、

何より、物理学者として、抑えきれない探究心があったのだと感じました。


それに、彼らが作らなくても、他の誰かが作っていたことでしょう。

他より早く作ることができた彼ら。

(彼らにとって) 成功後は、誇りと共に、当然ですが、重いものも抱えて生きることになった。

しんどい人生だなと、少し気の毒になりました。 


憂いある瞳の、キリアン・マーフィーが演じた効果が大きいと思います。



◆ “なんだかなあ” を連発してしまった、主人公 J・ロバート・オッペンハイマーの、人となり。

エゴの塊で、神経質で、皮肉屋で、女性関係だらしなく、カッコつけマンで… 

脇が甘いのがチャームポイント?

こんな人物、近くにいたらドン引きです爆笑



でも、『オッピー』と呼ばれ、仲間に慕われているように映りました。

人を惹きつける魅力があったのか?

物理学者としてというより、リーダーシップや交渉能力が、優れていたのでしょうか?


ノーラン監督は、オッペンハイマーに拘りがあったのか…

『テネット』でも、『オッペンハイマー』というワードが出てきたと記憶しています。 確か、インド系の女性と主人公との会話の中で。

あのシーンで、自分がピクッとなったことを思い出しましたが、


監督が伝記にしようと考えた、オッペンハイマーの魅力が、私には、今ひとつ わかりませんでした。



◆時間配分に少々難アリ、と私は思いました。(好みの問題ですが)

特に、ストローズとの確執に、尺をとり過ぎじゃないかと思うのです。


モノクロとカラーに分けて描かれ、そこが見どころだ、という方も多いでしょうが… なんだか “赤狩り” メインの映画みたいに感じられました。


それは、オッペンハイマーの苦悩を描くのに、必要な要素でしょうが…

あんな茶番劇に時間を使うなら、


日本へ投下するまでのやり取りや、投下後の葛藤に、もっと時間をかけてほしかったです。

それこそが、最重要項目だと思っていたので、非常に残念でした。



卑屈で、粘着質で、野心家だけど、大したことない男、ストローズ。 

彼の仕組んだ、あの聴聞会は、聞くに堪えなかったです。 

おかげで、ロバート・ダウニー・Jr. が、大嫌いになりました爆笑



◆私が、“オモロ” と感じたのは…

魅力的で、只者ではない妻と愛人。

オッペンハイマーには、あれくらいエキセントリックな女性が お似合いなのかもしれません。

彼女たちに、ゾクゾクしました口笛


ラミ・マレックが、小さいけれど印象的な役を演っていたのは、嬉しかった。

良心ある科学者でした。


そして、笑顔のアインシュタインに癒やされました。 可愛かったなウインク



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ノーラン監督が、今作を作った理由の一つは、若い世代に、原爆について知ってほしかったからだそうですが…


それなら伝記ではなく、例えば『マンハッタン計画』というタイトルで、正面切って、描いてほしかった。


原爆投下を肯定も否定もせず、判断するのは観た人、というスタンスだというのも…

(ノーラン作品にありがちとはいえ) 今回に限っては、ズルい気がします。

諸事情は、推察できるけれども。




日本人は、第三者として観られないのが悲しいし、残念でもありますが…

改めて、戦争や人間の愚かさを考える時間になりました。


劇場公開してくださったことに感謝しています。