安全神話の罠 | 中小企業診断士グループ“YTD”のブログ

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福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書/ディスカヴァー・トゥエンティワン

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福島第一原発の中で必死に働いた作業員の方の体験談をプロローグとして始まり、経緯をまとめた「第1部 事故・被害の経緯」、
官邸の事故対応を含めた「第2部 原発事故への対応」、原子力ムラの構造に踏み込んでいく、「第3部 歴史的・構造的要因の分析」、
国際協力の枠組みを検証した「第4部 グローバル・コンテクスト」。民間事故調の「真実、独立、世界」をモットーとする独自の視点からまとめられた報告書です。
公式HPより


ゆんたくです。

本書を発行した財団法人日本再建イニシアティブは、民間の独立した立場から3.11以降の日本再建に向けた提言活動を行っている。その中の活動の一つの成果がこの報告書だ。

震災以降起きた福島原子力発電所の事故について、
1部(事故・被害の経緯)、2部(原発事故への対応)において、津波への備えが十分でなかった事が事故の最大の原因として示され、3部(歴史的・構造的要因の分析)においてその背景・構造を分析している。

そこで出てくるキーワードが「安全神話」である。“原発は安全であるという漠然とした思い込み”が津波対策を軽んじ、遅らせてしまった事が指摘されている。

「安全神話」を生み出したのは一義的には推進する側の政府・行政・電力事業者たちである。国策として推進されてきた原子力を正当化するため、高度経済成長期は夢のエネルギー、近年では二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーというポジティブなイメージを付与してきたのは確かである。しかし、一方で過激な反対派の批判が、失敗は許されないという推進側の防衛本能を刺激し、安全神話の理論武装をより強めていったという側面も確かにあるのである。

そして忘れてはならないのが、もう一方の当事者である原発受け入れ側の立地地域の住民も安全神話を強化する側に回っていたという点だ。
それが典型的に表れているのが、元社会党である双葉町々長の2003年時の発言だ。
「わが国の原子力発電所は放射能を完全に閉じ込める機能を十分に持っていると思っています。アメリカのスリーマイル島の原子力発電所の事故とか、ソ連のチェルノブイリ発電所の事故とか、あのような事故につながっていくことが日本の原発ではまずないと思っているのです。(略)そのように信じて対応していかないと、これからの原子力行政に自ら携わっていくことができなくなります。(略)私はどのようなことがあっても原子力発電の推進だけは信じて生きたい。それだけは崩してはいけないと思っています。」

特徴的なのが“思っている”や“信じている”という言葉だ。とても原子力発電所の安全性に責任を持って説明する立場にあるものが言うべき言葉とは思えない。
しかしもともと原子力立地地域は過疎地に位置し、原発以外の代替産業育成は見込めない。ここで原発という選択肢を捨ててしまったら、税収・雇用あらゆる側面で町の経営は立ち行かなくなるのは目に見えており、首長として他の選択肢を示すことができなかったのだろう。

つまり、中央・地域双方で原子力への期待・依存が高まり、原子力以外の選択肢が無いという雰囲気の中で、当事者たちは唯一の選択肢を正当化すべく認知や思考をねじまげる。そして当事者達が繰り返す主張を一般国民も漠然とながら受け入れていくという一連のプロセスが、安全神話の構造なのだ。

批判・検証機能を失った意思決定のメカニズムは極めて危ういということを私たちは肝に銘じなければならない。


【診断士的学び】
「信じるしかない」という言葉が使われ始めたら要注意。「信じるしかない」選択肢をもう一度見直し、場合によってはそれを捨てる事も辞さない覚悟が必要。


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