『大山倍達の遺言』~カリスマ亡き後の組織の行方 | 中小企業診断士グループ“YTD”のブログ

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大山倍達の遺言/新潮社

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極真会館の大分裂騒動の真実とは? 528ページに及ぶ渾身ドキュメント!総裁・大山倍達の死後、散り散りに割れた世界最大の実戦空手団体「極真会館」。関係者たちの膨大な証言をもとに、その分裂騒動のすべてを明らかに! 衝撃の真実が次々と浮かび上がる……。全空手関係者&格闘技ファンの度肝を抜く、超大作ノンフィクション完成。稀代の空手家の遺志は、いかにして踏みにじられたのか?
(「BOOK」データベースより)

ゆんたくです。

大山倍達は極真空手の元総帥で、梶原一騎原作の劇画「空手バカ一代」でモデルとなった人物である。間違いなく戦後の日本格闘技界が生んだ最大のカリスマの一人だ。影響を与えている期間で言うと力道山を超え、世界での知名度で言うとアントニオ猪木を抜いている。

その大山倍達が1994年になくなったとき、極真空手は世界140ヶ国に公認支部道場を置き、門弟1,200万人を超える巨大組織となっていた。それが今では10を超える組織に分裂している。この本はその帝国の継承をめぐって遺族・高弟たちが争い、分裂していく様子を描いたドキュメンタリーだ。

遺言の正当性をめぐる法廷闘争から、智弥子夫人争奪戦、聖地である池袋総本部占拠といったそれこそ劇画的要素がこれでもかと詰まっていて、権力をめぐって争わずにはいられない人間の業の深さを感じずにはいられない。著者も「主張はできる限り入れずに事実のみを記す」と前書きで謳ってはいるものの、ところどころに高ぶった感情的表現が混じり、この問題に対して客観的な態度を取り続けることができない複雑な想いが見てとれる。

もっともノンフィクションとして抜群に面白いのは間違いないものの、経営的視点で見ると問題の所在はありきたりだ。それは大山倍達が生前にサクセッションプランを明確にしていなかったところにある。サクセッションプランとは後継者育成計画と訳されるが、それだけにとどまらず後継者が組織にスムーズに受けられるためのプロセス・環境づくりも含む。

大山倍達は生前から松井章圭が後継者だと折に触れて語っていた節はあるようだ。しかしそれは決してオーソライズされたものではなかったし、それが故に自分こそが後継者にふさわしいと思い込んでいた高弟たちが何人もいた。後継者の名前とその正統性を大山倍達自らの声で公に明言する必要があったのだ。それさえ出来ていれば、カリスマの死による多少の混乱は避けられないにせよ、被害は最小限に食い止められたはずなのだ。

サクセッションプランの成功例として経営史的に有名なのはGEの事例だ。
カリスマ経営者であるジャック・ウェルチの後任を決めるためのプログラムはウェルチがCEOに就任した直後から進められていた。つまり20年近く前から計画が進んでいた事になる。そして念入りな選考が長期にわたって行われ、最終候補として3人に絞られた。
残ったメンバーにはそれぞれ経営課題を与えられ、それを数年に渡り競った。その間ジャック・ウェルチは1名が選出された際には残りの2名はGEを辞めてもらうことを明言している。同程度の力量を持つ人材が社内にいることによって社内統制が取れなくなる可能性を経営リスクと考えたからだ。最終的にジェフ・イメルトが次期CEOに選出された際には、選に漏れた残る2名は3M、ホームデポというアメリカを代表する大企業のCEOとして直ちにヘッドハントされ、権限委譲はスムーズに進んだ。

極真会館の場合もこのように洗練されたやり方が出来たのではないかと残念でならない。

【診断士的学び】
カリスマ経営を行ってきた組織ほど、後継者の選定プロセスは明確にし、引き継ぎ期間は十分に時間を取るべし。

※GEの後継者選定プロセスについては下記の本に詳しく書いていますので、ご参考ください。
ジャック・ウェルチ わが経営(下) (日経ビジネス人文庫)/日本経済新聞社

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