『あー!!

突然リビングで大声が上がった。

もうすぐ眠りに就こうとしていた我が家に、嵐が訪れた。

声の主はオカモト家5人兄弟の、上4人。


末っ子コー丸を除く全メンバーが、

目の前の惨状に、

声をあげていた。


『コーキが、ラミちゃんとコンちゃん(←金魚の名前)にエサやり過ぎてるっ!!

見てみると、買ってきたばかりのエサが、半分以上、水槽に投入されていた。


水面はエサに覆われ、水は濁っている。

ラミちゃんもコンちゃんも苦しそうだ。


母ヤスヨは、2歳のコー丸を見据え、大きな声をあげた。


『コラーっむかっプンプンむかっラミちゃんが苦しいでしょっプンプン雷

コー丸が、エサを与え過ぎるのは、

これで、3回目。

袋のほぼ全てを投入し、水面に浮かびきれなかったエサが沈殿し

水槽は、エサだらけになった。

きっとコー丸は、お世話をしたくて、たまらなかったのだと思う。

決していたずらではないことも、母は分かっていた。

もちろん、母ヤスヨも最初から、怒号を上げていたのではない。

同じことが3度も続いたから、

しかも、この期に及んで、ヘラヘラとふざけていたから、(←まだ2歳されど2歳

声を荒らげたのである。

母の声は、我が家のリビングから、

一瞬にしてそれまでのにぎやかさを奪った。

突如静寂が訪れる。

両眼にお互いを捉える母ヤスヨと末っ子コー丸。

2歳の息子は、硬直していた。

瞬時に、ニヤニヤ笑っていた顔から、

神妙な面持ちに変わった。

母は、幼くとも、この緊張感を全身で感じ取る

2歳児の姿に、少し感じ入りながら、

我が子を抱きしめたい衝動を必死にこらえて、

強面の表情を崩さなかった。

どれくらいの時間が流れたであろうか。。

外野の兄や姉の「ごめんなさいっていうんだよ!!」という

援護射撃を受けて、

か細い声で、コー丸は呟いた。

『ごーしゃーい・・・(ごめんなさい。。。)』

母ヤスヨは、深くうなずき、

もうしないように、約束させた。

コー丸は、父に抱かれた。

きっと母が怖かったに違いない。

父に抱かれていても、

母の腕をつかみ、母の顔を覗き込み、

必死に笑いかけた。

必死に母を恐れる気持ちを押し殺して、

必死に笑いかけた。

顔を引きつらせながら、

母に向けて、精一杯の笑顔を振りまいた。

きっと、彼は、母に笑ってほしくて仕方なかった。

母の笑顔を見るまでは、お互いの距離が縮まることはないと

本能的に感じ取っていたのかもしれない。

必死に笑いかけたてくれた。。。顔を引きつらせて。。。

父は息子から身を委ねられ、充足感に満ちた顔で息子を抱き締めながら、慰めていた。



父からの抱擁は、息子にとってあまり大きな関心事ではなかった。

2歳児の全ての意識は、強面の母に向けられていたのである。


ついに母が笑った。

覗き込む息子の笑顔に呼応するように、

母が笑った。

母に笑顔が戻ったのを確認した瞬間、

息子は笑顔で、父の腕の中から飛び立とうとした。

『ママぁぁぁ~!!』

満面の笑顔で、両手を広げ、母の胸に抱かれようとする。

母は、ギュッと強く強く抱きしめた。

たまらなく、愛しかった。

母の抱擁に、

息子は、苦しくて、咳き込みそうになりながらも、笑顔を貫いた。

母と子の距離が、無くなった瞬間だった。

母と息子は、枕を並べて一緒に寝床につく。

息子は眠るまで、ずーーーっと

『ママ!ママ!ママ!』と言い続ける。

多分、母のほうが、先に寝てしまったかもしれない。。。

朝目覚めると、母の顔は、息子の胸に抱かれていた。

母はなんともいえない穏やかな気持ちになった。

ずっとこのままでいたいと思った。

誰かから必要とされる幸せを、心から感じた瞬間だった。

子どもは常に、母親を求めてる。

小さければ、小さいほど、

素直に、その思いをぶつけてくる。

その想いに、母はいつまでも、

応えることを怠けちゃいけないと

改めて思ったのです。

それが、母である、私の生きる道。

母になった私が選んだ道。

与えられた時間の限り、

母は、母であることに、夢中になろうと思うのです。

子ども達の穏やかな寝顔を眺めながら、、

一人静かに心を決めるのです。

きょうもありがとう。

そしてこれからもよろしくね。

ご訪問ご精読、ありがとうございました♪